アトラクション7
元の
まっすぐ進むか、左に曲がるか――
いくら考えても答えが出るものではないため、このまままっすぐ進むことにした。
吉野さんの機動力が下がったせいか、道が長く感じる。
ようやっと突き当たりまでくると、右は行き止まり、左は突き当たった先に道がある。
迷わず左に曲がり、また突き当たりまで来る。
左は行き止まり、右は――
――
その距離、約1m。
距離は近いも、吉野さんには僕の背中に隠れているがゆえに、見えていないようだ。
気づいた様子はない。
どうすれば、吉野さんが気づかないまま素通りできるのか思案する。
そして僕は名案を思い付いた。
「吉野さん、目を
「え? なんで?」
「いいから」
僕がそう言うと、素直に彼女が目を瞑る。
それを確認してから僕は彼女の手を取り、前に進む。
おそらく、さっきと同じで、この女の人も人形だろう。
見たところ動き出しそうにない。
動いたり、
そうして距離を
――ギョロっと首ごとこっちに視線を移動させてきた。
嫌な予感がした時にはもう遅く、
「グウォォォォォォォオオオオオオオオオオオ」
「キャ――――――――――――――――――」
タイミングを
それに驚いた吉野さんが再び
その時になって、それは人形ではなく、人であることを僕は知った。
暗いせいで、人形だと思い込んでしまっていたのだ。
この時になって、僕はジェットコースターでのことを思い出す。
次になにが起こるかわからないと、尚一層の恐怖を感じるからと、声に出してなにが起こるのかを確認していた。
今回、僕がやったことはそれとはまったく逆のことだ。
曲がり角から
僕は反省し、次からはむしろ積極的に、なにかいることに気づいたら知らせることにする。
そう決意し、先に進んでみるも、その先は行き止まりだった。
仕方なしに引き返すことにする。
その際に、白装束を着た女の人の横を通り過ぎなければならず、道を選択した責任から申し訳なさを感じる。
「グウォォォォォォォオオオオオオオオオオオ」
「キャ――――――――――――――――――」
当然のように、再度の脅かしと、悲鳴が屋敷内に響き渡った。
女の人から一刻も早く離れるべく、
「うぅ……」
今にも足を止めそうになっているも、それでも少しずつでも彼女が前に進もうとする意志を背中越しに感じる。
「
「逆に、仲村くんはどうしてそんなに平気なの?」
「吉野さんが怖がってるから、かな?」
「……なにそれ」
僕がお化け屋敷を怖いと思わない理由が不服なのか、吉野さんはムッとした表情で僕を見てくる。
それに対し、僕は苦笑いで返した。
元の十字路まで、まだしばらくある道中。
彼女が
「昔、お化け屋敷で迷子になったことがあるの」
語られる昔話。
そこには僕の知らない吉野さんがいた。
「家族で遊園地に来てたんだけど、お化け屋敷にはお姉ちゃんと一緒に入ったの」
お姉ちゃんがいるのは聞いたことがある。
隣に住んでいることもあり、何度か見かけた。
最近の記憶では黒髪ロングで、かわいい系よりキレイ系。
おっとりとしていて、背筋をまっすぐ伸ばした
確か今は大学生だったはず。
彼女のお姉さんを思い出しつつ、話に耳を傾ける。
「お姉ちゃんが『一緒にお化け屋敷に入ろう』って誘ってくれて。
その時、お父さんとお母さんは『待ってるから2人で行ってきな』って近くにあるベンチにいたの。
私はお姉ちゃんと一緒ならと安心しきってたんだと思う。
お化け屋敷がどんなところなのか考えず、お姉ちゃんについていく形でお化け屋敷に入ったんだけど、私が屋敷内にある飾り物に夢中になってる間に、気づいたらお姉ちゃんがいなくなってたの。
それで慌ててお姉ちゃんを探しに屋敷の奥に走っていったんだけど、その途中でお化け役の人にたくさん声を掛けられて、しかも追いかけられて、すごい怖かった。
今なら遊園地のスタッフさんだってわかっているんだけど、どうしても怖かった時の記憶を思い出しちゃって。今にも足がすくんじゃいそう」
「そんなことがあったんだ」
「うん。その時からかな、お姉ちゃん、活発な行動をする人だったんだけど、しっかりしないとっていう気持ちが強くなったのか大人しくなって危ないことは絶対にしない、させない。そんな徹底した性格になったの。
そういう風に変わったのは私のせいだと思うと、申し訳なくて。
お化け屋敷のことは忘れたいけど、忘れてはいけないような気がして。
あの時の記憶が頭にこびりついているの」
お姉さんの妹を思う行動の変化が逆に妹を苦しめているなんて。
このことをお姉さんは知っているのだろうか。
もし知っているのだとしたら、尚一層やるせない気持ちだろう。
「大丈夫! どんな過去があろうと、僕が絶対に吉野さんを怖い気持ちにさせない!」
僕は今できる精一杯をやり切ろうと、彼女の手を握る力を強めた。
それから優しく、だけれど絶対に離れないようしっかりと握り直す。
僕のすぐ真後ろに彼女がいるため、表情を
だけれど、彼女が僕の手を強く握り返してくれているのを肌で感じ、思いは届いているのだと確信した。
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