第11話 スキルは世界を支配する。

 差し出した手を取ると、花が咲くようにリリアの表情がほころんだ。



「フィーグさんに選んでいただけて、改めて、自信が持てたような気がします!

 ……こ、光栄に思いなさい!」



 あ、ツンデレのふりってまだやるんだ。

 リリアの頬が夕日に照らされてか、やけに赤く見えた。



 ******



 日が暮れ、俺とアヤメとリリアは近くの食堂で食事をとる。

 その後、皆で家に帰りリリアの話を聞くことにした。


 アヤメがぶつぶつ言っている。



「さっきの戦いを見る限り、一番お兄ちゃんと互角に戦えてたのはリリアさんだし。

 パーティを組むのは……しょうがないの……」


「アヤメは魔法学園にきちんと通って欲しい」


「うう……。しょうがないの……分かったの」



 アヤメは割とスッキリとした表情をしている。

 どうやら、さっきの戦闘で何か感じるものがあったようだ。


 俺はリリアに明日の話をすることにした。



「明日はフレッドさんのとこ行って冒険者登録をしようか。多分、戦闘の試験もある。

 それが終われば、手頃な依頼を受けようと思う」


「あのフィーグさん、私から依頼があります。

 ……ありましてよ」



 一瞬リリアの眉が下がり、口がへの字になった。

 何か問題を抱えているのかも知れない。



「わかった。じゃあ、まずはリリアの依頼を受けよう。よろしくな

 内容を簡単に説明してくれないか?」



「はい。私が前所属していて、逃げ出したパーティなのですが——」



 要約すると、話はこうだ——。



 ******



 リリアは「スキルメンテ」を持つ者がいるという噂を聞いて、王都で俺を探していたらしい。

 すると、情報を知っているという男が話しかけてきたのだという。



「スキルメンテだあ? 知ってるぜ。教えてやるから俺たちのパーティに加入しろ」


「加入したら、教えていただけるのですか?」


「ああ。しばらく一緒に冒険したら会わせてやる」



 そんな会話の後、勇者パーティの二軍に参加したのだという。

 っていうか、勇者パーティの二軍? そんなもの公式にはなかったはずだが?


 怪しい男に誘われパーティに加入したリリア。

 しかし男どもはリリアが剣士であることを知っていながら、雑用など押しつけていたのだという。

 さらに、リリアに武器や防具の購入を迫ったらしい。



「俺たちのパーティは、ここで防具を揃えている。

 リリア、お前も装備を揃えろ。特にこの勇者じるしのミスリルの剣、勇者印のミスリルの鎧は必ず購入しろ」


「私は、今の装備で十分です。こんな高額なものは買えません——」


「文句を言うな。金がなくても女なら稼ぐ方法はあるだろう?

