第36話 誰にだって夢中になるものの一つや二つ(3)

「ん、エリシスどうした?」


「うずうず……フィーグさん、あの……わたくしも加勢して良いでしょうか?」



 エリシスの手には、折れて短くなった釘バットが握られていた。

 短くなったとは言え、見た目は凶悪だ。


 彼女は貴重な回復役でもある。



「回復魔法の起動もしないと……」


「もちろんです! どちらも頑張りますわ!」


「そ、そうか? じゃあ、リリアの支援をたのむ」


 んんっ?

 エリシスの瞳がギラつきはじめた。



「回復優先で頼むぞ……」


「おーほほほほほほほ!」



 駆け出すエリシスが釘バットを上に掲げ、突撃していく。

 狂気と正気の狭間で揺れ動いているように見える。


 リリアに助太刀するエリシスの姿は狂戦士そのものだ。

 エリシスが聖女? 本当に?



《【聖女:祝福ブレス】は、暴走状態の【狂戦士】を用いて、【聖女:トキ】に魔改造されました》


「加勢しますわよ! うららああぁ! 滅びなさいッ!

 全軍、突撃!!! ですわっ!」



 っていうか、全員? 俺も?

 俺は後方で指揮やスキルの整備を行う役目だけど……。


 エリシスのかけ声に、リリアや俺たちの体が仄かに光った。

 なんか力が湧いてきている!?



トキにより、パーティ全員の腕力が100%向上しました。

 防御力が100%向上しました。

 体力が回復しました。一定時間自動回復します。

 魔力が回復しました。一定時間自動回復します。

 士気が100%向上しました。


 ——士気が正常範囲を超えたため、狂瀾状態になりました。》



 強力な能力向上バフだが、どうも行き過ぎたようだ。

 狂瀾。確かこれは狂気に近いが、少し違う。



「攻撃しますっ!! 大嫌いなオーガにだって負けませんッ!

 ——殲滅します!」



 リリアの様子がおかしい。

 腕を大きく振りかぶり、オーガに駆け出し剣を振っている。


 しかし、リリアが繰り出すのは無茶苦茶な攻撃に見えて、実際は冷静に相手の動きを見ている。

 攻撃を避けつつ、剣を繰り出している。


 エリシスは最初に見かけたときと比べて少し冷静に見える。


 どういうわけか、俺もウズウズしてきた。

 これが狂瀾状態なのか?

 意識を正常に守ったまま、戦闘意欲が高まる。



「ぬおおおおおおお! 俺にも獲物を残すんだっ!」



 俺はエンチャント:【回答者アンサラー】を用いて短剣を投げた。

 短剣はとあるオーガの目に突き刺さり、手元に戻ってくる。


 俺たちの様子に、冷や汗を流しているオーガ。

 後方で様子を窺っていた数匹のオーガがなにやらザワザワしている。



「撤退ゥ!!」


「人間……エルフ……怖ッ」



 背を向けて逃げ出すオーガたち。

 既に一体ずつ倒していたリリアとエリシスがオーガの群を追う。

 追撃だ。


 本来は一旦立ち止まった方が良さそうだが……俺たちを止める物は何も無い……。

 というか俺も追撃する気満々で、二人の後ろを追った。




 どどどっどどどどどどっ。



 砂埃をあげてダンジョンの奥に向かっていく二つの集団。


 オーガの群とテンションの高い人間+エルフのパーティ。

 集団は第二階層の一番奥まで到達する。



「ナ、何ダアレハ……」



 逃げ場を失ったオーガたちに、リリアとエリシス、そしてなぜか俺が襲いかかる。

 ギラついた瞳、そして口元にかすかな笑みを浮かべ歓喜に身を任せる。



「「「グヘヘ」」」



 もう、どちらが魔物なのか分からない声をあげて、俺たちは哀れな敵に襲いかかる。


 結局なすすべもなく、オーガたちは全滅したのだった。



《戦闘終了につき、トキの効果が消滅しました》



 我に戻る俺たち。

 血のしたたる釘バットを見下ろし、エリシスがつぶやく。



「はっ。私ったら……いったい?」



 いや、エリシス。君は正気だったよね?


 リリアは、肩で息をつきながらも……少し満足げだ。

 嫌いなオーガを倒したからだろうか。

 彼女は横たわるオーガの群に顔をしかめつつ、剣の汚れを落とし始めた。



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