第2話:論破

 コッシロー=ネヅはは逡巡するアンドレイ=ラプソティに向かって、きつめの言葉を放つ。アンドレイ=ラプソティが今、天使の姿に戻れていることは『奇跡』だと言っても過言では無いと。


「奇跡は一度きりなのが相場なのでッチュウ。アリスちゃんも自分も創造主:Y.O.N.N様から与えられた使命があるのでッチュウ。自分がこの場に居ることが何よりも説得力があるはずでッチュウ」


「それはわかっている……。天界に戻るには福音の塔を使うか、キミの背中に乗るかの2択しかないことくらい。しかしだ。それでも私はレオンとの思い出を破壊されたくは無いっ!」


 アンドレイ=ラプソティは自分の手が血に汚れていることを自覚しながらも、これ以上、誰かの手により、レオンとの思い出を破壊されたくはなかった。レオンの血肉である神聖マケドナルド帝国に所属する100万の兵士たち全てを『塩の柱』と化したのは、アンドレイ=ラプソティ自身である。しかし、アンドレイ=ラプソティは、その100万人の命を奪った自責の念で彼自身の心が押しつぶされることは無かった。


 これは神聖マケドナルド帝国に所属する100万人の兵士の構成が原因であったとも言えよう。レオン=アレクサンダーが旗揚げ時からの将や兵士たちは実際のところ、元神聖ローマニアン帝国の首都を防衛するという任が与えられていた。このインディーズ王国との戦いを含め、レオン=アレクサンダー大王が東征のために率いていた100万人の内、失って痛かった命はレオン=アレクサンダーと彼の竹馬の友とも言えるアドラー=ポイゾンとアルバトロス=ダイラーの二大将軍のみなのである。


 その3人の命が失われたことは神聖マケドナルド帝国において、手痛いことは手痛い事実であるが、神聖マケドナルド帝国の屋台骨自体が大きく揺らぐ自体にまでは発展しない。そういうシステムを構築してきたのが他でもないアンドレイ=ラプソティ本人なのである。レオン=アレクサンダーが死んだ今となってしまった今の現状下、問題があるとすれば、レオン=アレクサンダーが指名した現在3歳児でしかないミハエル=アレクサンダーに帝位がつつがなく継承されるかどうかだけなのだ。


「私が神聖マケドナルド帝国の首都に戻れば、レオンが築いた大帝国はその版図を縮小するだけで済むはずなのだ。コッシロー殿。私はレオンの帝位を継承させたい相手が居るのだ。それさえ済ませれば、私は天界に戻っても良いと思っている……」


「そう……でッチュウか。自分も、そして自分の相方であるアリス=アンジェラちゃんがアンドレイ=ラプソティ様に説明も無しにレオン=アレクサンダーから『天命』を回収したのは謝るのでッチュウ。もっと自分たちとアンドレイ様とはわかり合えたはずなのでッチュウ」


 コッシロー=ネヅはいくら創造主:Y.O.N.N様から与えらえた使命があったとしても、アリス=アンジェラのやったことはアンドレイ=ラプソティにとっては『悪』と断言されても致し方ないことだと思っていた。それゆえに、その辺りをぼかしつつも、アンドレイ=ラプソティを天界に運ぶ期限についての猶予を与えようと考えた。


 しかし、ひとり蚊帳の外に置かれていたアリス=アンジェラはきょとんとした顔つきで、今までの話の流れをぶった切った発言をしだす。


「コッシローさん。何を勝手に主命を捻じ曲げているのデス? 創造主:Y.O.N.N様の言うことは絶対であり、いくら自由意志の範囲で解釈しても良いと言えども、越権行為だとボクは思いマス」


 アリス=アンジェラのド正論にコッシロー=ネヅはハアアア……と深いため息をつかざるをえなくなってしまう。この創造主:Y.O.N.N様大好き大好き抱いてくださいヒギィ! なアリス=アンジェラをどうやって理論でねじ伏せてやろうかと逆燃えしてしまコッシロー=ネヅであった。


「アリスちゃん、耳の穴をかっぽじってよぉぉぉく聞いてほしいのでッチュウ」


「はい。弁解があるのならば聞きます。創造主:Y.O.N.N様が自由意志を尊重するように、ボクも出来る限り、コッシローさんの話を聞きマス」


 アリス=アンジェラは絶壁と称しても問題無い胸をビシッと張り、コッシロー=ネヅの口から吐き出されるであろう『言い訳』を聞こうとした。そして、返す刀で言い返してやろうという態度をありありと見せつけたのだ。しかし、コッシロー=ネヅの放った一撃でアリス=アンジェラは思わず2歩、3歩と後退してしまう。


「自分はアリス=アンジェラちゃんと同じく、創造主:Y.O.N.N様から『アンドレイ=ラプソティを天界に連れ戻せ』とは言われたでッチュウけど、そもそも期限を決められていなのでッチュウ」


「そ、それは……」


「アリスちゃんはどうなんでッチュウ? レオン=アレクサンダーから天命を回収後、今すぐとか、ただちにアンドレイ=ラプソティと共に天界に帰還せよと言われたのでッチュウ?」

「グッ! コッシローさんは意地悪なのデスッ! 確かにボクはボクの自由意志の下に、今すぐ連れ帰ってこいと解釈してしまっていたのデス……」


 アリス=アンジェラはたじろぎながら、台詞も尻すぼみに声が小さくなってしまっている。アリス=アンジェラの思惑としては、コッシロー=ネヅがそもそもとしてアンドレイ=ラプソティを天界に『連れ戻さない』という選択肢を採ると思っていたのだ。それゆえに『期限』がどうとかという言い訳で、それを先延ばしして、後でうやむやにしようとしているのだと考えていた。


 しかし、コッシロー=ネヅはきっぱりとそもそもその根本を変えるとかという話をしているわけではないと言いのけてみせる。アリス=アンジェラは自分の不明さに切歯扼腕となってしまうのであった。


「だから、常日頃、ヒトの話をちゃんと聞けと言われるのでッチュウ、アリスちゃんは。勘違いも甚だしいのでッチュウ」


「ウゥ……。返す言葉が無いのデス……。覚えてやがれなのデス!」


 アリス=アンジェラはそう言うと、右腕の袖で涙を吹きながら、その場から走り去ってしまうのであった。コッシロー=ネヅはやれやれ……と顔を左右に振り、大声でどこに行くのでッチュウ? 旅は道連れでッチュウよーーー! と明後日の方向へと走っていくアリス=アンジェラを引き留めるのであった。


「紆余曲折があったでッチュウけど、アリスちゃん共々、アンドレイ=ラプソティ様と同行するのでッチュウ」


「あ、ありがとう? いや、私はコッシロー殿だけ居てくれればそれで良いのだが……」


「そんなつれないことをを言うなでッチュウ。アリスちゃんはこう見えても、アンドレイ=ラプソティ様よりも強いのでッチュウ」


「いや、まさか……。私は『天界の十三司徒』なのだぞ? 片翼の天使ということは、アリス殿は『半天半人ハーフ・ダ・エンゼル』ということだろう? 『混ざり者』が私よりも神力ちからが上だとぉぉぉ!?」

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