第12話 リリアとの夜

 アヤメとリリアが風呂で汗を流している。


 久しぶりの自宅だ。

 明日から冒険者ギルドに向かったり、忙しくなりそうだし今日はのんびりしようと思う。


 二人が上がったようなので、入れ替わりで俺も汗を流しさっぱりする。



 リリアはアヤメの部屋で、同じベッドで寝るみたいだ。アヤメがいろいろ話を聞きたいらしい。お菓子でも食べながら夜通し話をするのだろうか。

 パジャマパーティってやつ?



 風呂から上がった。俺は二人の間に挟まるのはギルティだと思ったので、一人自室に戻る。

 すると、アヤメの部屋にいるはずのリリアが俺のベッドに座っていた。



「……お邪魔しています」



 リリアは素肌の上に、俺のシャツを着ている。

 ぶかぶかなシャツの裾からは細い足が伸びている。


 うーん。下着とか身に付けてるのだろうか?

 昼間は包帯以外、何も身に付けてなかったけど……。


 リリアの肌は少しだけ上気している。

 まだお湯の温かさが残っているのかもしれない。


 でもその割に、妙に顔が赤い。



「リリアはアヤメと一緒に寝るんだよな?」


「アヤメさんは先に眠ってしまわれまして。

 あの、少しお話がしたいです。

 フィーグさん、こちらに座っていただけませんか?」



 リリアが少し横に移動し、ちょんちょんとベッドに触れここに座れと合図をした。

 俺はリリアの隣に静かに腰を下ろす。


 石けんなど同じはずなのに、不思議とリリアから良い花の香りが漂ってきた。

 気のせいか、次第に目が冴えてくるような気がする。


 肌着同然になると分かるけど、リリアは意外におっぱいがあるな……。

 露わになった太ももも妙に艶めかしく……って俺は何考えてるんだ。


 彼女はこれから共に戦うパーティのメンバーなのだ。

 大切にしていかなければならない。


 俺はぶるぶると首を横に振る。



「そ、それで話とは?」


「先ほどお話した依頼ですが、その、受けて頂けますか?」



 そういえばまだ正式な返事をしていなかった。


 リリアが前所属していたというパーティとの交渉を、うまく進める手立てを考えなければならないが……ここで受けないという選択肢は無い。



「分かった。依頼を受けるよ

 パーティーメンバーの悩みは皆で解決しないとな」


「フィーグさん……ありがとうございます!」



 笑顔を見せ、俺に抱きついてくるリリア。

 肩から温もりが伝わり、さっき感じた良い香りを強く感じる。

 長い髪の毛はさらさらで、少しだけくすぐったい。


 リリアは俺の太ももに手のひらを当てた。

 可愛らしい手のひらは肩に伝わる温もりより熱かった。


 さて、話は終わった。

 後は寝るだけだが……リリアは部屋を出て行こうとしない。



「リリア、どうしたの?」



 そういえばさっきより、肌の色がより赤くなっているように見える。

 具合でも悪いのだろうか??



「大丈夫か? こんな時間だが、必要なら神官を呼んで治癒をしないと」


「いえ……その、私には依頼の報酬を払うだけのお金が無いのです」


「気にしなくてもいい。力を授けてもらったし、もう俺たちは仲間だ」


「フィーグさん……それでは私の気が済まなくて——」



 リリアは俺を見上げる。

 ドキドキというリリアの心臓の高鳴りが聞こえてきそうだ。



「え?」



 リリアは突然、布団の中に入ると、俺の身体を引っ張った。

 次に、腕枕をするように俺の頭を抱く。


 適度なボリュームの胸がふくらみが顔に当たる。

 それは柔らかく、暖かく、はかなげにも感じた。



「リリア?」


「あの、男の人はこうするといいって本に書いてありました」



 それ、どういう本なの?

 リリアはツンデレだとかよく分からない本をたくさん読んでいるな。


 俺を抱くリリアの力がきゅっと増し、顔が胸に押しつけられる。

 心臓が高鳴った。

 でも、リリアの鼓動はそれ以上のようだ。


 とくん、とくん……。



「フィ、フィーグさん」


「ハ、ハイ」


「こ、この後、どうする……のでしょう?

 昼はなんともなかったのに、今はすごく恥ずかしいのですが」



 どうするのかって聞かれても。

 リリアの顔を見ると、きゅっと目をつむって一生懸命考えている様子だった。

 昼に俺の前で服を脱いだ時と違い、緊張と戸惑いと恥ずかしさが伝わってくる。



「この件で何もしなくていい……そうだな……。俺とパーティを組んでくれたこと、それだけで十分だ」


「でも……でも……それは私がお願いしたことです」


「俺は改造スキルという十分な報酬をもらった。気に病む必要は無いよ。

 それに、いくらでも頼って欲しい。ちょっと頼りないかもしれないけど」


「そんな……頼りないなんて……。

 ……フィーグさんっ……うっ……」



 リリアは泣いているようだった。

 辛いというよりは、もっと別の暖かい感情によるものかもしれない。



「今まで、頑張ってきたんだな」


「うう……フィーグさん……。私……わたし……

 家族もみんな死んじゃって……ずっと一人で……。

 こうやって誰かに縋れることが……嬉しくて」



 一族の滅亡を彼女は目にしてきたのだ。

 俺の知らないところで一体何が起きている?


 リリアとはもうパーティの仲間だ。

 せめて、涙が止まるときまで……。


 俺はそっとリリアの背中に手を回し引き寄せる。

 すると、リリアは俺の胸にぎゅっと抱きついてきた。


 部屋の明かりを消す。



「うぅ……ひぐっ……ぐすん」



 俺はリリアが少しだけ、素直な感情を見せてくれるようになったことが嬉しかった。

 事情は色々ありそうだ。これから少しづつ聞いていこう。


 寄せる体の温もりを感じながら、俺は泣き続けるリリアの頭をずっと撫でていたのだった。




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