第10話 手を差しのべて

「【スキルメンテ:魔改造】起動!

 対象は【剣技】!」



《スキル【剣技】を魔改造します——》



 スキルによる返事が聞こえた。



《成功——【剣技】が【剣聖:風神】に超進化しました》



 剣聖:風神。リリアのスキル【風属性魔法】と関連があるのかな?

 さっそく手に入れたスキルを試してみよう。


 俺は懐から護身用の短剣を取りだし構え、リリア・フレッドさん・アヤメがわちゃわちゃやっているところに飛び込んだ。



「【スキルメンテ:試行】、【剣聖:風神】!」


《成功——【剣聖:風神】 LV99 発動します》



 まただ。

 メンテの時にコピーされたスキルがLV99カンストになっている。

 俺はアヤメに一太刀を向けた。



「お兄ちゃん!?」



 彼女はイフリート火炎の大精霊を召喚し、自身を守らせていた



『マスター。相手をさせていただきます』



 いや、俺マスターじゃないし。


 俺の短剣がイフリートを切り裂こうとする。


 イフリートは躱そうとするが、俺の攻撃の方が速かった。

 短剣は風をまとっている。エンチャントがかかったような状況だ。

 俺自身の周囲にも風が渦巻いている。


 ここに帰ってくるときに出会ったシルフィードが纏っていたような風だ。

 もっとも、あの時ほどの暴風ではないけど。


 短剣が纏った小さな風がイフリートの身体を吹き消していく。

 しかし火炎の大精霊はただではやられてくれない。


 消滅を悟ったイフリートは、最後の一太刀として指の先から炎を吹き出す。

 俺はスキル【剣聖:風神】の力を借り、後ろにバク転して躱した。



『マスターがこれ程の技を使うとは——。

 今回は私の負けですね。これは殺し合いではありませんので引くとします。

 久しく我が身体が躍りましたよ』



 火炎の精霊イフリートが消え去る。



 だが、それだけでは短剣の勢いが収まらない。

 その切っ先がアヤメに向かった。


 マズい……俺はアヤメに近づく前に短剣を引く。

 それでも間に合わず、短剣から湧き出す風がアヤメを押し倒した。



「きゃあっ!」


「大丈夫か?」


「う、うん。擦り傷と、お尻を打っただけ。

 でも、守護させていた精霊をあっという間に消し去るなんて……いったい、どうして——?」


「話は後でな」



 驚きの目で俺を見るアヤメ。彼女はリタイアだ。

 アヤメはフレッドさんが用意していた傷回復のポーションをごくごくと飲み始めた。


 俺は次にフレッドさんに近づく。


 アヤメは不意打ちに近かったし、彼女は接近戦は不向きだ。

 しかしフレッドさんはそうはいかない。

 俺が振り下ろした短剣は、あっさりと彼の両手で挟まれた。



「グッ——」



 しかし、フレッドさんはたじろぎ、両手を離すと、アヤメと同じように後ろに下がった。

 フレッドさんは驚きつつ、両手のひらを見た。

 彼の手のひらは多くの傷が付き、血が滲んでいる。


「フィーグ、風を……かまいたちのような刃を短剣に纏わせているのか?」


「はい、そのようなスキルのようです」


「そうか……こんな力持ってなかったはずだが……

 いつのまに身に付けた? 驚いたな」


 俺はフレッドさんに迫り短剣を振るう。

 何度か躱され、攻撃も受けるが俺もすばやく避ける。


 身体が軽い。

 まるで自動的に動くように躱し、攻撃を続け、フレッドさんを圧倒する。



「フィーグ……強くなってる!

 今回は俺の負けだ」



 そう言いながら、フレッドさんは嬉しそうだ。



 残るはリリアだ。


 リリアは動きを止めていた。

 じっと、俺を見つめている。



「私の【剣技】が想定以上に進化している……?」


「君に貰った力だよ。リリア」


「そうですか。でも、そんな付け焼き刃のスキル、私の【完全装備】と【剣技】は負けません!」



 彼女が振り下ろす剣を、俺は短剣で受け止めた。

 その太刀筋を、俺は見極めている。

 スキル【剣聖:風神】がなければ、そしてそれを使いこなせなければできないことだ。


 俺の動きに目を見開くリリア。


 何度か剣を交わすうちに、彼女が巻いている包帯がほどけていく。

 するすると白い肌が露わになっていく。


 その肌に血は滲んでいない。腫れは完全に引いている。

 顔に巻いていた包帯もはずれ、その美しく可愛らしい顔が露わになった。


 細い耳がのぞく。エルフの耳……人間の上位互換の種族。

 細い手足に似合わぬ筋力で剣を振るっている。



「はあっ!」



 俺の胸元に、【剣技】を用いた鋭い突きがやってくる。

 それは風のように俺の横腹をかすめた。


 なんとかかわした俺は、リリアに接近。

 彼女の首元に短剣を突きつけ、短剣が発する風が彼女を傷付ける前にすぐに引く。



「はあ……はぁ……負けました……フィーグさん……すごい」



 リリアもギブアップ。

 勝負は俺の勝利で終わったのだった。


 ん?

