伝説の始まり

 俺が配信を開始すると同時に緩やかな加速を始めるコメント欄がサブモニターにしっかりと映っていることを確認し、メインカメラに視線を合わせる。


 何事も最初が肝心。基本は挨拶から。

 だが、ある程度はインパクトを残さなければならないのだ。


「よぉ、お前ら!俺が【MML】二期生の悪魔王ヴァイサーだ!!」


 ここでいったん区切り、間を開け、息を吸う。


「我が初配信を脳に刻めッ!!」


 わざと少し大きめの声を出す。

 声を以てして存在を脳に刷り込ませる。


 そうして示してやるのだ。


 ───俺がやってきたのだと。




 :おぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 :ビジュ良すぎだろ

 :そして安定のヌルヌル

 :声いいな

 :たはーイケボだ、いけぼぉ

 :ウルチャは?!まだなの???

 :初配信から限界ネキが湧いてらwww


「イケボ?はよくわからんが、おそらく誉め言葉であろうな。ありがとう」


 :

 :

 :

 :コメ、止まった……?

 :はっ、コメントする手が止まってたわw

 :笑顔が眩しすぎる……

 :(尊死)

 :好きです


「わ…俺もそう言ってくれるお前らのことを好ましく思っているぞ」


 俺だって初めて挑戦することにはある程度は緊張する。

 そして、そういう時に応援してくれる存在というのは大きいのだ。


「よし……んじゃ、とりあえず基本的なことから決めていくとしようか」


 そう言って俺は再び緩やかになるコメ欄を尻目に、事前に用意していたものを画面上に表示する。


 ─────────

【決めることリスト】

 ・ファンネーム

 ・ファンマーク

 ・配信タグ

 ・FAファンアートタグ

 ・呼び出しタグ



 :まぁ、ここら辺が妥当よな

 :初配信あるあるきちゃぁ

 :テンプレよな

 :wkwk



「まずは……ファンネームだな。お前らのほうで案を出してくれい!」


 :下級悪魔

 :悪魔騎士

 :デモンズ

 :下僕……hs(´Д`* ≡ *´Д`)hs

 :m9⊃゜∀゜)!!それだッ!!

 :m9⊃゜∀゜)!!それだッ!!

 :ネキたちさぁ……あ、俺もこれで

 :↑こいつもかよwwwあ、俺もこれで

 :初配信にしてこの統率力よw


 下僕かぁ。ずいぶんぶっ飛んだものを選んだな。

「お前らそれでいいのか……」

 人間のやることは意味がよく掴めないな……。

 悪魔の下僕になったっていいことなんてないだろ?

 まぁ、一昔前よりは待遇がよくなったとはいえ、週休二日しか貰えないんだぞ?

