我が初配信を脳に刻め!!

 採用の連絡が来てから早いこと2か月。


 ついに我が初配信の日がやってきたのだ。


 その間はこれから同じ箱のメンバーとしてやっていく先輩方の配信を見て勉強をしていた。


【MML】一期生は4人。


 一人目はヴァンパイアのミーア先輩。

 深い紅の瞳、赤を基調としたドレスで身を包む少女だ。

 とにかく可愛いものが大好きで、特に可愛い動物には目がない。

 口癖は「血、吸わせて?」。

 ファンへの愛情表現に使っているイメージがあるな。

 どうやらヴァンパイアにとって吸血行為は一種の愛情表現らしい。


「この背景の城はどうなっているのだ……?」

 背景には城の王の間と思われるものが映っており、我が昔訪れた吸血鬼之王ヴァンパイアロード城に似ているのだ。

 最近の映像技術は凄いな。



 二人目はメドゥーサのキャザリー先輩。

 メドゥーサの名を表すヘビが頭髪から数匹出てきており、美しい模様の刻まれた瞳はサングラスの後ろに隠されている。

 いくらメドゥーサといえど画面越しであれば、石化の能力は通じないと思うのだが、おそらくこれもメドゥーサとしてのキャラを守る行為───所謂ロールプレイというやつなのだろう。

 こちらは近所のチョイワルなお姉さんといった感じだ。

 一緒に遊ぶと楽しい感じだな。

 悩みは「このサングラスのせいで第一印象が怖い人になっちまうのが辛ェ」とのこと。


 ギャザリー先輩も立派な宮殿が背景になっている。

 砂岩らしきものでできた壁、その他の装飾品を見るに……

「これ、魔界の砂漠『獄乾砂漠』の宮殿だよな」

 ま、気のせいだろう。



 三人目はミイラ女のフィナ先輩。

 全身に巻かれた包帯から覗くのは青紫の血色の悪い肌、紫色の瞳。

 そして、目の下には酷いクマ。

 ミイラだが人のイメージおように腐ったりなんかはしていない。

 魔界のミイラの話ではあるが、ミイラは肉体が腐ることはなく肌の色以外は人間に近い造りをしているらしい。


 彼女は【MML】のゲーマー枠で、ずっと何かしらのゲームをしている。

 それが故のあの酷いクマというわけだ。

 ファンからのあだ名は『完徹姫』『エナドリの女王』『廃人』など。

 ゲームで負けた日には口が悪くなるらしく、『口悪鬼』とも言われているらしい。


 彼女の背景は陰湿な雰囲気の霧が立ち込める森。

 これも魔界の風景によく似ている。

 うむ。



 四人目は天使のリリィ先輩。


 天使も一応魔物の括りではあるからな。

 純白の装束を身にまとい、傍らには杖が浮遊しており、背中には高位天使を示す六つの翼が揺れている。

【MML】一期生のリーダーを担っており、ハチャメチャなほか三人をまとめ上げる存在で、ファンからは『みんなのママ』と呼ばれ親しまれている。


 配信はおっとりしたものが多く、ほんわかしたゲームや、詩や物語の朗読をしており、かつて行われた朗読会ではリスナー全員が眠りに落ち、コメント欄が止まるという珍事件も起こしている。


 この背景……天界の神殿なのry……。



 もうここまでくると流石にわかる。

 この事務所、が所属しているのだ。

 そして、我のように生身を立ち絵として映しているため動きもヌルヌルしてるわけだ。

 小さい頃からこの城で育ったユーリが彼女らの正体に気付かないのも無理はない。

 だが、小さき頃から次期当主として連れまわされた我の目は欺けない。

 ほぼほぼ知り合いなのだから。


 ヴァンパイアのミーアは我の幼馴染と言ってもいいほどであるし、ギャザリー姐にはよく面倒を見てもらっていた。

 フィナなんかは週に数回の頻度で我とゲームを共にプレイしておるしな。コイツに色々と叩き込まれたものだ。

 リリィだけは面識がない。悪魔は魔界を統べ、天使は天界を統べる者故に会う機会がほとんどないのだ。


 これから我とユーリがこのメンバーの一員としてやっていくのが楽しみである。



 この2か月間先輩の配信を見ていたおかげかVTuberというもの、業界用語などに少し詳しくなれた。

 そして、今日がいよいよ初配信の日。

 事前にかたったーにて告知しておいたツイートはそれなりの反応を貰えており、あとは我が落ち着いて配信をこなすだけ。


 場所は悪魔城、王の間。

 デスクに置いたコーヒーを啜り気合を入れる。


「ふぅ、流石の我でも緊張するな。まぁ、自分らしくやろうではないか」


 はマウスを操作し、配信開始のボタンをクリックする。


「よぉ、お前ら!俺が【MML】二期生の悪魔王ヴァイサーだ!!」


 俺の声が配信に流れた瞬間サブモニターに表示してあるコメント欄が加速する。


「我が初配信を脳に刻めッ!!」


 こうして俺の───ヴァイサーのVTuberとしての歴史が始まった。

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