第20話 「死籠もり」の竜人(3)
《【剣聖:風神】の空間を切り裂く性質と、
【モンク:
【
——成功しました》
《【防衛聖域】は【
《【
成功だ。よし……これで……。
『たすけて——』
また、幼い少女の声が聞こえた。随分近くから聞こえる。
そうだ、エリゼ様が抱えている魔導爆弾——竜人族のたまごから聞こえている。
悲痛な声が俺の心に響いた。
今は、とりあえず竜人族のたまごだけを異空間に隔離してしまえば解決だ。
たまごの中にいる
だけど魔導爆弾が竜人族のたまごなら……。
くわえて、スキル
爆弾化というのが、もし……俺の想像するものであれば……。
別の解決方法がある。
俺だからできること。
俺にしかできないこと。
俺はそのために、ここにいるのだ。
エリゼ様が抱えている黒いたまご——魔導爆弾を、俺は黙って手に取った。
するとエリゼ様が目を見開き見つめてくる。
「フィーグさ……ん?」
俺の顔を見て皆が不安そうな顔をしている。
大丈夫だよ、俺は笑って言う。
「じゃあ……みんな。なんとか頑張ってみるから少し待ってて。エリゼ様、フレッドさん、それに、リリア」
「「「えっ……何を言って——?」」」
「【
俺の視界が切り替わり、身体が強い力でぎゅうっと縮められたり伸ばされたりする感覚があった。
視界がぐにゃりと曲がり、暗くなっていく。
「フィーグさん、いつまでも待っています。ご無事で——」
リリアのそんな声が聞こえた。
声色は優しく落ち着いていて、ただただ、信じていますと……そう言っているようだった。
☆☆☆☆☆☆
真っ暗な空間の中に、俺と魔道爆弾だけがあった。
鳥のたまごくらいだった大きさが、今では人の頭以上の大きさになっている。
もう時間がない。
間に合うのかどうか分からなかった。
もし失敗しても被害はこの空間の中だけに留まるだろう。
街や、人々の安全は守られる。
ここに来たのはそんな打算があったためだ。
そしていつものスキルを起動する。
「俺が抱えている魔導爆弾に【スキルメンテ:診断】起動!」
『名前:なし(種族:
職種スキル:
竜人:
竜人:竜化 LV1: 【警告:封印状態!】
竜人:飛翔 LV1: 【警告:封印状態!】』
やはり。
魔道爆弾とは
診断結果が意味するところは……。
意識があったとしても、眠る時間の方が多いだろう。
そんな状況でスキルを酷使することはありえない。
だとしたら、これは何者かが意図的にスキルの暴走状態を作り出し、爆弾として利用しているということだ。
『やだ——しにたくない』
誰かの声が頭に響く。
『だれか——だれかたすけて』
こんなものがどうしてあるのか?
どんな目的があれば、こんな酷いことができるのか?
俺は理解ができなかった。
『——おねがいだから——』
心に響く声は、まだ聞こえている。
エリゼ様は孵化をする瞬間に爆発すると言っていた。
何らかのトリガーにより孵化が始まり、その過程でスキルが最期の起動を始めるのだと。
暴走の結果、周囲を巻き込んで爆発し、たまごは竜人の赤ちゃんとともに消滅。
『——だめっ、もう、もう、スキルが……きどうする!』
ピシッと、たまごにひびが入る。
爆発がスキルの暴走によるものであれば、俺のスキルが役に立つ。
時間がない。
やることは一つだ。
「今まで、よく頑張ったな」
俺は、真っ黒な
「【スキルメンテ——】」
言いかけたところで、両手のひらに熱く焼けるような感覚があった。
俺の手のひらが火傷でただれ始めている。
急げ。
時間がない。
「【スキルメンテ:診断・複製・整備・上書き】を実行!!」
《スキルメンテを【炎の息】に対して実行します》
両手に抱えているたまごを落とさないように、俺は耐える。
《スキルメンテ:複製・整備・上書き——》
いつもは一瞬で終わる工程が、とてつもなく長い時間に感じる。
早く……早く……。
まだか……まだか……?
