ギアを────入れろ。
さぁて、どうしようか。
俺の口元には自然と笑みが浮かぶ。
俺はそれを知覚しないままコントローラーを持つ手に力を籠める。
俺は生粋のゲーマーだ。
ゲーマーが窮地を楽しまないでどうする。
おいおい、ここからが楽しいんだろ?
味方よ、諦めてどうする。
やってやろうじゃんかよ。
「ヴァイサー、笑ってる。いい顔」
俺はフィナに気付かず浮かべた笑みを指摘される。
「そう言うフィナこそ、だろ?」
フィナだってゲーマーだ。
俺とは比べ物にならないほどの。
そんな彼女がこの状況を楽しんでいないわけがない。
:笑ってやがるぜwww
:楽しくて仕方ないって顔してるね
:あぁ~ん。良い笑みだわぁ~
:これは俺たちもやってやんねぇとな……
:統率取れすぎやろコメ欄www
:んーー優秀w
:この笑みは廃人のそれよw
廃人?何を言ってるんだ?
俺はともかくフィナは廃人の枠に収まるような奴じゃねぇぞ?
「俺たちはゲームに狂ってる者───狂人だぞ?」
画面の前のリスナーに見せつけてやらんとな。
「ボクたちのプレイ、見ててね。狂わせてあげるから」
さぁ、こっからが本番だ。
ギアを───入れろ!!!
俺たちの操作するキャラクターがずんずんと前へ進んでいく。
それはもちろん本来後衛であるフィナも、だ。
:前線リッターきちゃーww
:これは本気の構え
:wkwk
「右高チャー。これはボクがやる。ウザいあれよろ」
「おけ。ロング落としたわ。ちょっくら詰めてくる」
「あ゛ぁ?射程とスライド回数でいい気になってんじゃねぇぞ?」
:さっきより動きがレベチなんだがwww
:前に出てるからさらに奥の敵落とせてるのか……
:悪魔はじけてんなぁ
:なんかぞくぞくするわね……
:目覚めそう
俺ら二人が前で暴れているのを察してデカアサリを持ってきてくれる味方。
ありがてぇ。
「フィナ、一回挟むぞ」
「了解……ほいっと」
派手な効果音と共にまたも現れる『WIPE OUT!!』の文字。
その隙に味方がデカアサリを投げ込んで、敵ゴールのバリアが壊れる。
残りカウントは61。
ここでなるべくカウントを進めたいところではある。
じゃないと時間が間に合わない。
「ここは腕の見せ所だな。
フィナ、漏れ出た奴頼むぞ」
「ん、任せて」
これで心置きなく前線で暴れられる。
その前に、俺の持っているアサリ3個をゴールへ投げ込んでおく。
現時点で味方が入れてくれたのを含めると残りカウントは32。
右高から来るのはロング。
その長い射程で俺にカス爆風を一発当ててくる。
が、俺の武器は赤スパだ。
幅は狭いが、縦横無尽に移動できる『スライド』を持っている。
そのスライドで避け、予め敵陣の高台に設置しておいたビーコンへワープし一瞬でウラを取る。
「おい、こっちだ。マヌケ」
俺を見失ったロングを叩く。
そしてそのままの流れで左上を向く。
「だよな、居るよな。お前」
モニター越しにシャーカーと目が合う。
そして、その先の画面の向こうにいるプレイヤーに対し、ニヤリと笑ってやるのだ。
:ゾクッとした
:いい笑顔で草
:鳥肌やわ
:ここ読むか
「チッ。流石に抜かれるかリッター」
:えぇ(困惑)
:イカロール×雷神ステップ×スライドを抜くのを抜かれて当然みたいに言われても
:X帯はこれが普通なん?
:※これが普通ではありません
さて、残りカウントは14。
思ったより入ってないな……。
「味方やられた。一回引く」
俺とスシがやられたのを確認してフィナとホットが引いてくれる。
そこで自チームの攻めのターンが終わってしまう。
ペナルティカウントが+33。
合計47。
割と厳しいか……。
が、ここで諦めるのは───
「ヴァイサー。諦めてる?」
んな、事聞かなくてもわかってるだろ、フィナ。
「ここで諦めるのは、面白くねェ」
残り時間は1分ほど。
が、アサリはここからひっくり返せるゲームだ。
よし、復活だ。
既に中央には敵が進出してきている。が、フィナがぶち抜く。
たぶんゾーンに入ってるなコイツ。
射程に入る敵を即座に狙いはじめ、打ち抜いている。
自陣左側に展開しつつ、ビーコンを置いて敵陣へ向かう。
ささ、キルキル~。
:これはわからんなぁ
:激アツすぎる
:フィナ嬢のリッターやべぇw
:歴戦のスナイパーで草
:悪魔が敵にやられた暗躍やり返しに行ってるw
はーい、リッターおつ。
よし、敵高にビーコン置いてカモン押すか。
「来いッ!フィナッ!!」
カモンを押しまくる。
そして察したフィナがカウンターアサリを拾ってワープしてくる。
「ヴァイサーぁぁぁ!!」
着地と同時に敵ゴールへデカアサリをぶち込むフィナ。
そして、そのままリッターを構える。
「はァ?!なんでそれを抜ける?!」
フィナが構えて、おそらくチャージが完了したドンピシャのタイミングで傘を開く前のキャンプをぶち抜く。
マジか、今のフレーム勝ちすんのか。
フィナの腕には驚いてばっかだな。
よし、これで残りカウントは27。行ける。
とりあえずカモンを押しながら前線を押し上げる。
「ボクが見ておくから安心して」
「ったく、頼もしいな相棒!」
:普通に鳥肌なんだがw
:フィナ嬢の腕おかしくないか?www
:なんであれ抜けるねん
:悪魔も思わず叫んでて草
:あそこで悪魔の名前叫ぶフィナ嬢エモすぎる
そうして────
「勝ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
「頑張った。疲れた」
:おおおおおお!!!
:鳥肌やっべぇ
:やべー!やべーよ
:なんかめっちゃアツかった!
:試合のレベルとしては高いのは高いけど普通なのよ!でも、二人の熱量が神試合にしてるっていうか、こっちも熱くなれたというか!!
「疲れたけど、まだ一試合目なんだよなぁ」
「だね」
コメントでも忘れてたなどの声が多数上がっていた。
まぁ、こんだけ盛り上がっておいてやめるなんて選択肢があるはずもなく。
◇◆◇◆
「「ッしゃぁぁぁぁぁ!!!!!」」
最後にしようと言っていた試合も勝利で終わり、二人で声を上げた。
:この試合もアツかった!!!
:フィナ嬢ってこんな声出るんやなw
:お疲れ様ー!
「あー楽しかったわ。叫びすぎてのどがやべぇ」
ちょっといがいがすんな。ま、大丈夫だろ。
「うん、楽しかった。またやろう、ヴァイサー」
「おう!もちろんよ!」
フィナもいい笑顔をしていて、心なしか配信開始の時よりもテンションが上がっていた。
フィナもそれなりに声出してたからのどが心配なところではあるな。
こうして、俺の初コラボは無事大盛り上がりで終わったのだった。
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