第35話 誰にだって夢中になるものの一つや二つ(2)

「大丈夫だ。俺に任せて欲しい」



 俺はエリシスの肩を抱き、自信を持って伝える。


 彼女のスキルを診断すると、俺の予想通りだった。

 取り急ぎ職種スキルの確認する。



《名前:エリシス

  職種スキル:

   神官:傷回復キュア   LV89 《警告:性能低下》

   神官:防衛聖域ドーム    LV81 《警告:無効》

   神官:不死者退転ターンアンデッド LV34 《警告:暴走》

   神官:殴打    LV51 《警告:変異して狂戦士状態!》

   神官:祝福ブレス    LV71 《警告:暴走》》



 このスキルの多さはなんだ?

 レベルも高い。神官は一般職だが、エリシスのスキルは上級職の「聖女」に匹敵するのでは?


 狂戦士状態ってのがちょっとひっかかるけど……。

 最初に出会ってたとき、様子がおかしかったのはこれが原因だろうか?



「無理ですよね?

 私が囮になるので、お二人は逃げて下さい。

 私が調子に乗っていたのが原因ですから」



 囮になり俺たちのために命を捨てる気なのか……。

 もちろん、そんなことはさせない。



「大丈夫だ。君はものすごい力を持っている」


「えっ……いいえ、私は……役立たずだから……。

 だから婚約者に捨てられて……」



 次第に、瞳が曇っていくエリシス。

 俺は、その様子を無視して叫ぶ。



「スキル整備発動。修復、そして魔改造実行!」



《順次実行します——成功しました。スキルの修復と魔改造が完了しました》


《神官:傷回復キュアは、【次元飛翔】の空間を操る能力と、本人の資質により、同一空間に全体に影響を及ぼす《神官:全体大回復マス・ヒール》に魔改造されました》



「あんっ…………あっ?」



 歯を食いしばって声をこらえているエリシスが切ない声を漏らしている。

 次第に自分のスキルの変化に気がつき、戸惑いの表情を見せる。



「これは……全体マス……大回復ヒール……?

 高位の大神官や聖女にしか使えないという伝説の回復術……。

 こ、これがあれば……」


「ふう、うまくいったようだな。大丈夫か?」


「……あ、は、はい。

 でも、この力は……。本当なのでしょうか?

 信じられません」


「間違いなくエリシス、君の力だ」



 エリシスは驚きのためか、目を見開き口をあんぐりと開けて俺を見つめていた。



「あ、あなたは神なのですか?

 いいえ……私の仕える神もこんなことはしてくれませんでした。


 何も助けてくれなかった……手を差し伸べてくれなかった……。

 それなのに……あなたは?」


「大げさだな。これは俺のスキル、《スキルメンテ》によるものだ。

 たいしたことない。

 あなたや、みんなの力が元になっている」


「この力が大したことの無い……ですか……?」


「うん。沢山スキルを扱えるあなたのほうがよっぽどすご——」


「あなたはまことの神だったのですね」


「んん?」



 その瞬間、エリシスの身体が光ったように見えた。



《エリシスはスキルメンテの影響により【天啓】を獲得。

 その力を用いて、全ての職種スキルを改造します》


《スキルは一律、神官から聖女スキルに改造されました。

   聖女:天啓を獲得しました。

   聖女:聖域ドームに改造されました。

   聖女:不死者退転ターンアンデッドに改造されました。

   聖女:殴打に改造されました。

   聖女:浄化に改造されました。

   聖女:祝福ブレスに改造されました》


 よくわからないけどまあいいか。

 とにかくエリシスは神官から聖女になったらしい。

 ぱっと見、何も変わらないようだが……。



「え……私が……せ、聖女?」


「みたいだな。早速、回復スキルを!」


「は、はいっ! 【聖女:全体大回復マス・ハイヒール】!」



 凜とした声でエリシスはスキルを起動を叫んだ。

 俺たちの体が光に包まれる。



 ——その時、リリアは窮地に立たされていた。

 甘い蜜に引き寄せられる蟻のように、リリアに近づくオーガ。



「エルフ……エルフ……ぐへへええ」



 オーガがリリアの可愛らしい姿に目を細めている。

 美味しそうなおやつを見つけたような目つきだ。



「ぐっ……! いや、オーガなんて大っ嫌い!

 来ないで……!」



 あからさまに顔をしかめるリリア。

 心底オーガが嫌いなのだろう。


 そんなリリアの体が光を帯びる。

 身体の傷がみるみる塞がっていく。



「すごい……大回復の全体魔法!!」



 リリアが腕を見て驚いていた。

 さっきまで負傷し、だらんとしていた腕が完全に元通りに戻っている。



「フィーグさん、これなら……いくらでも戦えます!」



 声が弾んでいる。

 リリアの剣はあっけなく、やすやすとオーガを切り裂いた。

 すぐにリリアは次のオーガに向けて戦闘を継続する。


 しかし……次のオーガ、こいつの様子がさっきからおかしい。

 リリアの攻撃を避けているのだ。


 リリアが苦戦しているのは、この個体が原因のようだ。

 確かにこいつだけ、他のオーガと顔つきが違う。


 リリアと、この特殊なオーガの1対1ワンオンワン

 なかなか決着がつかない。

 

 ただ、エリシスが必要なタイミングで《聖女:全体大回復》スキルを起動して支援するため、リリアが後れを取ることは無かった。


 しかし……。

 俺は、隣にいたエリシスが一歩前に踏み出していることに気付く。

 おや、エリシスの様子が……??



「うず……うず」


「どうしたの?」


「わ、わたくしも参加してよろしいでしょうか?」


「何言ってんのっ!?」



 回復役が前に出るなんてあり得ない。

 俺は条件反射的にツッコんだ。


 しかし、すぐに思い直す。

 ……いや、エリシスならアリなのか?



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