 それが嫌なら、何か高く売れそうなものは持ってないのか?」


「こ、これだけなら」



 リリアは、所持していたお金全てと、兄の形見の水晶珠を差し出したのだという。

 水晶珠はパーティのリーダーが預かっておくことになったらしい。どうやらその美しさを気に入ったらしい。


 勇者印の剣と鎧を身につけるようになってから、リリアの肌の調子が次第におかしくなっていく。

 肌が腫れたり血が吹き出たりぶつぶつが出来たり。彼女はたまらず包帯で顔や肌を隠すようになる。



 そうやって日々を過ごすが、目的の人物に合わせてくれないことに苛立つリリア。

 ある日、宿泊中の宿屋でパーティのリーダーに抗議をすると、とんでもないことを言い始めた。



「そうだな、リリア……俺たちの女になったら、会わせてやろう」


「それはどういう意味ですか?」


「こういうことだよ!」



 パーティの男たちは、一斉にリリアに襲いかかってきたという。

 しかし、包帯に包まれた顔や肌が露わになったところで顔色を変えた。



「な——なんだ、この腫れや血の滲みは……。顔も醜く腫らしやがって」


「汚ねぇ! こんな醜い女など見たくもない。俺たちのパーティには不要だ!」



 いくら抗議しても耳を貸してくれなかった——。

 しまいには、奴隷として売るぞと言って迫ってきたらしい。


 結局約束を反故にされた上、リリアはパーティから追放されてしまったのだった。



 ******



 そこまで話を聞いて、俺は思った。

 リリアはまんまと騙されていたのだと。


 典型的な詐欺だ。


 俺は大変だったな、とリリアの頭を撫でる。

 すると、彼女は俺の撫でている手に頬を当て、身体を寄り添ってきた。

 彼女の温かさと柔らかさが伝わってくる。


 そんなリリアを見て、アヤメが低い声を出した。



「リリアさん……あたし……」



 ビクッと俺から身体を離すリリア。

 しかし、アヤメは後ろからリリアを抱き締めた。



「その男たち、許せない」


「アヤメ、俺もそう思う。もしかして依頼というのはその悪徳パーティに対する報復?」


「ありがとうございます。

 私はただ、奪われた水晶珠を取り戻したいだけです」


「分かった。あともう一つ、聞きたいことがある」


「何でしょう?」


「君は何者だ? それと、【スキルメンテ】のこと、リリアは何か知ってる?」



 俺の言葉に、ふう、と一息つくリリア。



「……私はエルフです。長い間、森の奥深くの……さらに奥で、一人で暮らしていました」



 リリアは髪の毛から耳を見えるようにしてカミングアウトをした。

 俺は察していたし、驚きはない。

 だけどアヤメは「エルフっ? 初めて会ったの!」と目を輝かせている。



「父も母もみんな亡くなっていて、兄も、もうこの世には——。

 水晶珠はその兄がくれたものなのでどうしても取り戻したいのです」



 目を伏せて話すリリア。

 彼女は膝の上のこぶしを握りしめていた。



「形見なんだね。分かった」


「もう一つの質問ですが、我が一族は昔、スキルを整備したりスキルを生み出す技術について研究をしていたようなのです」



 リリアが授けてくれた【改造】は、その成果の一つらしい。

 とはいえ一族が全て亡くなった今、その技術は失われてしまったのだとか。



「スキルは職種スキルだけじゃないようです。

 例えば、特技スキル。身体スキルや種族スキルなど」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。特技はなんとなく分かる。

 でも、身体スキルや種族スキルって何だ?」


「私にもよく分からないのです。ただ、身体は例えば体型とか、性別すらもスキルとして扱うらしいのです。

 種族は、人間とかエルフとか……これもスキルとして定義されていて」


「まさか……まさか、例えば魔改造で身体スキル筋肉増強とか、

 人間というスキルを変化させてエルフになったりできるのか?」


「はい。その可能性を示唆していると思います」


「もしかして……性別を変えたりも?」


「た、たぶん……。本でTSというジャンルを読んだ事がありますが、それはもしかして、身体スキルを操作したのでは?」



 いや、多分それは違う気がする……創作だし。



「そしてユニークスキルというのもあります。

 例えば、【勇者】とか——」



 もし【勇者】スキルを俺が操作できたら?

 俺は勇者にだってなれる?


 今は理解できないし実感もない。

 でも、生き物の形すらもスキルとして表されるのなら……。



『スキルは世界を支配する』



 好きな言葉の意味の見方が、少し変わった。

 俺は……何にでもなれる?




 ☆☆☆☆☆☆




 リリアは宿を取っているということだったが、アヤメはリリアと話をしたいと言うので家に泊めることになった。

 たぶん、エルフという種族が珍しいから色々話を聞きたいのだろう。


 夜通し、アヤメの部屋でリリアと話をするつもりなのかもしれない。

 俺はそう思っていたのだが……。


 アヤメとリリアが一緒に汗を流した後、俺もお湯につかり、自室で寝ようとドアを開けたところ……。

 リリアが俺のベッドに座っていた。


 着替えが無かったのか、素肌の上に俺のシャツを着ている。



「フィーグさん、あの、色々お借りしています——」



 リリアは俺を上目づかいで見つめている。

 な、何だ?


 シャツの裾から伸びる足は細く長くて、でも女性特有のふくらみもあり綺麗だ。

 肌はほんのり上気してピンク色になっている。

 そんな姿に、俺は思わずドキドキしてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る