第17話 終焉の足音——side 王都ギルマス・デーモ


 王都ギルマス・デーモが「アクファ同盟」の面々に、フィーグの口止めを依頼する時のこと。



「イアーグの街ですかい? 少し遠いですね」


「急いで向かってくれ。特急の馬車も使って良いぞ」


「わかりました」


「もし万が一でも失敗しそうなときは、この魔道具を起動するといい」



 ギルマスは持っていた表面に古代文字が描かれた、黒く細長く丸いものをリーダーであるギザに渡した。

 それは、鳥のたまごくらいの、手のひらにすっぽりと収まる大きさだ。



「これは?」


「まど——」



 魔導爆弾と言いかけて、慌てて言い換えるデーモ。



「周囲の者の記憶を消す魔道具だ。起動する言葉を教えておく」


「そんな便利なものがあるんだな」


「ああ。特注品だ。使えるのは一回だけだから失敗した時のみ使え」


「そうかい。記憶を消せるなら、色々面白いことに使えると思ったんだが」



 ギザの顔が醜く歪む。

 色々と悪だくみを考え巡らしているのだろう。



「くれぐれも、慎重に扱え。繰り返すが失敗しそうなときにだけ使え。

 もし、依頼に成功した場合は回収する」


「へいへい、分かりましたよ」



 あまりに軽い言葉に苛立ちつつも、この時、デーモはさほど心配していなかった。


 アクファ同盟の者たちは、性格がどうあろうとプロなのだ。

 依頼はきっちりこなすだろう。そう信じていた。



「じゃあ、頼んだぞ、失敗したと場面で、これを起動させるのだ。もっとも、フィーグはボンクラと聞く。使うことはないと思うが」



 そう言って、デーモはフィーグの口封じを失敗した時のために、保険をかけた。


 奴はボンクラだ。万が一にも、そんなことはないだろう。

 デーモは、それを信じて疑わなかった。


 しかし、このが逆にギルマス・デーモを抜け出せない窮地に立たせることになる。



 その万が一の事態になるとは思わずに……。

 愚かにも、この魔道具は起動されることになる。


 周囲を巻き込み、軽く街一つを吹き飛ばす威力のある、その爆弾が。

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