アトラクション3

 2つ目のジェットコースターに到着。


 行列ができていた。


 明らかに制限時間以内にクリアさせないという意図を感じる。


「すごい列。閉園時間までに間に合うかな?」

「……間に合わせる」


 一緒に寝たくないがゆえの言葉なのだろう。


 その発言が僕の心を攻撃していることを自覚して欲しい。


 さっきからグサッグサッと刺さるものがある。


 だが、そのことについて僕はなにも言わない。


 もし言おうものなら、僕が一緒に寝たがっていると捉えられない。


 時間以内にクリアしたいのか、したくないのか、なんて問われでもしたら、面倒なことになりかねない。


 心の中にそっとしまう。


 彼女が急いでいるのは悪魔達がもっとひどい目に合わされかねないからだ。


 そう考えることにする。実際そうだし。


 元々、悪魔達を助けに来たのだから、そう考えるのが普通だ。


 決して、吉野さんが僕と寝たくないわけではない、はず。うぅ……。


「絶対、時間内に終わらせる! 別のを先に済ませよう」


 カハッ!


 心の中で僕はダメージを受ける。


 もういっその事、殺して欲しいとさえ思うも、力強く僕の手を引く吉野さんに必死についていく。


 大丈夫。もし時間以内に終わらなければ彼女と一緒に寝るというご褒美が待っている。


 ……おかしい。


 妖精ようせいからはばつゲームだと言わんばかりに伝えられていたはずなのに、いつの間にか僕にとってのご褒美になっている。


 もうわけがわからないよ。


 彼女のためにも、時間内に終わらせるのが正解なの?


 それとも、一緒に寝ることをご褒美だと捉え、時間内に終わらせないのが正解なの?


 僕が選ぶべき道を思案しあんしている間にも、吉野さんはパンフレットを広げ、どれから攻めていくか思案している。


 時間内に終わらせることを考えれば、あまり考えている時間がないはずなのに、なかなか動き出さない。


 いくらなんでも熟考しすぎだろうと思った僕は、パンフレットになにか良からぬことでも書かれているのかと思い、グイッっと近づき、よく見ることにする。


 必然的に僕の顔は吉野さんの顔に近づき、ピトッと頬が意図せずして触れてしまう。


「……あ……ごめん……」

「ううん。……ありがとう」


 ?


 手をわたわたと動かしながら謝罪すると、どういうわけか、彼女にお礼を言われた。


 続く言葉でそのわけを知る。


「おかげで目が覚めた。実は昨夜はあまり眠れなくて、今少しだけうとうとしてたの。だけど、今ので目が覚めた」

「そうだったんだ。……ごめん。全然気づかなかった」

「ううん、気にしないで。眠れなかったといっても、ほんの少しだけだから」

「そうなんだ。……でも、無理しないで」

「うん」


 彼女の内心を知れ、僕はホッとするも、表情は晴れていないように感じられた。


 本当は辛いのを我慢しているのかもしれない。


「少しなら寝る時間あると思うけど、寝とく?」

「ううん、大丈夫。仲村くんが目を覚ますまで寝てたから……少なくとも、今日1日は持つよ」

「……そう?」


 僕が見る限り全然大丈夫そうに見えない。


 もしかすると僕がジェットコースターを苦手とするように、彼女にも苦手なアトラクションがあるのかもしれない。


 ……いや、それはないか。


 早くアトラクションを回り切ろうと提案するぐらいだもんね。


「それよりも早く回っちゃおう」

「そうだね。すべてクリアするまで何泊しようとも帰してくれなそうだしね」

「……うん……そうだね……」


 なにか悪いこと言ったかな?


 吉野さんはさっきよりも一層いっそうしずんだ顔でパンフレットを凝視ぎょうししている。


 やはりどこか変だ。無理しているのかもしれない。


 だからといって、止めようと提案しようものなら、僕が彼女と一緒に寝たがっていると捉えかねない。


 本人が嫌がっていることを思うと提案するのは躊躇ためらわれる。


 僕が試行しこう錯誤さくごしていると、彼女が動き出した。


 ブンブンとかぶりを振り、どうにか考えないよう努めているようだ。


「行こう。早くしないと時間になっちゃう」

「……そうだね」


 一抹いちまつの不安が残るも、僕らは動き出す。

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