第4話 本当

星野には彼女がいるかもしれない。


まずは真実を知りたいと思った。

あんなに素敵な人が好きになる子(だとしたら)その子のことも色々知りたい。



私は比較的友達はいる方だ。

空気を読むのが得意なので、どんなグループにいても馴染む自信がある。周りからみてどうかはわからないが。

だから友達ネットワークが充実している。

友達になった子の中に、星野と同じ中学の子がいたはずだ。その子に聞いてみよう。


「あっ、玲奈!おはよ〜どうした?」

「おはよう。いや、体操着借りたくて〜。体育あるのに忘れちゃったんだよね。」


いきなり星野について聞いて不審がられたら終わりだ。広められたら私は「入学早々ターゲットに狙いを定める女豹」なんて最悪なキャッチコピーがついてしまう。あくまで自然な会話の流れになるよう心がけた。


「そういえば私のクラスに星野くんっているんだけど華ちゃんと同じ中学?」

「あっ、そうそう!そうだよ〜。なんで?」

「いや、皆かっこいいって言ってるみたいだからどんな人なのか気になって。」

これは本当だ。私だけではなく、星野はやはり女子全般に人気のある顔のようだ。

「なるほどね〜修斗くん、爽やかよね。結構モテてたよ〜。彼女できてからはあんまり聞かなくなったけど」

サラッと核心をついた。やはり彼女がいた。

「へえ、彼女いるんだ!いまもいるの?」

「そうそう!確かアイコンにしてなかったかな〜」


ポケットから携帯を取り出し、星野のLINEアイコンを確認してから

「やっぱりそうだ。これだよ彼女」

と言ってみせてきた女の子はやはり昨日見た控えめピースの例の子だった。

「どんな子なの?」

自然な流れだ。いまのうちに聞いておこう。

「え〜!良い子だよ〜。可愛い!!お互いに超好きって感じだったなあ」

「へ〜……。」

この子からそれ以上の情報は出てこない、と思った。例の彼女は可愛くて良い子で星野はベタ惚れ…かなりパンチのある情報だ。

もう今日の取れ高は十分だ。今日の調査はここまで。


私は自分の教室に帰って、星野の方を向いた。日課のようなものだ。この時間のために学校に来ているといっても過言ではない。星野のうしろに貼ってある時間割を確認するふりをして星野をチラ見する。ああ、眼福…………。


すると、バチッと目があってしまった。

私はすぐに目を逸らし、前を向いた。

目があうと気まずくて目を逸らしてしまう。今までも何度か星野と目が合うことがあったが、ずっとこうだ。

可愛くニコッとかできたらいいのだろうが、私はそういうキャラではない。というか、話したこともない女に突然微笑まれたら気持ち悪いだろうと思ってしまうので絶対にできない。


しかし彼女だったら、と私は考えた。

もし私が彼女だったら、ニコッとして、星野に微笑み返されたりするんだろうな。羨ましすぎる。あの顔に微笑まれたい。


ああ、ダメだ。どうしても彼女がよぎる。

今まで「星野くんかっこいい」の感情だけで過ごせていたのに、どうしても彼女の存在がチラついてしまう。

彼女、可愛かったな。しかも良い子…。

いや、いいんだよ。まだ好きとかじゃないはずだし…。

そう言い聞かせながらも、授業そっちのけでずっと星野のことを考えていた。


そしてそこから私の好きは加速していくことになるのである。


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