第八話 普通の幸せ

ずっと聞きたかった、ずっと会いたかった、ずっと話したかった、ずっと別れたくなかった。

やっと会えた、そう思うと、涙が出てくる。

気づいたらアリーチェさんに抱きしめられていた。

「どうしたんだ?優輝」

「分からない」

「分からないか、ならしょうがない」

あの3日間は常に恐怖が付きまとっていた、アリーチェさんの居ない日に戻る事に、そしてアリーチェさんのいない未来に。

アリーチェさんの近くにいると安心できる。

泣き止んで。

「何か分からないが辛かったんだな、でも安心しろ、私がついてる」

頭を撫でられる。

状況を確認したい

周囲を確認する。

アリーチェさんの家だ、窓の外を見ると、自衛隊が来ていた。

見覚えのある、忘れたいが、忘れられない奴らが来る。

なんだ、時間が戻ったとでも言うのだろうか。

とりあえず、アリーチェさんに報告するか。

「アリーチェさん、自衛隊が来たよ」

「わかった、1回交渉しに行って見る」

ここで行かせたら、アリーチェさんが死ぬ、殺される、またあれを繰り返す訳には行かない、なんでか知らないが時間が戻ったんだ、次は無いかもしれない。

「駄目」

「何でだ?」

理由を考えて無かった、感って事にするか。

「なんか、嫌な予感がする、だから行かないで」

「わかった、行かない」

「ありがとう、裏口から逃げよう」

「うん」

裏口に行き、逃げる。

「体力大丈夫か?」

「多分あと2分くらいなら走れる」

「じゃあ2分くらい走ったら私がおんぶしてあげる」

「ありがとう」

「それともお姫様抱っこの方が良いかな?」

「今はふざけてる場合じゃない、でもお姫様抱っこの方が良いかな」

「まあおんぶだと羽が使えなくなるからお姫様抱っこしかない訳だが」

「あー確かにそうだね」

「これからどうする?」

「そこら辺の洞窟で寝るしか無いと思う」

「そうだよな」

「だが寝るとしたら朝だ、夜の方が力出せるから夜のうちに移動はしときたい」

「わかった、唐突で申し訳ないけど、体力が限界」

「わかった」

アリーチェさんに持ち上げらる。

浮遊感が体を覆う。

やばい高所恐怖症なの忘れてた。

どうしよう、下を見なければ良いんだ、ならアリーチェさんの顔を見続ければ良いか。

やっぱり、可愛い、いや綺麗の方があってるか。

「どうしたんだ?そんなに顔をまじまじと見て、ちょっと照れるんだが」

「ごめん、見入ってた」

顔を逸らすが、下を見れない、星でも見とくか。

上を見上げると月が目に入った。

「今日は満月か」

「そうだな、ゆっくりのんびりと見たかったな」

「ごめん昨日俺が誘わなければ」

「良いよ、過去を悔やんだところでその過去に行ける訳でも、変わる訳でもない、それなら未来の事を心配した方が有意義だ、いや未来の事を心配するより、今を心配するのが一番良いと思う」

