アトラクション6

 お化け屋敷に到着。


 外装がいそうはいたって普通。


『お化け屋敷』と書かれた看板に、代表とされるお化け――ろくろ首、幽霊、唐傘からかさ小僧こぞうなどのイラストが描かれている。


 ただ、描かれているイラストはファンシーで、怖い、というよりも、可愛かわいい。


 ここがまがりなりにも遊園地であることを思い出させられる。


 ただ一点。


 吉野さんが僕の背中に引っ付いてさえいなければ、僕は恐怖を感じなかっただろうに。


 まだ入り口前に立っているだけだというのに、ビクビクと震え、恐怖を感じていることは誰の目にも明らか。


「やっぱり止める?」

「……大丈夫。いいよ、前に進んで」


 気が進まないも、日の傾き加減からして、そろそろ時間になりそうだ。


 もたもたしていたら、時間内にクリアすることができない。


 僕は意を決し、屋敷内に足を踏み入れる。


 入ってすぐのところで、看板に描かれていたお化け達が等身大となり出迎えてくれた。


 等身大に触れられないようロープで通せんぼしている。


『ようこそ。勇気ある少年少女よ。恐怖に打ち勝ち、新たな扉を開け!』


 どこぞの女性声優だろうか、アニメ調のかわいらしい音声で出迎えてくれた。


 お化け屋敷とはいっても、そこまで怖い部類ではないのかもしれない。


 背中に引っ付いている彼女も同じことを思ったのか、僕の服を掴む力が弛緩しかんしているのを感じる。


 道に沿って前に進んでいく。


 すると、道が3つに分かれていた。


 正面、左右。


 その場に止まり、それぞれ道の先をのぞいてみるも、突き当たりから折れているため、道が続いているのかわからないようになっている。


 進んでみるしかない。


 吉野さんにどっちに進もうか相談してみるも、はっきりとした返答をもらえなかった。


 仕方なしに、僕は自分の勘を頼りに進むことにする。


 あまり僕のかんは当てにならないのだけれどね。


 まずは、左に曲がってみた。


 お化け屋敷であるのだから当然ではあるのだけれど、薄暗うすぐらく、ケラケラだとか、ワァーだとか、雰囲気を盛り上げんとする音が聞こえる。


 瞬間的に大きな音が鳴ると、彼女がビクンと反応していた。


 僕はその振動に驚かせるも、可能な限り平静をよそおう。


「大丈夫。僕がついてるから」

「うん」


 これ以上、ビクビクと振動を送られても困るため、彼女を落ち着かせようと僕は声をかけた。


 それで少しは落ち着いたのか、弛緩するのを感じる。


 心なしか、物理的な距離が近づいた気がするけれど、そのせいで歩き辛さが増した気がするけれど、必死に前へと歩を進める。


 背中の柔らかい感触かんしょくが気になり、恐怖がまったく感じられなくなった。


 恐怖を感じていないのは彼女も同じかもしれない。


 今はもう、ビクつきがなくなっていた。


 突き当たりまで来て、左右を確認すると、右は行き止まり、左はまだ先があるようだ。


 左に曲がってみる。


 少し進んで、また左に曲がると――


 ――首をった女の人がいた。白装束しろしょうぞくを着ている。


「キャ――――――――――――」


 僕らが目視もくしした瞬間に、吉野さんが悲鳴ひめいをあげ、その場にへたり込んでしまう。


 不謹慎ふきんしんかもしれないけれど、恐怖におびえ、女の子ずわりしている彼女をかわいいと思ってしまう。


「大丈夫だよ。ただの人形だから」


 恐怖をぬぐおうと声をかけるも、しばらくそのままシクシクと涙を流し、立てなかった。


 仕方なしに、僕は彼女が回復するのを待つ。


 可能な限り、首吊くびつり人形が彼女の視界に入らないよう気を配りつつ。


 不思議と僕はあまり怖いとは感じなかった。


 お化け屋敷自体、苦手ではないのかもしれない。


 まぁ、ただ、それ以前に、こんなにも目の前で怖がっている人がいると、恐怖心がどこかへと飛んで行っている感ある。


「……もう……大丈夫……早く、行こう」


 僕が手を貸すことで、ゆっくりと彼女が腰を上げる。


 言葉では大丈夫だと言っているけれども、まったく大丈夫には見えない。


 明らかに先ほどよりも機動力が低下している。


 さながら、沼に足を取られた兵隊のよう。


 時間がないから急いで行動したいのに、それができないもどかしさを感じる。


 結局、こっちの道はすべて行き止まりだったので引き返すことになった。


 お化け屋敷&迷路って、なかなかハードだ。


 恐怖ゆえに進行困難であれば、元来た道を戻り、そのまま外に出ればいい。


 だけれど、今回はクリアすることを求められている。


 でないと、悪魔達を助けられない。吉野さんと一緒に寝ることになる。


 いや、後者は僕的には歓迎なのだが、彼女が嫌がっている。ぴえん。

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