アトラクション5
僕は変わらないであろうクリア条件を心の中で
先を
前回の反省から2人でコースを確認。
どう叫ぶのかも打ち合わせ済みだ。
違う言葉を叫ぶことはない。
1つ目のように1回転することがなく、身長制限もこちらの方が緩いため、楽だと予想される。……たぶん。
安全バーをしっかりと締め、吉野さんとお互いの手を取り、天国なのか、
確かにこれは逝くだな。
もしかしたら、あのゾンビたちはジェットコースターが苦手で、その心情が言葉に表れていたのかもしれない。
そんなアトラクションに今、乗っていると思うと恐怖が増強する。
ぎゅっ!
そんな僕の心境を察してくれたのか、彼女が僕の手を握る力を強めてくれた。
ぎゅっ!
僕は心配させまいと、握り返した。
ガタン!
ジェットコースターが動き出し、長い長い坂を上っていく。
長い長い長い……長い長い……
「長!」
外から見るよりも長く感じられるその道のりは、恐怖をあおるのには十分すぎる。
当然のことではあるのだけれど、上ったらその分、下りる……いや、落ちる。
だからこそ僕は恐怖から手に汗が流れる。
そんな僕のヌレッヌレな手が彼女のキレイな手に触れている。
それを思うと、恥ずかしくて、いったん手を離して汗を
だけれど、いつ落ちるのかわからないことや、力強く僕の手を握ってくれていることから、一時的にでも離すわけにいかない。
致し方なしに、僕の汚れた手で、彼女の
なんか、そう考えると、エッチだね。
……いや、違う。
僕は真剣にジェットコースターという恐怖と戦っているのだ。
息を整え、逝く準備を整える。
上り切り、これから落ちるのかとも思ったけれど、よく見ると、先はカーブになっている。
この時に叫ぶことは事前に打ち合わせしていた。
『曲がるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
と、叫んではみたけれど、そこはそこまで勢いはなかった。
本番はむしろ、その後だ。
徐々に加速していき、
『落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
心臓を置いて、逝くかのような急下降。
そんな中でも、叫ぶ言葉やタイミングが一致したことを嬉しく思う。
だが、そんな
落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
本来なら叫ぶところを、その暇さえ与えてくれず、心の中に止める。
それは吉野さんも同じようで、叫び声が聞こえない。
甘くみていた。まさか、叫ぶことすらできないとは。
この時点ですでに、もう終わりにして欲しいと思っているにも関わらず、上昇していく。
さっきよりかは低く、
『落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
気を持ち直し、叫ぶ。
『曲がるぅぅぅぅぅぅぅうぅぅ』
最初の緩やかな曲がりとは明らかに違う。
これからさらに殺しにくる勢いを確かに持ち合わせている急カーブ。
僕はそれに恐怖を感じつつも、次の叫びに備える。
『落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
多少は緩やかになっているも、すぐにまた上昇。そして、
『落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
2連続の急下降でどうにかなりそうだ。
『曲がるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
多少緩やかではあるも、もう終わりにして欲しい。
そんな願いは叶わず、再度の上昇。
『落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
もう何度叫んだかわからない。
正直、叫ぶことに
『曲がるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
『な、が、いぃぃぃぃぃぃぃぃ』
カーブが長かったため、思わず叫んでしまう。
叫んだのが僕だけでなく、吉野さんもだったのが地味に嬉しい。
『上るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?』
上るはいらないにもかかわらず、思っていたよりもコースが長く、激しかったことから混乱してしまい、叫んでしまった。
これまた僕だけでなく、彼女も叫んでいる。
そして、どうやら、もう終わりのようだ。
徐々にスピードを落とし、スタート地点に停止――
――するかと思いきや、序盤の坂を上っていく。
これは、もしかしなくても……2周目、なのか……。
「……もう、下ろして……」
心の奥底からの願いは届かず、前へと進んでいく。
油断していた。
1つ目のジェットコースターが1周だったから、今回もそうだろうと思い込んでいた。
だけれど、そうではなかった。
まさか続けて2周目に突入するとは。
――目を覚ますと、僕はベンチに横たわっていた。
後頭部の柔らかい感触まで一緒。
本日2度目の膝枕だ。
「ごめん」
僕は状況把握後、即座に身を起こし、謝罪する。
「もう大丈夫?」
心配そうに僕の顔を
僕はそれに対し、心配させまいと、精一杯に振る舞って見せる。
「うん。大丈夫……それより、もう時間ないよね。早く最後のアトラクション――お化け屋敷に行こう」
僕は勢いよく立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。
しかし、時間がないというのに、彼女は慌てるどころか、僕の手を取ることすら
「……? どうしたの?」
「……行かないと、ダメかな?」
どこか
《ダメに決まってるよ。今更なにを言ってるのかな》
答えたのは僕ではない。
妖精はどこか嬉しそうな笑みを浮かべ、僕達に近づいてくる。
《アトラクションをクリアしないと、あいつらを解放することはできない。
それにもう、ここに来た時点で後戻りはできないよ。
さっき見たでしょ。
ゾンビの姿になってなお、クリアしようと必死の姿を》
あのゾンビたちは演出ではなかったのか?
そう言ってやりたい気持ちはあるも、クリアしないと帰れないというのは本当なのか、どうなのかは知る由もない。
《見なよ》
そう言って妖精が指し示したのは、先ほどまで僕たちが乗っていたジェットコースター。
そこには僕たちに先を譲ってくれたゾンビたちがいる。
人数制限があるゆえに、受付前で見た時よりも少なく感じる。
《あの人たちは元々、普通の人間の姿をしていた。
だけど、期限内にクリアできないがゆえに、あの姿となってしまった》
そりゃ、千回なんて異様な数字をクリアするのは難しいだろうに。
そう考えると、やはり演出なのかもしれないなぁ。
僕がそう考え、もしかすると、本当はクリアしなくても帰れるのではないかと思った。
悪魔達には悪いが、どうしても吉野さんがお化け屋敷に入るのがイヤと言うのならば、条件をクリアせず、悪魔達を助けられず、一緒に寝るのもやむなし。
諦めてもいいのではと僕は彼女に提案しようかと思案する。
いや、これは、決して、僕が彼女と一緒に寝たいがゆえの提案ではないことだけは、ご理解いただきたい。
だが、吉野さんは僕の考えとは違ったようだ。
むしろ、真面目で正義感ある彼女の心に火をつけた。
これが長年委員長を任され続けているゆえんだろう。
「もしも、お化け屋敷に入らなければ、ゾンビになると」
「そうだよ」
「もしも、お化け屋敷に入らなければ、天使たちは助からないと」
「当然だね」
「もうこうなったら、私たちの力でこの世界を変えるしかないね!」
「え⁉ これってそういう話なの?」
僕達は問いかけるように妖精を見ると、断言された。
「いいだろう。君たちがお化け屋敷を見事クリアできた
「やったね。くれるって」
「……うん。よかったね」
悪魔達を助けるって話だったはずなのに……。
お化け屋敷に入るだけなのに……。
話が大きくなってる気がする。
「それじゃ、行こう」
「
吉野さんが僕の手を取り、引っ張る。
ふと妖精がいる方を見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、僕達を見送っていた。
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