第28話 幼馴染みの装備屋(3)

 いきなり馬鹿者と言われてしまった。

 ずいぶん機嫌が悪いな。

 出直した方がいいのか?



「さっきの女もそうだ。

 なーにが、棍棒に釘を打ち付けてくれるだけでいいだ!

 ワシを舐めやがって」



 ぶつぶつとおじいさんが言う。

 だが、言葉の割に声に張りがない。



「まあまあ、おじいちゃん。完成まで随分待っていただいたのだから——」


「うるさい!

 いつもの儂なら……ぶつぶつ」



 レベッカの辛そうな表情は、これが原因かもしれないな。


 前はこんな感じじゃなかった。

 愛想良く、俺とお茶を一緒に飲みつつも楽しそうに武器や防具の話をしてくれた。

 頑固なところはあったけど気の良いじいさんだった。


 それが……今は顔をしかめ、俺を睨みつけてくる。

 敵意を周囲に向け、不要な対立を生んでいる。


 近頃は品薄によって客も絶え、材料も思うように手に入らないという。

 思うように製作ができない……そのストレスで性格も変わってしまったのだろうか。


 もしスキルの不調があるなら、俺が解決できるかもしれない。

 俺は、じいさんに近づき触れようとした。



「まあまあ、色々言いたいことはあると思うけど、ちょっと触れさせて貰えれば——」


「フィーグ!

 たかだか17やそこらの小童こわっぱが。儂に何するつもりだ!

 ええい、離れろ!!

 年長者は敬うもんだ!」



 ダメだ。徹底的に嫌われている。

 爺さんも鑑定スキルを持っていたっけ。


 久しぶりなのに俺の年齢を正しく言ったのは、鑑定スキルのおかげかもしれない。



「フィーグ、ごめん。

 今日は無理みたい。また機嫌の良いときに来てもらえないかしら」


「ワシが機嫌悪いだと?

 黙れ黙れ黙れ! どいつもこいつも……勝手に儂を悪者にしやがって!!

 年長者を敬うことも知らぬヤツが指図するな!」


「おじいちゃん——」



 レベッカが涙目になってうつむく。

 この様子ではいつ来ても同じだろう。


 俺は、レベッカの頭をぽんぽんと撫でる。



「上手く製作ができないのはスキルの不調かも知れない。一度、診断してみたい」


「う、うん……でも」



 レベッカは深く溜息をついた。

 今にも泣きそうだ。

 四六時中こんな様子なら、身内でも参ってしまうかも知れない。


 ふと、振り返るとリリアも心配そうな面持ちだ。

 だが、その顔を見て思いついたことがあった。


 俺は、ごにょごにょとリリアに耳打ちする。

 するとリリアは目を丸くし、俺を見返してきた。



「えっ? 私が——おじいさんに?

 フィーグさんの言うとおりにしろって伝えるんですか?」


「うん」


「わ、私みたいな部外者でも平気でしょうか?

 初対面ですし——」


「いいから、きっと大丈夫」



 おずおずとゆっくり爺さんに近づくリリア。

 当然、すぐに爺さんはリリアを睨み厳しい言葉をぶつける。



「ふん、工房にそんなひらひらした格好して来やがって。これだから小娘ガキは。

 今すぐここを出ていけ」


「あの、おじいさん、私の話を聞いていただけませんか?」


「ふん、小娘ガキが。

 年長者を敬えと——」



 爺さんがスキルを使ってリリアを鑑定しはじめる。

 俺の計画通りになると思う。念のため俺もリリアを診断してみよう。



『名前:リリア

  状態スキル:

   身体スキル詳細:

    年齢 160歳……』



 リリアを鑑定したじいさんは、ガタガタと身体が震えはじめ、目を丸くして慌て始めた。

 



「……んんっ?

 ……ひゃっ……ひゃひゃひゃくろくじゅうっ? ……おふッ……」





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