第07話 故郷に帰ったらみんなから勧誘されました(3)


 誰が俺とパーティを組むか、三人は言い合っているが……少し必死なリリアに比べてアヤメとフレッドさんはそうでもなさそうだ。

 でも、俺の決定権は一体どこにある?


 いや、どこにもない。

 これはよくない。


 ビシッと言わなくては……!



「お、俺の意見を——」


「「「部外者は黙ってください!」」」



 ダメだこの人たち。どうにかしなくては。

 俺が一番の関係者だろう?


 俺はリリアとパーティを組むのが一番だと思っている。

 アヤメは魔法学園を卒業してからパーティに参加すればいい。

 フレッドさんはギルマスの仕事に戻らないといけないだろう。


 しかし、俺の考えをよそにアヤメとフレッドさんは勝手に盛り上がり戦闘の準備をして外に出て行った。


 俺とリリアを置いて。



「ふふふ……フィーグさん、私は皆さんが仲が良くて……ちょっと羨まし……べ、べつに羨ましくなんてありませんけど」


「確かに仲いいよな。俺は勇者パーティにいたときは寂しくて、こんなに賑やかなのは久しぶり」


「私と同じ……大変だったんですね——フィーグさん」



 そう言って、リリアは俺の胸に包帯が巻かれた右手のひらを当ててきた。

 彼女の温もりが伝わってくる。


 俺のスキルが反応しているのと同時に心が落ち着くのを感じる。

 何か俺のスキルが変化したのは間違いない。



《条件を満たしたので、スキル《改造》を獲得しました》



「リリア、ありがとう。ええと……これは?」


「これは私たちの部族に伝わるおまじないのようなもので……か、感謝しなさい」


「おまじない……部族……?」



 スキル《改造》か。《整備メンテ》と相性が良さそうな気がする。

 



「このおまじないをするのはフィーグさんが初めてです。

 私、話してみてフィーグさんのこと信頼しても大丈夫だと思ったので。

 こ、光栄に思いなさいっ」


「そ、そうか……で、リリアは外へ行かないの?」


「鎧を装備してからですわ」



 部屋の片隅に鎧が置いてあった。

 やや暗めの色をした金属製のもので、それなりに重そうだ。

 リリアは服を脱いだフレッドさんのように筋肉ムキムキでもないのにちゃんと装備できるのだろうか?



「そのツンデレ口調、無理して付けなくていいよ」


「ななな……人間の男性はこういうのが好きだと本で読んで……」


「人間?

 ……随分偏ってるし、それ行動と一緒じゃないと意味ないから

 もう随分デレてる」


「がーん。じゃ、じゃあ……やめます……」



 がーんって口にする人初めて見た。

 本の読み過ぎでは。



「うん。リリアは普通にしていていいと思うよ」


「は、はい。

 あの、フィーグさんに私のスキルを診ていただきたくて——もしよかったら」



 リリアは申し訳なさそうに俺の顔を上目づかいで見つめてきた。

 特に断る理由もないし、戦闘の前にメンテするのは悪いことじゃない。

 メンテの過程でリリアのことも知ることができる。



「うん、わかった。診断しよう。まずパーティを組もうか」


「はい」



 リリアとパーティを組む呪文を唱える。

 こうすることで、触れなくても俺のスキルが効くようになる。

 

 じゃあ、スキルメンテを起動——ん?


 リリアは俺にくるっと背を向けると服を脱ぎ始めた。

 恥ずかしがりもせず、背を向けているとはいえどんどん脱いでいく。



「ちょっ。リリア? 何を?」


「私に直接触れた方が良いのですよね?」



 触れた方が早くスキルメンテを終えることが出来るのは事実だ。

 でも初対面な上、リリアは女の子だ。


 俺の戸惑いをよそに、リリアはあっという間に上半身に身につけていたものを全て脱いでしまった。

 恥ずかしげもなく、どーんと、ばるんばるんと堂々としている。


 しかし……服を脱いでも全裸ではなかった。

 包帯が全身にぐるぐるに巻かれている。


 包帯の隙間から少しだけ肌が見える。

 赤く腫れ、所々膿んでいる。


 リリアを椅子に座らせ、俺は彼女の背中を見た。



「すごい包帯、これは?」


「半月前くらいから、鎧を装備すると肌が腫れて血が滲むようになってしまったのです」



 そう言ってリリアは顔を伏せた。

 所々、血が滲んでいて痛々しい。


 顔も包帯で覆っている。

 隠さなければならない状況というのは、女の子にとってどれくらい苦痛なのだろう。

 


