第03話 スキルメンテ(3)


 少女のスキルを再度確認する。


『職種スキル:

 【風属性精霊召喚】 LV39: 《【警告!】:暴走状態》

 【水属性精霊召喚】 LV25』



 予想通り風属性精霊召喚スキルが暴走している。

 暴走のため、予想外の精霊が召喚され制御も失っている。



 ——念のため俺のスキルも確認してみよう。

 そう思った瞬間に、ズキッと頭に痛みが走った。

 視界が激しく揺れ、キーンという甲高い音が俺の耳に刺さった。


 しかし、その異変はすぐに消える。

 王都から出るときの胸騒ぎといい、いったい何だ?

 俺は自分のスキルステータスを確認した。



『名前:フィーグ・ロー


職種スキル:

 スキルメンテ:

 【診断】

 【整備】

 【複製コピー

 【上書きアップロード

 【試行テスト】(←NEW!)


 複製済みスキル:なし』



 ん、試行テスト

 今まで無かったスキルが増えている?


 

「ちょっといい加減に離しなさい!」



 少女は俺とつないだ手を振りほどこうとした。

 しかし、今は離すことはできない。

 診断の次の工程は、相手のスキルを俺の中にコピーすることだ。



「【スキルメンテ:複製コピー】!」


「えっ……あっ——んんっ」



 少女の甲高い声が聞こえ、繫いだ手がしっとりと湿るのを感じる。

 次に、一通りのメンテスキルを実行。


 するとスキルからのアナウンスが俺の頭に響いた。



《複製——解析——整備——上書き——確認。

 問題なし。

 スキル【風属性精霊召喚:中】【水属性精霊召喚:中】のメンテが完了しました》



『職種スキル:

 【風属性精霊召喚】 LV39:《絶好調》

 《絶好調ボーナスあり》


 【水属性精霊召喚】 LV25:《絶好調》

 《絶好調ボーナスあり》』




「ふぅ……よし、成功!」


「あッ……ん…………身体が熱い……?」


「終わったよ。気分はどう?」


「えっ、私の中のスキルから力が溢れてくる!?」



 少女は、やや顔を赤らめ、ぽかんと口を開けて俺を見つめている。

 身体からだ全体が興奮しているのだろう。



「あのシルフィードを放っておけない。

 召喚が不完全だ。もう一度精霊召喚スキルを発動し制御を試みよう。

 そして、シルフィードと再契約する」


「でも……大精霊と契約なんてできっこない。

 私には才能が——」



 再び視線を落とす少女。

 その背中をそっと押す。



「レベル39の精霊召喚スキル……すごいな」


「私が、すごい?」


「うん、今までの悪い出来事は全てスキルが整備メンテされていなかっただけだよ」


整備メンテ?」


「うん。君のスキルが正しく働くように調整することさ。それに、大人でもそのレベルのスキルを持つ者は少ない。もう暴走は収まったし、スキルの力を感じないか?」


「はい、感じます……体の中が熱い」


「大丈夫だ、自信を持って!」


「……は、はい!」


「さあ落ち着いて、スキルを発動しよう」



 少女の瞳が輝きを増し、彼女は力強くうなずいた。

 表情に自信がみなぎる。


 きっと、うまくいく。



「スキル【風属性精霊召喚】発動っ!!」


《付近でスキルの起動を確認。絶好調ボーナス:大精霊との召喚・契約が可能となります》



 少女が手を天に掲げ声を張り上げる。

 その声は、空気を震わせ周囲に広がっていった。


 遠くまで届きそうな芯のある声だ。

 彼女のスキルが起動し、次第にシルフィードの表情が柔らいでいく。


 あともう少し。

 俺は手助けをしたい。


 でも、自分にコピーされている【風属性精霊召喚】を俺自身が起動できないことに苛立ちを覚える。


 俺は修復した他人のスキルのコピーを自分自分の中に持っている。

 しかし、使うことができず、そのため俺は戦闘時は何もできなかった。


 ふと、あることを思いだして、俺は自分のスキルを確認してみた。



『名前:フィーグ・ロー


 スキルメンテ:

 【診断】

 【整備】

 【複製コピー

 【上書きアップロード

 【試行テスト】(←NEW!!!!!!!!!!)


 複製済みスキル:

 【風属性精霊召喚】: LV99 《絶好調》』



 試行テストがアピールしているように見えるんだけど……。

 一体何だこれ?


