第30話 幼馴染みの装備屋(5)
「フィーグ、済まんな。つい興に乗ってしまってな。
まだできてないんだ。また明日にでも来てくれんか?」
「俺も手伝います」
「うん? フィーグに鍛冶ができるわけがないだろう?」
俺は予備の道具を見つけ、作業を始めた。
もう何年もしていたかのように、思い通りに武器を鍛え始める。
爺さんが目を丸くしつつも、厳しい目つきになり俺の隣に並んだ。
「クソッ。ワシよりも上手に工具を扱いよるか。負けてられんな」
じいさんは俺と張り合うように作業を始めた。
二人で競るように装備の精錬を進めたのだった。
しばらくして。
俺たちは汗だくになりながら、一通りの武器の精錬が完了させた。
リリアの剣だが、溶かして身体に悪い物質は取り除いている。
形状は前より細身にして、振り回しやすいようにした。
そして
エンチャントについては【魔改造】と同じように狙って特定の能力を付与することはできない。
完成した後で鑑定することで、どんな能力が宿ったのかようやく分かるのだ。
「まるでガチャみたいだね。
これはSSRエンチャントね!」
SSR?
レベッカに話を聞いたところ、魔法を使ったゲームがあるそうで、その中の用語(?)らしい。
『武器名:ハンティングソード
エンチャント:スキル【
なかなか強力なエンチャントが付与されていた。
あらゆるものを切り裂く能力らしい。
例え鎧だろうと岩だろうと空間ごと切り裂くらしい。
リリアらしくない、物騒なスキル名だが強いのだから別に構わないだろう。
次は俺の武器だ。
「これはSRエンチャントかな?」
『武器名:
エンチャント:スキル【
このエンチャントは、短剣を投げると、敵に突き刺さりダメージを与えた後、自動的に手元に戻ってくる能力だ。
無限に短剣を持っているようなものだ。
もっとも、短剣によるダメージは急所に当たらない限りは大したことはない……。
最後にリリアの鎧だが、レベッカからの提案を受けることにした。
昨日の話だが——。
「実は、在庫なんだけど、リリアさんに合いそうな鎧があるの。
今の
「防御力は落ちるかも知れないけど、その分身軽にはなれそうだね。
剣聖のスキルもあるし……敵の攻撃を避けられるならその方がいいのかも?」
「はい。私もそう思います」
爺さんはやけに力が入っている。
「年長者だからな……儂も本気でやらんとな」
まあ、口ではそう言っているが、こと装備の精錬に関しては常に本気で取り組んでいる。
正直、カッコいいと思う。
ということで出来上がったのは……。
「これは可愛さSSR、
エンチャントはRだねー」
お、おう……。
『オシャレな装飾付きレザーアーマー
エンチャント:【
これはモノ探しの能力のようだ。
戦闘自体には役に立たない能力だからRということなのかな?
リリアが早速試着する。
「おじいさん……すごく軽くて動きやすいです!」
「リリアさん……似合うし可愛い。URだわ!」
レベッカは上機嫌で、大当たりと喜んでいる。
爺さんは「ワシより年長者におじいさん呼ばわりされてもな——」と不満げだが、顔はしっかりデレていやがった。
なんだかんだ、嬉しそうだった。
レベッカの店は次第に客足が戻るようになる。
徐々に材料が集まりはじめ、客も戻っていった。
爺さんも、まだまだこれからだと、160歳になるまでは鍛冶を続けると鼻息が荒い。
後日訪ねたところ、レベッカは接客中だったのにいきなり抱きついてきた。
「フィーグ……おじいちゃんがいつでも武器のことで困ったら来てくれって言ってたわ!
本当にありがとう。
おじいちゃん信じられないくらい元気になって——フィーグのおかげね!」
「いや、元々レベッカやじいさんの頑張りのおかげだよ」
「ううん……店もこんなに繁盛して……あのね」
レベッカが意を決したように話し始める。
「あのね、今すぐじゃなくても……フィーグ、落ち着いたら店の後継者になってくれないかっておじいちゃんが言うの。
私も賛成だし、どうかな?」
「えっ、継ぐ? 俺が?」
顔を赤く染めて俺に胸をくっつけてくるレベッカ。
あててんのよ、ってヤツかこれ。
しかし……。
「レベッカさん、この武器なんだが……」
「あっ、戻らなきゃ。フィーグ、考えておいてね!」
お客さんに呼ばれて、仕事に戻っていくレベッカ。
うーん、まだまだピンとこないな。
冒険者を引退した後ならあり得るのかな……?
随分先のことだけど追々考えていくことにしよう。
☆☆☆☆☆☆
——それから。
レベッカの装備屋の噂をあちこちで聞くことになる。
安いものはそれなりに、高価な物は値段以上の性能を発揮する、あらゆる冒険者に最適なお店。
女性向け可愛い装備品を売るオシャレなお店。
虹色の鑑定眼をもつ、かわいい店員がいるお店。
依頼者の望みを反映した
悪質な転売商品が市場を席巻したときも、頑なにそれを売らなかった誠実なお店。
「何? 武器や防具の買い方が分からない?」
「金をいくら積んでもいいから、付加したい
「質の悪い装備を売りつけられ酷い目にあったから真っ当な店を探してる?」
装備屋を探す者たちに、この街の住人は口を揃えて言う。
「じゃあ、とりあえず、レベッカの装備屋に行っとけば間違いないさ」
噂が噂を呼び、レベッカの装備屋は客が途絶えない。
やがて王都に支店を出すほどになり、王国随一の繁盛する装備屋となっていくのだった——。
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