第2話 後付け

その男の子は名前を星野 修斗といった。


最初に黒板に貼られた座席表とその子の位置をすり合わせて名前を知るなんて、我ながら少し気持ち悪いのではないか…。

いや、バレなければいい。

いかにも自分の席が分からず困っている人を装ったので、長い間座席表を見つめていても不自然ではなかったはずだ。


星野修斗の席は私の席からちょうど真反対に位置していた。

星野は出席番号が最後だったので教室の一番後ろのドアの側。

私の苗字は「石川」で出席番号は前から2番目だったので教室の一番前から2番目の窓側。

私は心の中で舌打ちをした。

これではこっそり顔を見ることができないではないか…。

せめて星野と私の位置が逆ならまだ良かったが、この位置関係では私が自然に星野の顔を眺めるのは不可能だ。

あっ、プリントを後ろに回す時にチラ見するのはいけそうだな…、などとどうにか星野の顔を自然に眺められる策を講じているうちに高校生活始めのホームルームが終わっていた。


星野がリュックを背負い、教室を出ていく姿を目で追った。そのまま5、6人の友達と合流して廊下で会話をしている。

そして、常に会話の中心にいる星野を見て私は思った。

星野くんはきっと人望があるんだ。私は顔で選んだわけじゃない。


優しくて明るくて友達思いの星野くんだから好きになった、と友達と談笑しているだけの星野から自分に都合のいい情報を補完した「星野像」を見事に作り上げたのである。


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