 ……もしかして。

 俺は可能性に賭けこのスキルを起動した。



「【スキルメンテ:試行】を起動!」


《どのスキルを起動しますか?》


「【風属性精霊召喚】!」



 俺はいちかばちか、スキルの名を叫ぶ。



《風属性精霊召喚を試行テストします。

 対象:近隣で実行中の召喚をアシストするか、別の大精霊を召喚できます》


 えっ?

 他人から複製コピーしたスキルを、俺が起動できた?

 だったら、選択肢は一つだけだ。



「スキルのアシストを選択」



《【風属性精霊召喚】アシスト実行。成功しました!》



 周囲に渦巻いていた暴風が次第に治まっていき、心地よいそよ風になっていく。

 怒りの形相だったシルフィードが一転、優しい微笑みを俺たちに向けている。


 ゴーゴーとものすごい音を立てていた風が消えた。

 よし、成功だ!


 少女が目を見開いて驚いている。



「すごい……スキルが使いやすくなっている?」



 今まで鬼の形相だった表情のシルフィードがハッとした様子で、おずおずと俺たちの前にひざまずいた。


 人ならざる美しい顔や肢体の造形に引き込まれそうになる。

 半透明になっているところが、神秘さを増していた。



『……マスター。失礼いたしました。不完全にこの世界に顕現したため……苦痛に蝕まれ我を失っておりました。ご容赦を』


「シルフィード、俺じゃない。召喚主はこの少女だ」


『マスター、承知しました。では、改めて……可愛らしい召喚主殿。

 今後ともよろしくお願いします』


「大精霊シルフィードを制御できるなんて……しゅ……しゅごい……!」



 顔を紅潮させ、興奮気味に少女は叫んだ。次に、差し出されたシルフィードの手をそっと受け止める。

 ろれつが回ってないのが気になるけど、この様子なら問題なく契約もできるだろう。


 俺は握っていた手を離した。



「もう大丈夫だね。じゃあ、俺はこれで」


「あっ……あの……契約が完了するまで手を繋いでくださって……も……いいですわよ?」


「心配はいらない。もう俺なしでも大丈夫だよ」


「じゃなくって、その——」



 何かを言いかけた少女は、頬を赤く染めていた。

 俺に向けて手を伸ばし名残惜しそうにしている。



「今後は無理せずしっかり休養を取って、暴走を防いだほうがいい。君には力があるから、これからも頑張ってね」


「は、はい……本当に……本当にありがとうございますっ!」



 久しぶりだな、誰かの役に立ってお礼を言われたのは。

 喜んでもらえたり、人の力になれると嬉しい。

 俺の力は、きっとそのためにあるのかもしれない。


 馬車の方から周囲の暴風が静かになった様子に歓声があがった。



「わあああああ!」


「すっかり、風も止んで……生きた心地がしなかったけど、君があの精霊を沈めてくれたのか?」


「助かった……フィーグさんと言ったか? ありがとう」



 危険な状況だったけど、それを自らの判断と行動で脱することができた。


 皆を救うことができた。

 見知らぬ少女と力を合わせて、問題を解決した。

 パーティって、こういうことなのかもしれないな。



「素晴らしい! こんなに若いのに大したものだ。

 一般人などと言って申し訳ない。君は冒険者か魔術師なのか? 先ほどは済まなかった」


「俺は何も……ただ、あの少女の力を信じていただけです」



 俺を馬車に引き留めようとした兵士が頭を下げた。

 顔を上げて欲しい、と言って俺は彼と握手を交わす。

 兵士はイアーグの街出身のようで、いつも街にいるらしい。何か困ったらいつでも頼って欲しいと笑顔で話してくれた。



「あ、あの!」



 馬車に乗り込もうとしたとき、先ほどの精霊使いの少女が背中から声をかけてきた。

 やはり、よく通る凜とした良い声だ。

 少女の横にシルフィードが寄り添っている。



「助かりました!

 先ほどのあなたのスキルは一体……いえ、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか……?」



 潤んだ瞳で俺を見つめる少女に告げる。



「俺の名はフィーグ。スキル整備士——《スキルメンテ》の使い手だよ」






————————————————

*作者からのお願い*


新作を投稿しました。ラブコメです。

「吸血鬼の杉宮さんは、僕の血をちゅーちゅー吸っている。」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650076062816

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