第31話 ご褒美


 装備屋レベッカの問題を解決し、リリアと晩ご飯の買い物をして家に戻った。



「ただいまー」


「お兄ちゃんお帰り!」


「お帰り、パパぁ!」



 妹のアヤメと竜人の幼女キラナが俺に向けてタックルをしてくる。

 アヤメはともかく、小さいはずなのにキラナのタックルは強烈だ。

 さすが、竜人族といったところか。



「お風呂にする? ご飯にする? それともキラナとあそぶ?」


「ご飯はまだなんだろう?」


「うん!」



 キラナは屈託の無い笑顔で応えた。

 だいたい、誰だ? キラナに変なこと教えているのは。

 神殿で会う人物が怪しそうだが……まあいいか。

 特に害も無いし。



「今日はアヤメが当番か? 少し遅いし手伝うよ晩ご飯作るの」


「お兄ちゃんありがとう! お願いね」


「じゃ、じゃあ私も作りましてよ?」



 リリアが言い、キラナも続く。



「私もつくるー!」



 そんなこんなで、楽しく料理を作りながらつまみ食いをして……満足して作った料理に舌鼓を打ったのだった。


 そういえばキラナは食べなくても良いけど、食べてもいいらしい。

 精霊と同じように、エネルギーは空気からでも得られる。そのため食事は必須ではないけど、食べてもそれを分解してエネルギーに変えられるらしい。



 ☆☆☆☆☆☆



 それから数日後。

 俺とリリアは目の下にクマを作った状態で冒険者ギルドに来ていた。


 満面の笑顔をしたフレッドさんが、新たな依頼書を俺に渡してくる。

 フレッドさん、なんだか顔がテカテカしてるな。



「じゃあ、フィーグ、次の依頼クエストよろしく〜」


「ちょっ……フレッドさん、人使い荒すぎでしょ」



 最近、俺を名指する依頼が増えていた。

 依頼主は洗濯職人や家具職人、農家や建築職人、兵士など。


 だいたいがスキルの異常だったので、問題無く片付けることが出来る。

 レベッカの所みたいに、リリアの能力が役に立つこともあった。


 依頼の報酬はもちろんお金なのだが……それだけではなく、整備されたスキルで作ったお礼の品を受け取ってくれと言われることも多い。


 おかげで俺の家には、人をダメにするソファや、人をダメにする布団、

 人をダメにするコタツとかいう暖房器具や

 リリアの一人部屋が増設されたりしている。



 アヤメの学費を十分に支払えるだけの収入を得たし、依頼人から食事に誘ってもらったり食材を貰うことも増え、食べることにも苦労はしなくなっていた。


 とはいえ。

 あまりの仕事の多さにリリアも抗議の声を上げる。



「私も手伝ってはいますが、フィーグさん昼の仕事でクタクタになって、

 最近夜、元気ないんですよ」


「夜、ねえ?」


「フレッドさん、そういう目で俺たちを見るのやめてもらっていいですか?」


「へいへい。

 だいたい、断ってくれても良いって言ってるんだけど全部受けてくれてるのはフィーグの方だぜ?」


「まあ、この街のことなら……小さい頃から世話になったし」


「だがその様子だとちょっと無理させたみたいだな。

 一旦セーブすることにするよ。

 だがこの依頼はフィーグ、お前が求めていたクエストかも知れないぜ?」



 フレッドさんはウインクをして俺たちにクエスト依頼書を見せてくれた。



『依頼主 :王都  フェルトマン伯爵


 依頼内容:行方不明の元婚約相手、エリス・ブラントを探して欲しい。

      発見したら連絡を入れること。

      直接彼女と話をしたい。


 報酬  :十万ゴールド』



「これがどうして俺が求めているクエストなんですか?」


「このエリシスっていう令嬢だが、強力な神官スキルが使えるらしい。でも、それがどうも、最近になってうまくいかなくなったようだ」



 そう言ってフレッドさんはもう一枚、俺にクエスト用紙を渡してきた。



『依頼主 :

 エリシス・ブラント


 依頼内容:

  スキルの整備ができるものがこの街にいると聞く。

  わたくしのスキルを整備して欲しい。

  キルスダンジョンにいるので、可能なら会いに来て欲しい。

  私の探しているものが見つかったら帰るので、街で待っていてもいい。


 報酬  :千ゴールド』



「これは? って、この人——」


「ああ。貴族が探しているのはこのエリシスという女性だ」



 なるほど。

 上手くすれば二つのクエストをこなせる。



「このエリシスっていうお嬢さん、ダンジョンに一人ソロで行くくらいの猛者だ。

 もっとも冒険者としての登録はなく、教会の関係だから噂しか分からん。


 一人だと危ないこともあるだろう。

 フィーグも、こんな回復役がパーティにいてくれたら心強くないか?」



 確かに回復系の冒険者が俺とリリアのパーティに欲しいと思っていた。

 これから先、きっと必要になるはずだ。


 でも……この女性ってこの前すれ違った、釘バットを持った人じゃないか?

 うーん。若干不安はあるけど、とりあえず会って話してから考えてみよう。


 口調はとても落ち着いた感じだったけど……釘バット……。

 いや、いいんだけど、あんな形の武器持って入ったら、すぐ神官兵に取り囲まれそうだ。



「それとな、フィーグ、伯爵はどうやら訳ありみたいだから気をつけて欲しい」


「分かりました。ところで、キルスダンジョンってどこにあるんですか?」


「フィーグさん、それは私が……知っています。私も一緒に行っていいですよね?

 道案内もできますし!」



 リリアは、いつもの上目づかいで俺を見上げた。



「もちろん、リリアも一緒に来て欲しい。

 せっかくパーティを組んだんだから」


「はい!」



 フレッドさんは意気投合する俺たちを見て「いいなぁ」とつぶやく。



「フィーグ、キルスダンジョンの言い伝え知っているか?」


「いいえ」


「そうか。

 多分、エリシス嬢もそれが目当てだと思うが、こういう言い伝えがある」



 もったいぶってフレッドさんが言う。



『——キルスダンジョンの最終守護者ボスを倒した者には、所持する全スキルを強化できる。その上新たなスキルの取得も出来るだろう』



 リリアとフレッドさんが、一字一句違わない「言い伝え」を口にした。



「スキルの強化と取得……それ本当ですか?」


「どうだろうな?

 噂では、スキルは【勇者】という話もあるが、本当かどうかは分からない。


 まだ誰もこのダンジョンを攻略できていない。

 強いご褒美があるのに、とても不人気なダンジョンだ。


 どうも、このダンジョン、立ち入った冒険者のスキルが不調になることが多いそうだ」


「【勇者】?

 それも気になるけど……。


 スキルの不調が暴走によるものなら、

 俺がいるパーティなら突破できる——?」



 そう俺が言ったとき、ぱっと明るい表情をするリリア。

 リリアの瞳が潤んでいる。



「ぜひ……ぜひ、行きましょう、フィーグさん!!」


「あ、ああ。やけにリリア、乗り気だな。まあ、いいか。

 頑張ろう。まずエリシス……彼女に会ってみよう」



 俺たちは、そのキルスダンジョンとやらに向かった。

 でも正直、もし危険なら、エリシスを見つけるだけして最奥のボスは諦めても良いんじゃないか。


 俺はそう考えていた。




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