「アリーチェさんが良いなら良いんだけど、今を心配しろか、確かに今は、過去も未来も考える暇は無いね」

「ああそうだ、今は国いや世界を敵にしてるも同然、そんな状況、滅多にないだろう、ならそれを楽しむべきだと思わないか?」

「安全第一でね」

それから朝まで常に飛んで逃げ続けた。

「ここから近い、洞窟だとか廃墟、はあるか?」

ポケットに入ってるスマホを取り出し、位置情報を見る。

「あの山の方にひとつ洞窟があるらしい」

「わかった」

移動し終わった。

「暗いから気をつけて歩くように」

「わかった」

洞窟をちょっと奥に行き、座って睡眠をとる。

「おやすみ」

「おやすみ」





意識が覚醒する。

なんだ、誰かに持ち上げられてる。

確認すると、体格の良い、大人の男性だった。

やばいアリーチェさんに逃げてもらわなきゃ。

「アリーチェさん、逃げて!」

アリーチェさんが起きて、状況を確認してる様子だった。

「やばい、化け物が起きる」

「銃撃準備」

アリーチェさんに銃口が9個向けられる。

さすがに避けれないと思ったのか両手をあげて、敵意を無いことを見せる。

「惑わされるな、何をしてくるか分からない、警戒を緩めるな」

「話し合いにしないか?」

「お前がちゃんと話し合いする保証はどこにある?」

「お前らが私を捕らえたら、私はどうなる?」

「分からない、だが自由はほとんど無くなるだろう、そして実験台にもされるだろうな」

数秒の沈黙のあと。

「私の身の安全の保証と今お前が持ち上げてる少年の自由の保証で捕まってやるよ」

「いいのか?、お前の自由は保証出来ないぞ?」

「じゃあもうひとつ、普通の暮らしを、普通の恋を、普通の仕事を、普通の幸せが欲しい」

「俺らも無意味に殺しをしたくない、上申してみる」

数分の沈黙の後結果が帰ってきた見たいだ。

「人質の少年の自由と、お前の身の安全は保証しよう、だが普通の幸せは無理だ」

「なぜだ?」

「多分、お前の力は野放しにしておくにはデカすぎたんだと思う、故に国の監視下の元の生活になる、あとDNAとかレントゲンとかある程度は、お前の体を調べさせて貰う」

「人と会うことは出来るのか?」

「分からないが、恐らく人質に取られては面倒だから2人っきりは無理だ」

「わかった、だが食料は人間の血を飲まないと植えて死ぬがどうするんだ?」

「要するに人間を食料にか、わからないな、結局のところ、俺らは上の命令に従うのみで俺らが決めるのはその時にどのような行動をするかだ」

「わかった、でもこれだけは約束してくれ、その少年には何も手出ししないでくれ」

「それぐらいなら多分良いと思う」

「私を連れて行け」

その後家に送り届けられ、アリーチェさんについて何か決まったら連絡が来ると言われた、だがその連絡が来ることは無かった。









私は殺されることになった。

理由は人の血を飲まないと生きれないという理由で、飢えで苦しんで殺すなら安楽死した方が良いとなったらしい、ニュースでは国が安全に管理してるといった報道らしい。

死に方は銃殺。

「あの時の少年には私が死んだ事は伝えないで欲しい」

「どういう意図があるか分からないが検討はしてみる」

「頼んだ」

「もう時間だ」

「分かった」

鉄の鎖で固定され、逃げられないようにされる、やろうと思えば鎖は壊せそうだがその後は警備が厳重で逃げれなさそうだ。

大人しく殺されるとしよう、最後に優輝と会いたかったな。

「発砲」

その声と同時に銃声がなり、私の意識は落ちた。













流石に遅すぎる、あれから1ヶ月もたった、それでも連絡は来ない。

あの時連絡先は貰ってるから自分から連絡も出来るんだが、どうしよう、連絡しないとアリーチェさんにも会えないし、するか。

前渡された電話番号にかける。

「どうしましたか」

「この前の吸血鬼の隣で寝てて、保護された者なんですが、その吸血鬼は今どうなってますか?」

「上のものに確認してきます」

数分間待たされる。

「その吸血鬼なんですが、我々が殺しました」

一瞬何を言ってるのか分からなかった。

「なんであの時僕の自由と同時にあの人の身の保身も約束したんじゃ」

「国としては、人を犠牲にするのはダメだと判断したからだ」

「献血に使えなくなった血を使えば良かったじゃないか」

「国もそんなに金が無いんだよ」

「じゃあ僕が一生をかけて血を上げ続ければ」

「国民を犠牲にする訳にはいかない」

「僕はあの人と一緒にいたのが幸せだったその幸せをお前ら国が奪ったんだ、それも犠牲にならないのか」

「命が1番大事だ」

「じゃあ、僕があの人がいない世界なんて嫌だから死ぬと言ってたら?」

「それは俺の立場では判断できない、がもしかしたら生きてたのかもしれないな」

あの時のように戻りたい、あの時へ、まだアリーチェさんが生きてる時に戻りたい、そう強く願った。

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