第9話 お互い勘違いしていたこと
今回のプロジェクトは大成功を収めた。
収益も利益も予想を上回る結果で、プロジェクトメンバーは大いに評価された。
唯は途中失敗して、メンバーに迷惑をかけたこともあったが、その後は必死になって仕事をした。
周りのメンバーからも認められ、課長の助言通り人脈も構成できた気がする。
明後日はプロジェクトメンバーと打ち上げで、今日は兼ねてから準備していた順が美幸に告白をする日だった。
朝から順と唯は終業後の段取りついて話し合っていた。
「とりあえず、今日仕事が終わったら駅前のイタリアン待ち合わせな。お前がいないと駄目だから絶対来いよ。」
「分かってるよ、時間より少し前に行くようにするから安心して。」
今日は唯と美幸で順でご飯を食べに行き、途中で二人きりにさせて順が美幸の告白するという流れになっている。
唯は順に折角だから最初から二人でディナーに行けば良いんじゃないかと提案したが、順は今まで色々とフォローしてくれた唯にも見届けて欲しいと、万が一振られたときは立ち直れないから、そのまま慰め要員として来て欲しいと。
前から感じていたが、美幸も順のことが好きだと思う。
大好きな二人がひっつけば唯もこの上なく嬉しいので、同席を快諾して今に至るというわけ。
終業後にカップルが誕生するかと思うと、朝から唯の顔は緩みっぱなしである。
唯を鋭い目つきで見ているのが、北見課長だった。
唯がミスをしてから、なんとなく気まずい感じになり、プロジェクトが終わるちょっと前に良い感じに戻ったのだが、時々感じる北見課長の鋭い視線。
その日はプロジェクトが終わったばかりということもあり、大した仕事もなく一日が終わった。
いよいよ順の一斉一大の告白タイムを迎えようとしていた。
美幸は仕事が残っているのか、先に行っててと言うので二人でお店に向かった。
企画部のフロアを出るとき、またしても北見課長が鋭い目でこっちを睨んでいた。
お店に着くと美幸が着くまで少し待っていなきゃいけなかったので、順と談笑していると、こちらに見覚えのある人影が来るのが見えた。
さっきまでこっちを睨んでいた北見課長がすごい剣幕でこっちに向かってくる。
順と唯は何事かと思い、席を立った。
課長は二人の前に立ち止まると大きな声で「山本、お前のファスナー全開事件を会社のみんなにばらされたくなかったら、今すぐ俺に着いてこい。」と言って唯の手を引っ張った。
唯と順は課長の行動に唖然としながらも、ファスナー全開事件と唯が同一人物だったと知っていたことに驚いた。
さらに課長は続ける「ファスナー全開事件を会社に言いふらすし、その日の下着の色も俺は覚えている。ばらされたくなかったら早くこっちにこい。」と強引に唯を胸に引き寄せた。
唯は課長に密着した時点で何も考えられなくなり順に「最初から二人で食事するべきだと思っていたから、私は課長に着いていくね。」と言い残して課長に抱きかかえられるように店を後にした。
強引に車の助手席に押し込められ、どこかへ向かって行く。
課長は一言もしゃべらず運転しているので、唯は全く訳が分からない。
「課長、ファスナー全開女だっていつ気付いたんですか。下着の色なんか見えてなかったですよね。適当なこと言わないでください。今日は順の勝負の日だったのに。」と抗議するものの、課長は何にもしゃべらない。
唯は負けじと課長に話かけるものの、全く課長がしゃべるつもりがなさそうだったので諦めて外を眺めていた。
着いたところは以前唯が行きたいと言っていた、夜景の綺麗な公園だった。
黙って車を止めた課長はいきなり真剣な顔をして唯を見つめて話はじめた。
「今日は高岡に告白される日だったのに、俺に邪魔されて残念か?ただ、俺はどうしてもお前を諦めることが出来なかった。無理やり連れてきたのは悪いが、黙って高岡と付き合うの見ることはできなかった。」
「えっ、高岡が私に告白するんですか?課長なんのことを言ってるんですか。順は何か私に黙っていることがあるんですか?」
「高岡と食事をしようとしていただろ。高岡は以前から今日告白するって周りに言っていたから、お前に告白する予定だったんだよ。」
「違いますよ、高岡は同期の美幸に告白する予定だったんですよ。私はそれを手伝っただけです。」と唯が答えると、課長は驚いた顔で唯を見て
「えっ、そうだったのか。俺が勘違いしていたってことか。」
と言って頭を抱え込んでしまった。
「課長こそ香さんと付き合っているんですよね。からかわないで下さい。」と言って唯は、課長を睨みつけた。
「俺が香と付き合ってるってことになってるのか?!」と課長は大笑いし始めた。
「俺と香が付き合ってるって俺の兄貴が聞いたら、俺は絞め殺されそうだな。」と笑いすぎて出てきた涙を拭きながら課長がつぶやく。
「えっと、どういうことですか?」唯は状況が分からず、再び課長に問いかけた。
「香は俺の兄貴と付き合ってて、来年結婚するんだよ。俺は海外から帰ってきたばかりだから兄貴の家に居候させてもらってて、先月家を出たんだよ。香が兄貴に会いに行くときは、時々会社から一緒に帰ったり、飲んだ後は迎えに来てもらってたんだよ。まさか誤解されてるとは夢にも思わなかった。」
「おまけに香とは昔から知ってる仲だし、兄貴のことが大好きすぎたから付き合うことは天地がひっくり返ってもない。」と唯の頭を撫でながら話をしてくれた。
「昔から仲が良かったから、下の名前で呼び合っていたんですね。おまけにお兄様と結婚するなんて。会社のみんなも課長と香さんが付き合っていると思っていますよ。」
「お前は俺が香と付き合っていると勘違いしていたし、俺は高岡とお前が付き合ってしまうかと思っていた。状況から勝手に想像するんじゃなくて、最初からきちんと話をすればよかったな。」と言うと、息を吸い込んで
「お互い誤解も解けたことだし、お前が好きだから、俺と付き合ってくれ。」と今までに聞いたことのない、今にも泣きそうな顔で唯をじっと見つめた。
唯は嬉しくて涙が溢れてきて、課長の背中に手を回し「私もずっと好きでした。」とぎゅっと課長を抱きしめた。
二人はそっと離れ見つめ合うとそのまま唇を重ねた。
溶けてなくなってしまうかのように夢中で二人はキスをして、時々笑い合い幸せなひと時を過ごした。
その日はそのまま課長の家に行き、唯が今までされたことのないような悦びを与えてもらい力尽きて二人でそのまま深い眠りついた。
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