【主従オフコラボ】悪魔と執事 #あくまとてんし?!

 負けるつもりは無い、とは言ったものの……


(こりゃバケモンだな、おい)


 これが俺の実際の本音だった。

 ユーリは戦争末期の過激派の実力者を悉く屠ってきた明らかな強者だ。


 本来苦手である属性は戦闘において使い物にならないのが普通なんだが、複合魔法にいれてくるわ、転移に関しては十分すぎるレベルで使いこなしている。


 あまりにも

 ったく……どうしたものか。


 困り果てた俺はとりあえずユーリの出方を伺うことにした。


 ◇◆◇◆

(とあるリスナー視点)


 俺は板では『廃課金さん』としてそこそこ知られているただのMML箱推し一般リスナーだ。

 今日も新人の配信を見ていたのだが……。


「なんだこれ……?本当にVtuberの配信なのか?」


 目の前で起こる悪魔二人による魔法バトル。

 異次元とか言うレベルじゃ無い。

 ちらっと覗くコメント欄もこの光景に驚いているものが多い。

 MMLの技術がとか言ってられんだろ。


 もうこれはホンモノとしか思えない。


 ユーリちゃんの配信の時はまだ、準備出来たとは思う。

 なんせ初配信だったしね。


 だけれども、今回のはリスナーの提案で突発的に始まったものだ。


 それなのにこの臨場感、迫力、殺気にも似た気迫、二人の高揚感、焦り。

 そのすべてが画面から伝わってくる。


 これはスポーツの試合をスタジアムで見ているような。

 アクション映画の撮影をそばで見ているような。


 それよりももっと深い、小説の世界へ迷い込んでしまった……。

 そんな感覚に近いものだ。


 迷い込んだと言っても傍観者である俺たちはただ手に汗握り、魅入るしか無い。


 ただただ二人が楽しそうに戦うのを見ているしか無い。


 いや……ずっと見ていたい。


 技術がどうのなんてどうだっていいのだ。

 今目の前で創造物のような圧倒的リアルが繰り広げられているのだから。


 ならば、存分に魅入ろうでは無いか。


 それがただの一般リスナーに許された唯一の選択なのだから。


 ◇◆◇◆

(ユーリ視点)


 やはり、最初は私の出方を伺ってきますよね……。

 まぁ、それならそれでやりようはあります。


「【裁きの閃光ジャッジメント・レイ】」


 速度重視の光を飛ばすだけの魔法。

 しかし、属性は『聖』。

 悪魔には効果は覿面です。


「ヂィ!!……ってぇな!」


 いくら魔法防御力の高いヴァイサー様と言えど対となる属性の聖属性は掠るだけでもダメージは大きい。


 そんな光を無慈悲に飛ばしていきます。


 両手。


 両足。


 腹。


 額。


 あらゆる所に光線が襲い掛かります。


「やるなら焦らさねぇで一思いにやったらどうだ!!舐めプか?!」


 段々とヴァイサー様の余裕も無くなってきましたね……。


「舐めプなどではありませんよ。

 ただのです」


 そうこの魔法はとある魔法に繋がる仕込みでしかない。


「私が魔法を打った場所にはそれぞれ意味があります。

 両手両足は身体の拘束を。

 腹は魔力の拘束を。

 額は術式構築の拘束を」


 私はそう告げながら次の魔法を発動させる。


「【審判の時】。」


 ヴァイサー様の背後に十字架が現れ、その身体を拘束する。



「マジで魔力が練れねぇじゃねぇか。

 だが、これ程度なら数秒あれば抜けられる」


 悪魔族は腹だけでなく、全身で魔力を練ることが出来る。

 故に腹を潰されても魔力を練ることは可能だ。

 まぁ、一番働きが大きいのが腹である以上出力、速度は落ちるのだが。


「えぇ、それは知っています。なので、そんな隙は与えません」


 私はノーモーションで、空間の揺らぎすらも発生させず、ヴァイサー様の背後に転移する。


「んなっ、いつの間に?!」


 急な転移に驚くヴァイサー様を尻目にとどめの魔法を放ちます。


「少し、痛くしますよ。失礼しますッ!」


 狙うは心臓。その一点のみ。

 光の神器を以て貫きます。


「【聖槍グングニル】」


 実体を持った物体を透過する槍という矛盾した存在が確実に心臓をとらえます。


「バケモノめ……」


 拘束を解き、転移して距離を取ったヴァイサー様が、胸からグングニルを引き抜きながら言い放ちます。


「私からも言わせてください。バケモノが……」


 この攻撃を以てしても結界の破壊は126というのはどういうことなのか。

 悪魔種にとっては劇薬となる聖属性の攻撃に加え、心臓という弱点部位を貫いたにも関わらず結界を2枚も割られずに済んだなど、正にバケモノと言うしか他ないだろう。


 ほんとうちの主はイカれている。



 ◇◆◇◆

(ヴァイサー視点)


