第4話:命の水
食べ物も飲み水も無い状態でコッシロー=ネヅたちは30キュロミャートルをひたすらに西へ西へと進み続ける。ようやく死の大地へとおさらばできたアリス=アンジェラは眼の前にある池へと頭からダイブする。
「ちょっとアリスちゃん、いくら身体の水分が足りなさすぎるといっても、それはダメなのでッチュウ」
「大地は塩で固められ、頭上からは創造主:Y.O.N.N様の恵みが燦々と降り注いでいたのデス! 雨水ですら珠で弾くボクのお肌もさすがにカサカサだったのデス! これくらいの羽目を外す行為は見逃してほしいのデス!」
アリス=アンジェラがそう抗議するが、コッシロー=ネヅが真に文句を言いたいのは、天使の羽衣が水に濡れたことで透け透けになってしまっていることである。アリス=アンジェラは胸が絶壁であることを良い事にちゃんとしたブラで胸を覆っていないのだ。それゆえに透けた天使の羽衣とブラというよりは薄いだけの布の向こう側から桜色の乳輪とその中心部にある突起物がうっすらとでは視認できてしまっている。
「あの……。アンドレイ=ラプソティ様にとってはあんな貧相絶壁の胸板で興奮することは多分ないと思うでっちゅうけど、マジマジと注視するのは止めておいてほしいのでッチュウ……」
「い、いえ。私はどちらかと言えば、ボン! キュッ! ボン! のほうがよっぽど嬉しいですから、胸どころか尻の肉付きまでもが貧相なアリス殿に眼を奪われることは……」
アンドレイ=ラプソティはそうコッシロー=ネヅに言うが、透け透けの天女の衣を纏い、キャッキャッと池の中で遊ぶアリス=アンジェラに何故だかわからないが視線が釘付けとなってしまう。彼女の言う通り、水分補給を終えたアリス=アンジェラは髪の艶、肌の張り、そして何より、見た目の歳相応と言っても良いほどの元気さを取り戻していた。
アリス=アンジェラの金髪ショートヘアから弾け飛ぶ水滴がそこら中に飛び散り、その数滴がアンドレイ=ラプソティの顔に当たる。それと同時にアンドレイ=ラプソティはドッキンドッキン! と心臓が跳ね上がってしまうのを感じざるをえなかった。
(クッ!? 何故、私は大きく動揺しているのだ!? アリス殿は愛しきレオンの仇敵だぞっ! あんな男の娘なのか女の子なのかわからぬ彼女に過剰反応するではないっ! 鎮まれ、我がおちんこさんよっ!!)
コッシロー=ネヅは背中に中途半端に柔らかな突起物が当たる感触を受けるが、アンドレイ=ラプソティ様の心情をおもんばかり、気づかない振りに徹するのであった。そして、おもむろに水遊びしているアリス=アンジェラに近づいていき、池の水をゴクゴクと飲み始めるのであった。
「コッシローさん。ボクの出汁が染み込んでいる水を飲まないでくだサイ。お金を要求しマスヨ?」
「まだまだ小便臭いガキが何を言っているのでッチュウ。逆に賠償金をもらいたいくらいでッチュウ」
アリス=アンジェラとコッシロー=ネヅとしては、これは普段ながらのやり取りなのであるが、困ったことになってしまったのがアンドレイ=ラプソティであった。見た目は美青年ではあるが、天使年齢から考えれば、アリス=アンジェラからは『おっさん』と言われても仕方がない自分にとって、アリス=アンジェラの身体から染み出した色々な体液が混ざっている池の水を飲んでいいのか!? と自問自答せざるをえなくなってしまう。
(私にやましい気持ちなぞ、一切無い! 私の心は愛しきレオンに預けているのだっ! さあ、気にせず飲むんだっ!)
塩で固められ、さらには天上から降り注ぐ太陽の光で、ひからびる寸前まで行っていたのはアリス=アンジェラやコッシロー=ネヅだけでなく、アンドレイ=ラプソティも同様であった。身体が水分を求めてやまないというのに、アリス=アンジェラへ対するやましさが邪魔して、なかなかに池の水面へと口を近づけていくことが出来ないアンドレイ=ラプソティであった。
そんなアンドレイ=ラプソティを背中から放り出したのがコッシロー=ネヅであった。アンドレイ=ラプソティはうわあぁあぁ!? と素っ頓狂な声をあげつつ、背中から池の中へと水没してしまう。コッシロー=ネヅもさすがに背中でもぞもぞし続けるアンドレイ=ラプソティを気持ち悪く感じて、そうしてしまうのであった。
頭から水を被ったことで、ようやくアンドレイ=ラプソティの頭の中を支配しかけていた煩悩は吹き飛ぶことになる。池の水は身体が縮こまってしまうと思うような冷たさではなかったが、今の今までドッキンドッキン! と跳ね上がり続けていた心音を収めるにはちょうど良い冷たさを感じるのであった。
アンドレイ=ラプソティは自分の愚考がばかばかしくなり、両手ですくった水を顔面にバシャバシャと痛みを覚えるほどにぶち当て、さらにはお椀状にした両手でゴクコクと池の水を胃の中へと流し込む。
「ふぅ……。生き返ります。自分がやったことが原因と言えども、こんなに水が美味しいと感じたことは産まれて初めてかもしれません」
お世辞にも池の水は池の底が見えるほどに透き通った清水ではなかった。しかし、濁水と言えども、乾ききったアンドレイ=ラプソティにとっては至上の酒のように甘く感じてしまう。
「やはりアンドレイ=ラプソティ様にもお金を請求すべきデス。ボクは飲まれ損な気がしマス!」
先ほどまでのアンドレイ=ラプソティであったなら、左胸に鋭利な
「今、可憐な美少女に対して、支払えるほどの手持ちがありませんので神聖マケドナルド帝国の首都に着くまで、つけにしておいてくれませんか?」
アンドレイ=ラプソティはまるで自分の娘がその父親に対して、不平不満を言っているが如くにアリス=アンジェラをあしらうのであった。しかしながら、世の中の父親はアンドレイ=ラプソティのように不動無心で自分の娘に対処は出来ない。これはやはり『賢者モード』と呼ばれる一種のゾーンに足を踏み入れているアンドレイ=ラプソティだからこそ、出来る態度なのだろう。
「うぅ……。軽くあしらわれてしまいました。ボクはコミュニケーション能力が欠如しているのでショウカ?」
「アリスちゃんの場合、欠如とまでは言わないでッチュウけど、冗談か本気かわかりづらいのが難点でッチュウね。相手の気持ちをおもんばかり、時と場合、そして場所を考慮しての発言を心掛けたら良いと思うのでッチュウ」
「なかなか難易度の高いことを言うのデス。しかも、それが出来てないコッシローさんに言われるのも腹立たしいのデス!」
「ひどいでッチュウ! 自分が割りと真面目に受け答えしてやったら、返しはそれなのでッチュウ!? もしかして、アリスちゃんみたいに自分も非常識人の枠に数えてるんじゃないでッチュウよね!?」
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