第十話 喜怒哀楽

あれから何回も繰り返した、日本には逃げる場所なんて無かった。

アリーチェさんが何回交渉しても、無駄だった。

今何回目かも分からない、本当にアリーチェさんを助けれるのだろうか、因果律だとか運命で決まっているのか?それでも変えてみせると決意したはずだ何度繰り返したって。

方法が見つからない、暴力は状況が悪化するだけだし、僕が吸血鬼になっても何も変わらなかった。

そういえば僕が自衛隊の人に話しかけた事はなかったな、やってみるか。



「優輝、考えはまとまったのか?」

「うん、今回は僕が交渉に行く」

「じゃあこれだけは約束してくれ、危ないと判断したら大声で私を呼んで」

「分かった」

窓の外を見ると自衛隊数人がこの家に向かって来ていた。

「じゃあ行ってくる」

「頑張ってね」

部屋を出て、階段を降り、玄関へ行く。

扉を開ける。

「君どうしたんだい?」

「もうお前らの言う化け物を探すことをやめて欲しい」

「なんでだ?」

敵だと分かったからか銃を構える。

両手を上げ敵意は無い事を教える。

「俺の彼女だからだ」

「何言ってんだお前」

「そのまんまの意味だ、彼女が死ぬのは嫌だ」

「大丈夫、保護と監視をするだけだから別に死なない」

「そう言って、結局人を犠牲にしないと生きれないとか言う理由で殺すんだろ、何回もアリーチェさんはお前らを信用して和解しようとした、でもその心は一方通行でお前らはアリーチェさんが生きれるように努力はしなかった」

「本当に何言ってんだ?頭大丈夫か?」

「分かった、アリーチェさんに何も危害を加えない事を条件に居場所を教える、その危害の中には監視をするなどの自由を奪うことも含む」

「考えさせてくれ」

考えるとは言うがどうせ幹部だとかに聞くんだろうな。

「人の犠牲が出るのは殺すしかないとよ」

「じゃあ教えない」

「分かった、とりあえずその家の中を調べる」

「嫌だ」

「こっちは大人だ、ガキとは勝てないことぐらい分かるだろ?」

「僕はアリーチェさんを守るって決意した、だから”絶対”に行かせない」

「一応言っておく、邪魔するようなら危害を加えていいと言われてる、本当に邪魔するならそれ相応の覚悟を見せろ」

と言いながら自衛隊の人は銃を投げ捨てる。

まじかよ銃を投げ捨てる筋肉持ってんのか。

「まずは自己紹介からしよう、戦国時代みたいに、俺は、田中宏、見ての通り職業は自衛隊」

「僕は三浦優輝、学生をやってる、お前らの言う化け物の彼氏だ」

「準備は良いか?」

「来い!」

田中宏と名乗った男性が助走をつけ殴りに来る。

避けようと思った時には既に目の前に拳があった。

「こんなものか」

痛い、でもアリーチェさんのためだ。

「まだだ、まだ終わってない」

「なかなか根気あるな、若いって良いな、まぁまだそんなこと言う歳じゃないが」

相手の腹を狙い全体重かけて、殴る。

軽々と受け止められる。

「なかなか威力あるな、最近筋トレでもしたか?」

「一応」

「今の一撃で分かった、お前に勝ち目は無い、諦めろ」

「嫌だ、ここで諦める位なら、死んでやる」

「分かった」

そう田中宏が言うと、殴られる、何回も何回も何回も、蹴られた時もあった。

「もう諦めろ、なんの罪の無い少年を殴ったり蹴ったりするこっちの気分にもなってくれ」

鼻血も出てるし、アザも出来てるだろう、口の中も血の味がする。

「絶対に諦めない、お前らにアリーチェさんを渡す位なら、ここで死んでお前らを犯罪者にする、法律的にではなく、社会的に、ただ化け物を守りたかった少年を殴り殺した奴らって」

「分かった、本気で行からな」

田中宏が殴りに来たとき、2階の窓が開く。

そこからアリーチェさんが出て来た。

「お前何者だ?」

「私をはこいつ、優輝の彼女だ」

「なんで、出てきたの?」

「もう、見てられなかった、これ以上優輝が傷つくのは、見てられない、だから止めに来た」

「逃げろ、目的はあくまでもアリーチェさんだ、僕を殺すのは目的じゃない!」

「私の目的は優輝を助けることだ、そして、優輝をここまでしたからには死ぬ覚悟は出来てるだろうな」

「あぁ、この職業を目指してから死ぬ覚悟くらい出来てるさ」

「じゃあ、どうする、さらに優輝を傷つけるか?それとも私を捕まえるか?」

「いや今回は逃がす、君の勇気は凄かったぞ、頑張って逃げ切れ、そして少年は彼女を守りきれ」

「感謝する、優輝逃げるぞ」

「分かった」

数分移動して、地面に降りる。

「とりあえず応急手当だ」

アリーチェさんがポケットからティッシュを出して、丸めて鼻に刺す。

「膝も出血してるな」

アリーチェさんがそう言った途端、スカートを破り始める。

「何やってるの?」

「止血のための布を作ってる、直接圧迫止血法だ、保健の授業とかで習うだろ?」

「言ってくれれば俺の服を使えば良かったのに」

「後付けだけど、スカートは短い方が、動きやすいしな」

「ありがとう、本当にありがとう」

今再確認出来た、僕にはアリーチェさんが必要だ、アリーチェさんが居ない未来なんて捨ててやる。

「優輝、どうして泣いてるんだ?」

自分では気づかなかった。

「今まで何回も繰り返してきた、その回数だけアリーチェさんが死ぬ所を見てきた、だからもうそんな感覚を味わいたくない、もうアリーチェさんの死ぬところを見たくない、だから、もう今回で終わらせる」

アリーチェさんが抱きしめてくれる。

「優輝が味わってきた絶望は私には図りしれないのだろう、ただどこの世界でも優輝を思う気持ちは本物だ、そしてお前が頑張ろうと決めたことだ応援してる、嬉しい時は喜べ、腹がたった時は怒れ、哀しい時は泣け、楽になりたい時は甘えろ」

アリーチェさんの言葉に救われた感じがする、今までアリーチェさんのために頑張った、それが報われた気がして、そう思うと、涙が更に込み上げてくる。

嗚咽混じりに声に成らない声が出る。

そんな僕をアリーチェさんは何も言わず受け止めてくれる。

数十分泣いて、体力が尽きて、意識が落ちる。

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