「私からも言わせてください。バケモノが……」


 お前だけには言われたくねぇよ。

 天使になるわ、聖属性の魔法打つわ、謎の拘束魔法かけてくるわ、仕舞いには神器で胸を貫いてきやがった。


 それに、俺はバケモンじゃねぇよ。

 ただの体質だ。


「なぁ、ユーリ。心臓ってどこにあるか知ってるか?」


 胸から引き抜いた槍で遊びながら聞く。

 あ、ユーリの手元に自動で戻って行きやがった。


「それはもちろん胸郭の中心部からやや左にずれたところです。

 故に私はその部位を狙ったわけですから」


 あぁ、そうだな。


「じゃあ、魔力を練るのは主に腹だが、魔力を生み出すのはどこだ?」


「それは、心臓の少し下にございます」


 魔力を生み出し、全身に送る場所……言うなれば『魔力の心臓』。

 それは一般的に心臓のやや下に位置している。


「そうだな。そうだ。だが、俺は違った」


 これはおそらく俺しか知らない俺の秘密だ。

 まぁ、明かしたところで問題は無い。


 だから教えてやることとしよう。


「ユーリ、こんなことを聞いたことは無いか?

『魔法の鍛錬を続けると肉体の性能が落ちる。故に常に魔力で強化しなければならない』と」


 俺たち魔族や、天使の間ではよく言われていることだ。


「確かに聞いたことはあります。それがどうしたんですか?」


 おそらくこの仕組みをユーリは知らないんだろう。


「この理由は至って単純で、魔法の鍛錬を続けると、その源となる言うなれば魔力の心臓が鍛えられる。それによって本来の心臓が圧迫されるんだ。

 そうすると血液運搬に多少の障害が出る」


「そして、全身で魔法を使う悪魔族は魔法を使うときに掛ける魔力の心臓への負担が少ないとは言え、多少は影響がある」


 ユーリも理解は出来たようで、頷き先を促してくる。


「ここで本題だが、俺は生まれつきの体質でな心臓は左にあるが、魔力を生み出す器官は右にあったんだ。故にいくら魔法の鍛錬をしたとて本来の心臓に掛ける負担はゼロだ」


 これが俺が他よりも抜きん出た魔法技術を持っている理由でもある。

 近くにある二つの心臓は互いに圧迫し合うからな。

 両方で弊害が出る。


 だが、ここで疑問が残る───


「それは分かりましたが、なぜ弱点である心臓を貫いたにもかかわらず、その程度のダメージで済んでいるのですか?」


 そう、結局心臓は左にあるのだからほぼ即死の攻撃を食らってまだ結界がすべて割れていないのか、ということ。


「心臓がなぜ弱点になるか、というとさっきの二つの心臓の位置関係にある。

 心臓のある位置に攻撃を受けると両方の心臓がダメージを負う。すると、魔力が一時的に生み出せなくなるんだ。そうなると即座に魔法による治癒が行えず、致命傷となるわけだ」


 なるほど……とユーリが頷いている間に、ちらりとコメント欄を見る。


 :こいつらコメント見てねぇな

 :配信ってこと忘れてそうwww

 :悪魔の解説聞く限りちゃんと即死級の弱点狙ってるユーリちゃんやべぇw

 :まぁ、俺ももう貫かれてるけどな、ハート

 :おーい早く気づけー

 :リスナー置いてくなw

 :あ、見た

 :ちっすちっす

 :どうだ?リスナーおいてはしゃぐ気分はw


 どうやら本気では無いと言えお怒りのようだ。


「すまんなお前ら。すっかり配信のこと忘れてたわ」


 :こいつwww

 :正直に言えば良いってもんじゃ無いw

 :さては反省してねぇな?


 コメント欄とじゃれていると、ユーリの方から声が聞こえた。


 いや、最後の方はだった。


「戦闘中に油断はダメですよ?」


 にっこり笑うユーリに今度はちゃんと両の心臓を貫かれた。


 そして─────


 パリンッ。



 3枚目の結界が割れた。

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