第3話:眼から光線

「アンドレイ=ラプソティ様はさすがは『天界の十三司徒』と呼ばれるだけあって、エリート思考のレイシストなのデス。シャイニング・眼から光線ビームで焼き払ってしまって良いでショウカ?」


「アリスちゃん……。その口でモノ言う前に行動する悪癖は止めておいたほうが良いのでッチュウ……。アンドレイ=ラプソティ様、生きているでッチュウ? 死んでしまったのならば、復活天使術をアリスちゃんにかけさせるのでッチュウ」


 アンドレイ=ラプソティはただいま、アリス=アンジェラの不気味に光り輝いた右眼から発せられた一条の光線ビームに焼かれてしまい、身体のそこかしこからブスブスと煙を出して、乾いた地面に身体の正面側から突っ伏した格好で気絶してしまっていた。コッシロー=ネヅはまたしてもヤレヤレ……と首級くびを左右に振り、口からミスト状の光り輝く光線ビームを吐き出し、アンドレイ=ラプソティの身を癒すのであった。


 アリス=アンジェラの放ったシャイニング・目から光線ビームの一撃から回復したアンドレイ=ラプソティは無理やりにアリス=アンジェラの神力ちからの大きさを思い知るに至る。いくら不意打ちと言えども、たかだかシャイニング・眼から光線ビームで『天界の十三司徒』を気絶させられるだけの威力を発揮できる者など、両手の指で数えられるほどにしか、この世の中には存在しないのである。


 そもそもシャイニング・眼から光線ビームとは上位の存在が下位の存在を委縮させるために使うシロモノだ。『争いは同じレベルの者同士でしか起きない』とはまさに金言であり、天使や悪魔は下位の存在である地上界の生物たちに対して、どれほど自分たちが優れた存在であるかと、物理の力に頼ることなく、この手段で『わからせる』ことが多々ある。


 例えとして、ニンゲンの男が2人居たとしよう。どちらがより勇敢な戦士かを競い合う前に、まずは自分のおちんこさんのサイズがどれほどのモノなのかを主張し合うと言えばわかりやすいだろう。とんでもないビッグサイズのおちんこさんならば、その場で決着がつく。ドロドロの血みどろの戦いになるのは、大概、1~2センチュミャートル程度の違いからの物理の力でわからせてやるという流れなのだ。


 これでシャイニング・眼から光線ビームによる神力ちから比べがどれほどに大切なのかがわかってもらえたと思う。アンドレイ=ラプソティは自分を気絶に至らせたアリス=アンジェラの実力を否応なく認めざるをえなくなる。しかし、それは同時にアンドレイ=ラプソティにとっても都合の良いことであった。


「アリス殿。もしも、私がまた堕天移行状態になってしまった時は、レオン同様に、私の首級くびを刎ねてほしい」


「それはお断りさせていただきマス。ボクが創造主:Y.O.N.N様から与えられた使命は『レオン=アレクサンダーから天命を回収すること』と『アンドレイ=ラプソティを天界に連れ戻す』ことデス」


 彼女のこの返しにアンドレイ=ラプソティは苦笑せざるをえなくなってしまう。どこまでも真っ直ぐであり、そして、どこまでも強情なのだろうかと。創造主:Y.O.N.N様がアリス=アンジェラを地上に遣わした理由がなんとなくだが理解できてしまうアンドレイ=ラプソティであった。


(普通なら誰しもが嫌がる任務なはずです。用済みになったからと言って、廃棄せよと創造主:Y.O.N.N様が私に直接言ってこなかったのですから……。アリス殿は『混ざり者』ゆえに創造主:Y.O.N.N様からそう命令をされたと思っていたのですが、実のところ、この性格を見込んでのことなのでしょう)


 アンドレイ=ラプソティは自分でも気づかぬ内にポタポタと両目から溢れる液体を地面に落とし、染みを創り出していた。本当なら守護天使として、レオン=アレクサンダーの傍らに30年近く居続けた自分にこそ、レオンから天命を回収せねばならぬはずであった。しかし、創造主:Y.O.N.N様は慈悲溢れるお方である。そのむごたらしい命令をついには自分にはお与えにはならなかった。


 そして、肉持つ身であるアリス=アンジェラを恨めとばかりに、彼女を地上に遣わせたのであろうとさえ思ってしまう。アンドレイ=ラプソティが創造主:Y.O.N.Nを憎く思うのであれば、その代弁者であるアリス=アンジェラの命を奪っても良いというはからいなのだとさえ思えて仕方が無い。


 実際のところ、アンドレイ=ラプソティは堕天移行状態に陥り、アリス=アンジェラの腹を引き裂き、腹の内側からアリス=アンジェラを犯し尽くしてやろうとさえ思っていた。だが、堕天移行状態から通常の天使へと帰還した今、アリス=アンジェラへの恨みつらみは若干ではあるが軽減されていた。


 しかしながら、これはあくまでも若干であり、レオンの守護天使である自分に何の断りも無く、レオンの命をああもあっさりと奪ってしまったアリス=アンジェラへの複雑な思いが全て消えることは無い。アンドレイ=ラプソティはアリス=アンジェラの身上と心情を考慮しつつも、アリス=アンジェラの言動にこめかみにうっすらと青筋が浮き立つほどにはイライラッ! と不満を募らせることになる。


「お腹が空きまシタ。でも、周りにあるのは塩とイナゴしかありまセン」


「あの……。コッシロー殿。私はアリス殿を張り倒して良いんでしょうか?」


「自分はノーコメントなのでッチュウ。でも、アリスちゃんの言う通り、お腹が空いたのは事実なのでッチュウ」


 身体に神力ちからが未だに満足に戻らぬアンドレイ=ラプソティは天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅの背中に乗せてもらって、西へとゆっくりと移動を開始していた。しかし、進めど進めど、乾いた大地をさらに乾かせるように地面が塩で真っ白になってしまっている。


 ところどころ、その白を汚すように黒いイナゴとそれに喰われたインデーズ帝国の兵士たちの死体が転がっていたが、それを食べるわけにもいかないアンドレイ=ラプソティたちである。そんな荒れ果てた大地をただひたすらに西へ西へと進む一行はついにその場で動けなくなってしまう。


「河川まで塩になっているのは驚きデス。お腹が空いたのはある程度まで我慢できますけど、さすがに飲み水も一切無いのはきつすぎマス」


「これは困ったでッチュウね。塩の大地といようり、まさに死の大地なのでッチュウ。悪い意味でさすがは『天界の十三司徒』なのでッチュウ」


「そもそも飛んでしまえば良いと思うのは私だけなのでしょうか?」


 アンドレイ=ラプソティは身体を預けているコッシロー=ネヅにそう言うが、コッシロー=ネヅは頭を左右に振ってから、否定の言葉をアンドレイ=ラプソティに向かって放つ。


「アンドレイ=ラプソティ様の神力ちからの暴走と、呪力ちからの暴走がこの一帯を覆っているのでッチュウ。下手に他の神力ちからが働けば、何が起きるかわからない状態になっているのでッチュウ」

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