 有給だってそこそこしか貰えないというのに。


 :呆れ声助かる

 :助かる


「お前らが決めたことなら俺は文句はねぇよ。これからよろしくな下僕ども」


 :やばい、これぞくぞくする

 :新たな扉開いちゃうぅ

 :男だけどドキドキ止まんねぇよ

 :変態どもは回れ右して、どうぞ


 そのあとも順調に決めていった。

「よし、とりあえず考えてきてたぶんは全部決め切ったな」


 俺は決めた内容を入力したものを新たに画面に表示させる。


 ─────────

【決めることリスト】

 ・ファンネーム:下僕

 ・ファンマーク:😈

 ・配信タグ:悪魔でも配信

 ・FAタグ:悪魔的イラスト

 ・呼び出しタグ:見てくれ悪魔



 大体悪魔が掠ったものになったな……。

 これは俺の後でデビューするユーリには少し悪いことをしたかもしれない。

 俺もユーリも悪魔だからな。

 ま、ユーリは優秀だし、なんとかなるだろうと話題を次に進めようとした時だった。


 :男のお前がいたら邪魔なんだよ


 そんなコメントがふと目に付いた。

 すぐに、『このメッセージは削除されました。』という文言に変わってしまったが。

 おそらく、ユーリが裏で予め渡しておいたモデレーター権限を使って削除しているのだろう。


 第一期生が女性ばかりであったが故に男である俺が加わるのをよく思わない人がいるというのは事前に知っていたが、まさかここまで攻撃的な動きを見せるとはな。

 この業界では、この手のコメントを『アンチコメ』と言うらしい。


 こんなことを考えているうちに、このアンチコメがチラホラとコメント上で見られるようになった。


 :『このメッセージは削除されました。』

 :急にアンチコメ増えてねw

 :アンチくんも必死だねぇw

 :『このメッセージは削除されました。』

 :『このメッセージは削除されました。』

 :それにしてもモデレーター優秀よな

 :モデさん頑張ってんなぁ……仕事がはえぇw

 :アンコメ来たと思ったら消されてやがるw


「下僕のお前らも気にしなくていいぞ。

 俺は全くと言っていいほど気にしていないからな。

 こんな物理ダメージの伴っていない攻撃なんぞになんの意味がある?

 ま、そもそも俺には大抵のダメージが効かねぇけどな!」


 ふはははははッ!

 っと盛大に笑ってやる。

 なんせ、俺は売られた喧嘩はキッチリと買う派だからな。


「モデレーターは俺の部下1人をつけてある。今も頑張ってくれているみたいだな」


 :【速報】モデレーターワンマンプレイ

 :はっ?!この削除のスピードで1人?

 :作業の鬼じゃねぇかwww

 :反射神経パネェw


 それにしても、アンチコメ止まないな。


「おー頑張るねェ……手、疲れないか?」


 :アンチくんくっそ煽られてて草ァ

 :悪魔は物理&精神ダメージに抵抗あり。強い(確信)

 :『このメッセージは削除されました。』

 :『このメッセージは削除されました。』

 :『このメッセージは削除されました。』

 :アンチくん顔真っ赤でワロタwww


「さぁさぁ、アンチどもよ、お前らが今猛プッシュしている低評価ボタンあるだろう?」


 そう呼びかけている間も凄い勢いで増える低評価。

 もうすぐ4桁行くのではないだろうか?


「そこのさ、右に赤いボタンがあるだろ?そのボタン押して、ベルのマークも押して、毎回俺の配信にアンチコメしにおいで」


 :かつてこんなにアンチとバトルしに行くVTuberが居ただろうか……

 :アンチくんフルボッコやんけw

 :『このメッセージは削除されました。』

 :まーだやんのかいw

 :これはつおい


 今のアンチへの呼び掛けで低評価はもちろんうなぎ登りだが、高評価とチャンネル登録者数も増えた。

 嬉しい限りである。


「おっ、いいぞいいぞ〜。良い子だ。

 このまま俺の目標のために頼むぞ下僕ども」


 :この少し悪いお兄さんに甘やかされる感じィ……ゾクゾクすりゅ

 :んみゃ?!

 :とけるぅ

 :ネキが限界民と化してるwww

 :お、目標?

 :目標あんの?


「そりゃ、俺にも目標はある。気になるか?」


 そりゃ、気になるだろと言う声が多数だ。

 まぁ、これは元々言う予定だったから躊躇うことは無い。


「俺の目標は、登録者100万人を達成し、受肉する事だッ!!」


 :おぉぉぉ!?

 :まぁ、普通だな?w

 :前半は普通。後半は知らん

 :この箱みんな100万人目標にしてるよな

 :受肉てwww

 :受肉とどう関係あるんやw


「いや、関係はあるぞ。

 最近はコンプライアンスやらなんやらで魂を用いた受肉がタブーってなっててな……」


 :まさかの受肉にコンプライアンスw

 :コwンwプwラwイwアwンwスw

 :魔界も色々大変なんやな、その、世間の目とかw


「マジで冗談になんねぇからな。ノリで魔物100万体殺して受肉した奴なんか魔界でめちゃくちゃ叩かれてたからな」


 :魔界も人間界も変わらんのやなあって

 :ナニソレ魔界怖い


「だから、俺は配信で登録者を100万集める。つまりは100万の人のたましいを掴んでやるって事だな!」


 :なるほどなぁ

 :好きです。応援します。あとお金投げさせて

 :推します。

 :応援してるやで!


「ありがとうな、下僕ども!」


 :やっぱりゾクゾクするわこれ

 :ボイス販売はよ


「んじゃ、そろそろ終わるかね〜おつ悪魔〜」


 :おもしろかった!おつ悪魔!

 :おつ悪魔〜

 :おつ悪魔〜



 ヴァイサー・ザリウス【MML】

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