永遠とも思える一瞬が過ぎ去る。
そして……。
《成功しました。——スキル【
ひび割れは止まり、熱くなってきていたたまごは、次第に冷えていくのが分かった。
たまごの表面が次第に黒から白く変化していく。
とくん、とくん……。
僅かな鼓動と温もりを感じる。
俺の両手の中にあるたまごは、表面にあった禍々しい文字が消え、真っ白になっていた。
仄かに光っている。
『名前:なし(種族:
職種スキル:
竜人:
竜人:竜化 LV 1【警告:封印状態!】
竜人:飛翔 LV 1【警告:封印状態!】』
「ふう……やった! やった!」
俺は喜びのあまり、たまごを抱えたまま飛び跳ねる。
おっと、割ってしまっては元も子もない。
そこで俺は重大な問題に気付く。
「あれ? どうやって帰るんだ?」
【
俺は焦った。
今まで、一番焦った。
とはいえ、できることもなく。
竜人族のたまごを爆散させなかっただけでもよかったと思うことにしよう。
ここで待っていたら助けもあるかもしれない。
『ひしょうスキル……』
また幼い声が聞こえる。
俺は返事をしてみた。
「飛翔スキルか。確かに君はスキルを持っているようだけど?」
『すきるがつかえないから——すてられたのかな』
確かにスキルが封印状態になっていた。
でも捨てる? どういう意味だ?
「ううん、君はスキルを使える」
『ほんと?』
「ああ」
『じゃあ……いきていてもいい?』
「もちろん。生きて欲しい」
『えへへ……わかった』
沈み気味だった声が、急に明るくなった。
でも、この子は捨てられた?
生まれてくるはずの命を捨てる?
スキルが使えないから?
爆弾にされた?
自分が生まれても良いのかどうかすら疑問に持つような悲しみを……この子は抱いていた。
たまごの中で死ぬ……死籠もりとなるのをただ待つだけの人生って何だ?
この子は親の元に返すべきなのだろうか?
でも、本当に、それで幸せになれるのだろろうか?
「任せて。ついでに魔改造もして強くしておこう」
《スキル【飛翔】を修復。
——成功。封印状態が解除されました。
【
——成功。
【飛翔】は【次元飛翔】に魔改造されました。上書きします》
「よし」
《【次元飛翔】は、通常の空間に加え、異空間から異空間に移動することもできます》
なるほど。
俺がこのスキルを使えば、元の世界に戻れるかもしれない。
《【次元飛翔】を用いれば、元の世界に戻れるでしょう》
俺は大きく息をつき、叫ぶように言った。
「【次元飛翔】を起動!」
《【次元飛翔:LV99】が起動しました》
竜人族のたまご……ありがとう。
君のおかげで、このスキルのおかげで戻ることができる……。
竜人族なんておとぎ話の中だけだと思っていたし、実在するなんて驚きだ。
「ありがとうな。君のスキルのおかげで帰れそうだ」
俺がたまごを撫でると、幼い少女の声が響く。
その声は弾んでいて、希望に満ちていた。
『たすけてくれて————ありがとう
こえをきいてくれて——ありがとう
みつけてくれて————ありがとう——』
俺は、その声に応えるように、たまごを撫で続ける。
さっきよりたまごのひびが増えているような気がした。
疲労のためか、途轍もない眠気が襲ってきている。
俺はうつらうつらとしながら、ぼんやりと考えていた。
——王都冒険者ギルドは、国内外から優秀な人材を集めている。
S級、SS級、SSS級、そのうえに君臨する勇者パーティ。
一方、イアーグの街は王都に比べるとずいぶんな田舎だ。
田舎ギルドのパーティが、王都ギルドに所属するパーティより強くなったら?
いろんな場所からいらないと言われたメンバーが、世界最強と言われるようになったら?
「それは……夢のようなことかも……知れない……なぁ」
俺は力尽き、仄かな光の中に意識を落としていったのだった——。
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