「痛そうだな……でも、これから背中に触れるから痛かったら言ってね。【スキルメンテ】発動!」


「はい……ひゃあっ!」



 俺はリリアの背中に両手のひらを押し当て、スキルを発動させた。

 リリアはビクッとして背筋をぴんと伸ばし、小さな悲鳴を上げる。


 包帯越しに、背中とはいえ女の子の柔らかさと少し高い体温が手のひらに伝わってきた。

 スキルの情報も俺に流れ込んでくる。


「大丈夫?」


「ん……んっ……は……はいぃ」



 名前:リリア

 職種スキル:

 【装備】   LV43: 《【警告!】:暴走状態》

 【剣技】   LV40

 【風属性魔法】LV 1

 【水属性魔法】LV 1

 【聖域】   LV 1



「スキル【装備】が壊れて暴走しているね」


「えっ、スキルが暴走ですか?」


「うん。休養を取らずに無理をするとこうなる。

 それにリリア、君の肌はひょっとしたら金属に弱いのかもしれない」


「そんな……何十年も大丈夫だったのに?」


「何十年……??

 また変なことを言っているけど……平気だったのはスキル【装備】のおかげかもしれない。

 これが暴走したのなら……。


 【スキルメンテ:複製】!」



 リリアからスキル【装備】の情報が俺にコピーされた。

 ただ、他人のスキルは時間が経つと消えてしまう。

 使うこともできない。



「——リリア、顔が赤い……痛いか?」


「い、いえ、大丈夫です」


「ゆっくり、優しくするから」



 包帯の隙間から覗くリリアの首筋や頬が、触る前から火照るように赤くなっている。

 リリアは声を漏らさないようにするため、両手で自分の口を覆った。


 俺は背中に触れている手のひらに、優しく、わずかに力を込める。



「んっ……んんっ……はぁ、はあ……んんんーーっ!」



 リリアの声がひときわ高くなり、びくびくっと震えた瞬間スキルの整備が終わった。



《確認——問題なし。スキル【装備】の修復が完了しました》



 俺はふぅ……と息をつく。

 さっそく、【メンテ:改造】を使ってみよう。

 どうなるかな……?



《【メンテ:改造】——成功。リリアのスキル【装備】が【完全装備】に進化しました》



 おお。これがスキル【改造】か。

 スキルの進化は、鍛錬によってできると言うが……。それとはちょっと違う気がする。

 スキルの名前が変わって「完全」が付与されたわけだが……この後のミニ剣闘士会で分かるだろう。


 リリアは放心したように肩を落とし息をついている。



「終わったよ。もう大丈夫」


「はぁ……はぁ。あ、ありがとうございます——スキルから力を……感じます」


「大丈夫? 痛くなかった?」


「はぃ……で、でも……いつもこんな感じなのですか?」


「あんなに大きな声を出されたのはリリアが初めてかな?」



 そう言うと、リリアは両手で顔を覆って「うぅー」と声を漏らしている。

 包帯からはみ出した肌がさらに赤みを増していた。



「ううぅうううぅぅぅぅぅぅ……。

 初めて恥ずかしいって感じます……あの、すみませ……ん。隣の部屋で鎧の装備をしてきます……」



 さっきは、するすると服を脱いでいたはずなのに。

 今は消え入りそうな声をしていて、恥ずかしそうにして片手で顔を、もう片手で胸の辺りを覆っている。


 どういう心境の変化なんだろう?


 ん?

 彼女の髪から耳が突き出ていた。

 細く、長い耳の先が。


 この耳は……エルフ?

 エルフは人間の上位種——筋力も魔力も桁違いだと聞いたことがある。


 黙っていると言うことは、隠していることなのかもしれない。

 見なかったことにしておこう。



「リリアはこの部屋で着替えていいよ。俺は外に行くから」


「は、はいぃ。あの、フィーグさん……フィーグさんのおかげでスキルが治って改造強化されて……すごいです。このスキル、大切にします」


「ううん。元々、君の力によるものだよ」



 俺は外に出てリリアを待つことにした。

 そのスキルの凄さは、すぐに見られることだろう。




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*作者からのお願い*


新作を投稿しました。異世界ファンタジーです。

「【魂の実装】人形使いの俺、お荷物と言われクビになったけど、自由に生きたいので魂を込めた魔巧少女の楽園を作ります。〜え?軍の人形兵器が暴走したって? そんなこと言われてももう戻りません。」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893443799

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