第5話 棚ぼた
「玲奈〜〜〜!」
休憩時間になってすぐに、同じクラスの友達である由紀が駆け寄ってきた。
何の用事かはなんとなくわかる。
もうすぐ高校生活初めの体育祭がやってくるのだ。
私の学校では、クラスごとに体育祭で誰がどの種目に出るのかを決めることになっている。その種目決めの時間が休憩明けのホームルームであるのだ。
私は足が遅いので絶対にガチのリレー系には出たくない。でも何か一つの種目を選ばなくてはならない。どうしようかと悩んでいたところだった。おそらくその種目決めの話だろう。
「玲奈はどの種目にするか決めた?!」
やはりそうだ。
「足遅いからリレー系には出たくないんだよね〜。走りたくない。」
「たしかにそうだよね。私も走る種目には出たくないな。あっ、じゃああれは?!仮装リレー。」
なるほど。あれなら走らなくていい。しかもなんだか楽しそうだ。いいかもしれない。
休憩明けのホームルームが始まり、先生が黒板に種目を書き出していった。
私達のクラスはそこに自分で名前を書いて立候補する方式だ。つまり早い者勝ちだ。
私は由紀に目くばせされて、すぐに代表で2人分の名前を仮装リレーの欄に書きにいった。
仮装リレーの欄にはあと3つの空欄がある。
そういえば、星野はどうするのだろうと思った。私の個人的希望としては、星野の走る姿が見たい。
あの顔で走るのだ。きっとかっこいいのは間違いない。
チラッと星野の方に目をやると、星野がいつも一緒にいる友達の折坂と松井と何やら話をしていた。
そして何かが決まったようで、星野が黒板へ向かっていった。星野も代表なのだろう。
星野はチョークを持って黒板に名前を書き始めた。
えっ…………。
なんと星野が名前を書いたのは3つあいた仮装リレーの空欄であった。そして折坂と松井の名前も。
心臓がドキドキしていた。
仮装リレーのメンバーは仮装を考えたり衣装を作ったりするところまで一緒にやるのだ。
まさか星野が仮装リレーを選ぶとは思わなかったので、そんな妄想すらしていなかった。
思わぬラッキーににやけが止まらず、思わず口元を隠した。
そしてすべての種目決めの空欄も埋まり、ホームルームは終わった。
また同じように由紀が駆け寄ってきた。
「ちょっと玲奈!!!星野くんと一緒じゃん!!やったね!!」
「ちょっと由紀、聞こえるって…!」
少し興奮気味に話す由紀を落ちつかせながらも私も心臓がまだバクバクしていた。
明日の放課後から、それぞれの種目のメンバーで集まっての練習や準備が始まる。
明日、ついに星野と話せるかもしれない。
今日は念入りにトリートメントして、パックして寝よう。そんなことを考えながら、いつもと同じ帰り道を、誰もいないのを確認してスキップで帰ったのだった。
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