【主従オフコラボ】悪魔と執事 #あくまでもしつじ??

(ヴァイサー視点)


 :クソッタレwww

 :ユーリちゃんの口からそんな言葉が出るとはw

 :主に発して良い言葉じゃねぇw

 :まぁ、今のは言いたくなる


「いつも手合わせの時はこんな感じだぞ。負けず嫌いだからな」


 特にダメージを受けたときなんかは口が悪くなるよな、あいつ。

 まぁ、俺自身今の攻撃を凌がれるとは思っていなかったからちょっと焦ったしな。

 いつの間にあんな魔法を開発してたんだか……。

 術理は理解できるが、空間魔法の苦手なユーリが複合魔法を使っていなしたのは素直に感心する。


「ユーリよ、大丈夫か?」

 ちょっと悔しかったので、煽ることとする。


「ナメないでください。たかがまだ結界1枚です」


 立ち上がり、砂埃を風で散らしながら答える。

 確かにまだ余裕はありそうだ。


「私だって魔界のアカデミーの首席卒です。

 配信で無様な姿を晒すわけにもいきません」


 そう言ってユーリは次の魔法の準備を始める。


「なるほどなぁ……。でもそれは俺も同じだ」


 先ほど打った氷の刃を多重発動させる。

 20門くらいで良いか?


「〈アイスエッジ〉」


 氷の刃が四方八方からユーリに襲いかかる。


「〈マルチファイアバレット〉」


 が、冷静に炎の銃弾で対処されてしまう。


「さすがだなぁ、ユーリは魔法の構築が上手い。俺のとは根底から違う」


 :悪魔もすごいと思うが何が違うんだ?

 :俺たちには同じことをやってるようにしか見えんぞ?


 俺は〈アイスエッジ〉を飛ばしながらコメントに答える。

「俺のは多数の魔方陣を描き、射出する多重発動型。

 ユーリのは一つの魔方陣を描き、多数打ち出す単独発動型だ。

 この二つの違いと利点がわかるか?」


 :一つの魔方陣を作るだけで済むってことか

 :一つに収める分複雑とか?


 やはり人間界のラノベってのは良い魔法の教科書らしい。

 的確に捉えているな。


「正解だ。俺のは単純な魔方陣を出す分、発動は早く魔方陣も簡単だ。

 しかし、魔力の消費が少し大きい。

 ユーリのは魔方陣が複雑な分、発動は少し時間がかかる。

 だが、圧倒的に魔力の燃費が良い。一度発動してしまえば魔方陣を維持する魔力だけで済むからな」


 :なるほど……こまめに付けて消してを繰り返すより付けっぱの方が短時間なら有利ってことか

 :起動に消費する魔力が大きいほど……って感じか

 :なんでこいつらこんなスッと理解できるんや

 :俺もよく分からんかった


「まぁ、今はユーリは俺よりすごいことをやってると思ってくれたら良い」


 実際、そんな魔法を発動させつつ並列して別の魔法の準備をしているのだからな。

 俺も同じ魔法の多重発動は得意だが、並列発動は不得手だし。


「っと……そんな話をしていたら準備が終わったみたいだな。来るぞ」


 おそらくは俺の知らない魔法が来るはずだ。

 さぁ、どんな手で来る……?


 ユーリの詠唱が今、完結する。


「我は施そう。魔の者に光の救済を────


 その声の先には使ユーリがいた。


「マジか……」


 ◇◆◇◆

(ユーリ視点)


「クソッタレ……」


 思わず汚い言葉が出てしまいますが、仕方ないと思います。

 どうなってるんですか。


 私が初めて防いだというのに、追い打ちでちゃんと削りきってくるなんて、悪魔ですか?

 まぁ、悪魔なんですけども。


「ユーリよ、大丈夫か?」


 そこですぐに煽ってくるあたり本当にタチが悪い。


「ナメないでください。たかがまだ結界1枚です」


 砂埃を風魔法で散らす。

 半ば八つ当たりだ。


「私だって魔界のアカデミーの首席卒です。

 配信で無様な姿を晒すわけにもいきません」


 主席がこんなところでボコされていては母校に顔向けできません。


 ムカついたので本気を出します。

 まだヴァイサー様にも見せたことの無いとっておきを。

 というか私の両親しか知りませんけどね。


 この魔法詠唱が必要なんで面倒くさいんですけどね……。

 ですが、発動してしまえばヴァイサー様には……いや、にとって特効の魔法となります。



 魔法を悟らせないために詠唱は最低限の声で行います。


「我は問う。我は何者か。我は聖を尊び、魔を愛する者」


「〈アイスエッジ〉」


 先ほどの氷の刃が飛んできます。

 一度詠唱をキャンセルでは無く、中断という形で魔力の起こりを保存し、対処します。


「〈マルチファイアバレット〉」


 魔力で生成された砲門で迎え撃ちます。

 この魔法は一度発動すれば、魔力を供給するだけで効果が永続する代物です。

 アカデミー時代に私が開発しました。


 そして、詠唱を再開します。


「両方に属する半端者。故に互いを理解する者」


 この詠唱は私自身の存在意義を問うもの。


 私の映し鏡だ。


「戦は終わり、手を取り合うときが来た」


 かつて行われていた聖魔戦争。その最中に生まれたのが私だった。


 魔族と天使との間に出来た子として。


「ならば我が橋渡しとなり、導こう」


 最後の一句は私の決意だ。


「我は施そう。魔の者に光の救済を────【聖魔反転】」


 悪魔と天使のハーフである私にだけ許された

 属性を反転させ、二つの種族の平和に仇為す者へ処罰を施すための魔法。


 それが【聖魔反転】だ。


 悪魔である父の血が濃い私も発動時に少しダメージを負うが、天使の力ですぐに癒える。


 こうして、私は初めて天使としての姿を主の前に曝け出したのだった。


「マジか……」

 そんなヴァイサー様のつぶやきが耳に入ってきた。


 ◇◆◇◆


「マジか……」

 ユーリの出自は知っていた。


 雇う時に両親には会っていたから。

 だが、ここまでとは思わなんだ。


 普段から悪魔の姿を取っていたから、てっきり悪魔と天使どちらかの因子しか受け継いでいないものと思っていた。

 やられたな、これは。


 それと同時に納得する。


「そうか……聖魔戦争末期に皆が手を取り合おうとしていた頃に両種族にて発生していた過激派を鎮めていたのはお前だったのか、ユーリ!」


 戦時中に父が死に、俺に代替わりし、俺が天使と和平を結ぼうとしていた頃の話だ。

 各地で過激派を潰している奴がいるというのは聞いていた。

 そいつのおかげで過激派は減り、無事戦争は終わった。


 ユーリと出会ったのはその後だったが、彼女のオーラは完全に魔の者だったから疑いもしなかった。


「そうですよ、ヴァイサー様。今まで隠していて申し訳ございません」


 ユーリが謝る必要などないのだ。

 出自が特殊である以上、言えなかったのも理解できる。

 それに────


「俺は感謝しているのだ。天使と無事に和平を結べたのはユーリが戦ってくれていたからだ。ありがとう」


 これは俺の心からの言葉だ。


「いえ、私も平和を願っただけですよ」


 良い執事を持ったものだな、俺も。


「感謝はしている。だが、この勝負とは別だ。主として負けるわけにはいかない」


 勝負は勝負だ。それにリスナーの前で負けられない。


「分かっていますよ。私もこの姿を見せた以上負けるつもりはありませんから」



 こうして第二ラウンド開始のゴングが鳴った。

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