第5話 すれ違い
昨日飲みすぎたせいもあって、頭が重かったが1本早い電車で会社へ向かった。
いつも通り課長に「コーヒー淹れますね。」と声をかける。
普段は「ありがとう。」と顔をあげてくれるが、今日は違った。
「昨日、高岡と二人で飲みに行ったのか。大事な仕事をほって飲みに行くとは良いご身分だ。普段は俺が怒ってばっかりだから、高岡になぐさめてもらったのか。」と北見課長が怒った顔でこちらを見ている。
「昨日は順と二人ではなくて総務の片岡さんも一緒でした。課長に言われることは、適格な指示なので怒られているとは思っていません。」と課長の顔を見ながらはっきりと言う。
唯は順と二人で出かけたと課長に誤解されるのが嫌だった。
「高岡のこと、会社で下の名前を呼ぶんじゃない。ちゃんと公私を分けれるのが社会人だろ。」
北見課長の言葉に、課長と香さんの初日に繰り広げられた出来事がまたしても頭をよぎり悔しさのあまり
「課長こそ香さんと下の名前呼び合ってるじゃないですか。公私が別れていないのはれていないのは課長もです。」
「俺と香のことは今関係ないだろ。俺は高岡と山本のことを言ってるんだ」
俺と香という言葉に2人の距離の近さを実感し、怒られていることよりも、その事実にショックを受け唯の目に涙が滲んだ。
涙を見られたくなくて、すいませんと呟き給湯室へ逃げ込んだ。
やはり2人は付き合っている、自分には全くチャンスないということがわかった今も課長に気に入られたくてコーヒーを淹れている自分が惨めだった。
コーヒーを淹れ終わるまでに、何回か深呼吸をして気持ちを整えて北見課長にコーヒーを渡す。
「先程は失礼な態度をとってすいませんでした。高岡は気のおける同期なので、つい下の名前で呼んでおりました。周りの方が不快な思いをしているのに気がつきませんでした。以後気をつけます」と言って頭を下げた。
すると課長が「すまん。言いすぎた。今のは俺が悪かった。コーヒーありがとう」と言っていつも通りパソコンに目を向ける。
課長から謝罪の言葉が来るとは思っていなかったので拍子抜けしたが、仲直りができたようで唯は嬉しかった。
その日もいつも通りに課長にボロクソに言われてお昼を迎えた。
「高岡、食堂行こう」と順に声をかける。
「おい、唯気持ちわるぞ。いきなり高岡なんていうなよ」と順が返してきたが、北見課長がこちらを見ていることに気づいたので、慌てて手を引いてエレベーターに向かう。
「おい、なんだよ。どうしたんだよ」としつこく順が聞いてくるので、食堂で説明すると言って順を引きずって行った。
途中美幸も合流して、ランチを食べながら今朝起きたことを説明した。
「それって、北見課長が俺にヤキモチやいてるみたいだな。」と順が言って、香も「なんか痴話喧嘩みたいね」と同意する。
「北見課長には香さんがいるから、そんなことは絶対にない。、あるわけない。変な期待を持たせるようなこと言わないでよ。」だんだん自分がみじめに感じてきたので、これ以上は無しを続けたくなかった。
「この話はこれでおしまい」と話を無理やり終わらせた。
美幸も順もまだ何か言いたそうにしていたが、、気づかないふりをした。
更に最悪なことに北見課長と香さんが一緒にランチをしたいは姿が視界の端に入り、まだ食べかけだったが、その場から離れたかったので席を立った。
順が慌てて「唯、待てよ。」と引き止めてきたが、「会社では他の人の目があるから、下の名前で呼ばないで」とだけ声をかけて片付けに向かう。
北見課長がこちらをじっと見ているのを感じていた。
午後からも怒涛に仕事をこなしていったが、最悪な日はどこまでも最悪で、ミスを連発してどん底な気分だった。
終業間際、香さんがやってきて
「祐樹、早くしないと遅れる。終わったらすぐきて」北見課長に声をかけている。
唯は2人がデートに行くと思うと、更に最悪な気分になる。
終業のチャイムとともに急いで出て行く北見課長を尻目に、唯は最悪の気持ちのまま仕事をしていた。
その日は気分が最悪だったので、何も考えたくなくてとにかく寝たかった。
家に帰るとシャワーも浴びずに寝てしまった。
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