 そういえば俺は何のために戦ったのだっけ……。




 ☆☆☆☆☆☆




 俺とリリアの元に、アヤメとフレッドさんがやって来る。



「お兄ちゃん、強くなったの

 正直戦闘では私の方が強いと思っていたの」


「そうだな。スキルのおかげだよ」


「スキルの力もあるけど、それよりも……なんていうか」



 そう言ったっきり、アヤメは言葉を失い頬を染めてうつむいて、ぼそっと「心も強くなったみたい……」とつぶやいた。

 うーん、俺には自覚がないのだが。


 割り込むようにフレッドさんが話しかけてくる。



「正直、リリアを一番警戒していたのだが……間違いだったようだ。

 なんだあのスキルは……? 圧倒的だった。

 冒険者登録、するんだろう?」


「はい。明日にでも」


「じゃあ、試験官に依頼を出しておく」


「ありがとうございます」


「いやいいって。積もる話はまた後にしよう。じゃあ俺はギルドに戻るよ、また明日な」


「はい」



 そう言って、なんだか足取りも軽くフレッドさんは去ってしまった。

 次に話しかけてきたのはリリアだ。



「フィーグさん……あの、私——」


「そうだ、リリア。一つ試したいことがある。手を貸してくれないか」


「えっ? は、はい——」



 スッと差し出された手のひらを握り、【スキルメンテ:上書きアップロード】を実行する。



「ん……んんッ!」



 顔を赤く染め少し大きく声を上げ、びくびくっと体を震わせたリリア。



《リリアにスキル【剣聖:風神】の上書きが成功しました》



「こ、これは……?」


「うん。消える前に、と思って」



 リリアのスキル診断をしたら【剣聖:風神】のLVは40だった。

 俺はLV99で使用していた。前もそうだったが、どうやら俺が試行するときに限り最大レベルで行使できるようだ。


 だが、これは次回のメンテ時に他のスキルで上書きされ消えてしまうだろう。


 リリアは自らの胸の上部に手を当てた。

 そして、やや潤んだ瞳で俺を見上げていた。



「あなたはやっぱり本当のスキルメンテナー整備士だったのですね

 それに、このすごいスキル【剣聖:風神】まで……。

 なんとお礼をいったらいいのか分かりません。本当にありがとうございます」


「リリア、元々君の力だ。武器や身体に風を纏うのも、君の力のものだ」


「そんな……。

 絶望の中にいた私を救ってくれたのは間違いなくフィーグさんです。

 改めて、私と一緒に冒険をしてください。お願いします」



 リリアは、再度手を差し出してきた。


 リリアの剣士の腕前は確かだ。

 俺の目標……世界最強のパーティ——に同行してくれるというのなら、とても助かるだろう。


 今日の戦いだって、【剣技】の上位互換のスキルによる俺のゴリ押しで勝っただけだ。

 互いに皆手加減をしていた。

 もしこれが本気だったら……どうだったのか。俺も簡単に勝てないだろう。


 リリアは俺の能力に関する知識もあるようだ。

 しばらくリリアと行動を共にして、スキルメンテの話を聞くべきだろう。



「分かった。こちらこそ、よろしく」


「はい!」



 差し出された手を取り握手すると、花が咲くようにリリアの表情がほころんだ。



「フィーグさんに選んでいただけて、改めて、自信が持てたような気がします!」



 リリアの頬が夕日に照らされて、やけに赤く見えたのだった。



 ******



 日が暮れ、俺とアヤメとリリアで近くの食堂に出向き食事をる。

 その後、リリアの話を聞くことにした。

 今まで何があったのかを。


 どうやら彼女は、前のパーティで酷い目に遭った挙句、追い出されたらしい。




————————————————

*作者からのお願い*


新作を投稿しました。異世界ファンタジーです。

「【魂の実装】人形使いの俺、お荷物と言われクビになったけど、自由に生きたいので魂を込めた魔巧少女の楽園を作ります。〜え?軍の人形兵器が暴走したって? そんなこと言われてももう戻りません。」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893443799

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