敵対者には処罰を。

 ミシッ……。


 ユーリが軽く握りつぶした、元デスクと思われる木片がパラパラと画面下、そして画面外へとフェードアウトしていく。


 アンチは本当に怒らせてはならない人を怒らせてしまったな……。

 身内でさえ怒りに染まったユーリを止めることはできないというのに。


 我はとりあえずユーリを鎮めるべく、彼女の配信へとコメントを打ち込む。


 :〖ヴァイサー・ザリウス〗ユーリ、俺はそんなに気にしてないから大丈夫だ。

 :悪魔もよう見とる

 :とか言ってる場合じゃねぇだろwww


「ヴァイサー様。今回は見過ごせません。

 主人を馬鹿にされて沈黙を選ぶのならわたくしは自死を選びます。

 今回ばかりはわたくしの身勝手をお許しください。

 罰は後でなんでも受けます」


 あー……。これはもう無理な奴だ。

 我はそう悟った。


 我は静観しよう。うむ。


 :〖ヴァイサー・ザリウス〗みんなすまん。諦めてくれ

 :これはwww

 :マジなやつきちゃーwww

 :忠誠がおもてぇ……


 我はキーボードから手を離し、見守る姿勢に入る。


 ユーリが何をしでかそうと、所詮我らは人間にとってただのなのだ。


 そう。、だ。


「ふむ。ここで何かをしては城を壊してしまいます」


 ──────移動しましょうか。


 ユーリがこう呟き、パチンと指を鳴らす。


 そして、その瞬間ユーリは荒野に立っていた。

【転移魔法】。

 悪魔は魔法を得意とする。

 しかし、そんな悪魔でも運用が難しい魔法がある。

 それが、『空間魔法』と一括りにされる魔法だ。


 そんな魔法を軽々しく使って見せたユーリ。

 彼女は齢10歳にしてこの魔法を完璧にコントロールしていた程の大天才なのである。


 そんな彼女がこれからしでかすのは恐らく……。


 :は?????

 :一瞬で場所変わってて草

 :転移魔法かよ!!www

 :【MML】の映像技術やべぇなwww


「こんなことで驚いてはいけませんよ?」


 ユーリが自身の親指を噛み、その美しい指から血が流れる。

 そして、腕を前に出し、唱えるは美しき呪いの言の葉。



「────出でよ。魂を渇望する亡霊よ。我は敵の魂を欲す」


 ユーリの指から滴り落ちた血が地面に深紅の魔法陣を描き、そこからボロボロの布切れを纏い、手には大鎌を持つ骸が姿を現す。


「お呼びでしょうか御主人マスター


 ユーリが呼び出したのは魂喰らいソウルイーター

 彼女が裏切者を抹殺する際に呼び出す魔物だ。


 魂喰らいソウルイーター

 この魔物は実をいうと死神とそう変わりはない。

 変わっているところがあるとするならば、そのだ。


 死神は死者の魂を導き、輪廻転生の輪へ誘う役割を持った正真正銘、神なのだ。

 しかし、その善き神にも異端者は存在する。

 それが魂喰らいソウルイーターだ。

 死者の魂を喰らい、その味に快楽を見出してしまった死神。

 それらは神から魔物へと堕ち、魔界を彷徨い、魂を求める亡霊となる。


 そして、その中でも最も異端な存在が今ユーリが呼び出した魂喰らいソウルイーター、ベルなのだ。


「ベル、貴様に命じる。我が主を侮辱する輩の魂を我が眼前に引き摺り出せ」



 :おおおおおwww

 :ガチ死神やんwww

 :召喚のとことかクッソリアルで草

 :ユーリ様に命令されてみたい……

 :罵られたい

 :その冷ややかな目で私を罵って!!

 :わぁ……

 :わぁ……

 :〖ヴァイサー・ザリウス〗わぁ……

 :悪魔にもひかれてて草ァ


「承知いたしました、御主人マスター。すぐに連れてまいります」


 ベルが自身の大鎌で空間を切り裂き、中へと入っていく。


 本来、魔物に堕ちた魂喰らいソウルイーターは魔界に幽閉され、一生彷徨う事になるのだが、一体だけ人間界に降り立ち、好き勝手していた奴が居た。

 それがベルだ。

 彼は固有スキル、【界渡りトラベラー】を有しており、その能力を使って魔界、人間界、天界を行き来していたのだ。

 そして、ベルを発見したユーリにボコボコにされ、彼女に仕える事となった。


「皆様にお詫びを。ここからの映像は見せられません。

 耐性のない人間の皆様には少々ショッキングなものとなりますからね」


 :えーーー

 :え、そんなヤバいことすんのか?

 :見せろよ

 :〖ヴァイサー・ザリウス〗やめておけ。マジで

 :うっす

 :了解

 :なんやかんや言うこと聞くんよなw


 そして、ユーリのその言葉を残して配信画面は『準備中!ちょっと待ってね』と可愛く書かれた背景に切り替わった。


 そして、五分後。

 配信画面が元の荒野の映像に戻った。


 :お!

 :おかえり……っておいwww

 :天変地異起きてて草

 :ボコボコの荒野に美少女。そして涙を流し土下座する男。うーんカオス

 :情報量多すぎやろwww


 画面奥では稲妻は迸り、地面は抉れ、高温で焼かれたのかガラス化する地面。

 まさしく"天変地異"であった。


 そして画面中央には恐ろしい笑みを浮かべるユーリと、その目の前で涙を流し土下座する男。


 カオスを体現したその空間にユーリの声が静かに響く。


「反省しましたか?」


 静かながらにも威圧感を感じさせるその声は男を震え上がらせる。


「ひぃぃぃぃ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 もう、男の心はイカれてるみたいだな。

 ユーリの拷問にあったんだ。

 無理もない。


「すいませんすいません。もう、こんなこと二度としませんからぁ!!」


 うわぁぁぁぁん、と大の大人が情けなく泣く姿はより一層のカオスを配信に提供していた。


「もういいわ。

 ベル。返して来なさい。

 それと、これ。報酬ね。暴君の魂よ。民を貧困に陥れ、自身の腹を肥やし続けたクズの魂よ」


 :あれ、ユーリちゃん口調ちょっと変わった?

 :敬語もアリやけどこっちもいいな

 :柔らかくて優しい

 :言ってることヤバいけどなw

 :何サラッと魂取り出してんのwww


 報酬を受け取り、ベルが空間の歪みに消えてゆく。


「皆様、お騒がせしました。

 お詫びに、と言ってはなんですが、わたくしの得意とする『魔法』を皆様にご覧にいれましょう」


 :魔法ktkr

 :ワク(灬ºωº灬)テカ

 :楽しみすぐる


 そうですねー、とユーリが考える素振りを見せる。

 が、すぐにプランは決まったようだ。


「先ずはこの荒野をどうにかする必要がありますわね」


 両手を広げ、魔力を高める。


「万物よ、元に戻りなさい。


 ​─────時間逆転リバース!」



 こうしてユーリの魔法ショーが幕を開けた。

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