第14話 【荏原三角商店街】
【罅谷】にある【象牙の塔】の【光庭】にて、
「そういえば、あの方は供物として捧げた蜘蛛を昼食にする、と言う話でしたが、我々の昼食はどうするんでしょうか。この【象牙の塔】には、食堂は無さそうな気がしますが……。」
「【象牙の塔】には、食堂は無いな。だが、野営用の食料がある。参考程度に差し上げよう。【罅谷】を出て、南下していくと、読書喫茶がある。持ち込み可だし、折角だから屋内で食事にしよう。」
表の世界における、国道1号線を南下していく。もし、表の世界であれば、『白金高輪』辺りだろうか。
分岐している道の狭い方が少し上り坂になっており、その坂の上に、常井氏曰く『読書喫茶』があるという。
『読書喫茶』の店名は【
――――――――――――――――――――――――――――――
かなりの距離を歩く。現在午後2時過ぎ。常井氏曰く『野営用の食料』とやらを分けて貰う。中身は……竹皮で包まれた、わさびにぎり&生姜、乾燥芋、食用煮干し、ブルーベリーの飴等。いや、一応『読書喫茶』の紅茶はあるけれども。
「遠慮は要らないよ。」
「…………。」
わさびにぎり。これはまだ分かる。何故、わさびなのか、は分からないが。
乾燥芋。七輪で焼くと美味いらしいが、そのまま食べても問題ない。食用煮干しは、カルシウム摂取。ブルーベリーの飴は、眼に良いとか。
「遠慮なんか要らないよ?経費に含まれている。」
そういう常井氏は紅茶一杯のみ。飲み終わるや否や、読書喫茶内の本を読み漁っている。相当な本の虫だ。あの人は断食してでも本を読んでいるに違いない。
――――――――――――――――――――――――――――――
表の世界における、国道1号線をさらに南下する。こちらの世界では、【壱番道路】というらしいので、以降、そう呼ぶことにする。
現在午後5時前。ここはどこだ。表の世界における、『戸越銀座』、『武蔵小山』、『中延』辺りか?ここが、本日の終着点「
「ようこそ。【荏原三角商店街】へ。」
アーケードのような屋根に覆われた商店街が、三角形の各辺を構成している。勿論、現実世界には、【荏原三角商店街】という場所はない。
「三角形の中心には何があるんでしょうか?」
「気付いたか。まぁ、遺跡だが、ダンジョンの様なものと言えば、君には分かり易いか。階層は地下2階までと浅いがな。ここ荏原区は、
荏原区は、現在にはないが、かつて表世界にもあった区分で、戸越村、下蛇窪村、上蛇窪村、小山村、中延村で構成される。
但し、ダンジョンは、「蛇窪遺跡」等と呼ばれているらしいが、表の世界には、そんな場所も無かった
更に、荏原郡と呼ぶと、より広大な地域を含む。概ね品川区、目黒区、大田区および世田谷区の一部辺りに相当し、南は神奈川県川崎市の前身である、
この世界の荏原郡は、環状地下鉄の起点となる都市であり、その中心となる行政区が、この世界では、荏原区と呼ばれているのである。
――――――――――――――――――――――――――――――
【荏原三角商店街】を探索していると……ガチャを見つけた。1回銀貨2枚。2回ほど回してみる。
常井氏は、金貨1枚で10連ガチャを回していたが。
この世界では、プラスチックのカプセルではなく、直方体の木箱に中身が入っている。
想像がつかない?箱根の寄木細工のからくり箱を想起してほしい。
「七手詰めだな。」
常井氏は、まるで詰め将棋のように言う。
「右下右下左下手前、開封!」
レーザーポインター。クラス2。
「
同様に、
学会などでも指示棒の代わりに用いられている道具だが、表世界でも、1990年代の後半にはガチャガチャなどで、合計で2000円ぐらいを投入すれば、当たりの景品として入手出来た。
当時は、文房具店などでも1000円前後で入手出来た記憶もある。ただ、目に入ると視力低下などの危険性があるので、2001年以降、クラス3A以上は、規制されてしまったようだが。
――――――――――――――――――――――――――――――
【参考】レーザ製品のクラス
クラス1:通常の使途において殆ど安全
クラス2:瞬きなどで回避できるが、長時間の観察は危険
クラス3A:直視しても瞬きなどで回避できるが、光学的手段での観察は危険
クラス3B:直視は常に危険だが、反射光は通常は安全
クラス4:反射光であっても危険。火傷などの皮膚障害や発火による火災発生の危険を伴う。
――――――――――――――――――――――――――――――
もう一つの箱の中身は……。
「右下右下左下手前、開封!」
集音器だった。表世界では、これも「盗聴器」とかいう名前で、ガチャガチャの景品として入手出来た。
「ふむ。レーザーポインターに集音器か。どちらも、魔導科学の素材として使えるな。」
現在の残高は、金貨10枚、銀貨18枚、銅貨10枚。
常井氏は、次に雑貨店に入っていった。中には、百円均一でかつて見掛けたような、十徳ナイフが有った。この店は銀貨1枚均一らしいので若干割高に感じたが、常井氏曰く、性能も悪くないし、これも魔導科学の素材として使えるらしいので、まとめ買いしておくべき、とのこと。取り敢えず、5本買う。宿に銀貨3枚。
現在の残高は、金貨10枚、銀貨10枚、銅貨10枚。
「この辺りは、コロッケが名物なのだ。南瓜とか薩摩芋とか。あと、焼き鳥の店もあるぞ。」
常井氏がはしゃいでいる。案内人がはしゃいでどうする。威圧感のある外見との落差が物凄い。
でも、こうして異世界二日目が終わったけど、これでいいのか?このままでは、気が付いた時にはいつの間にか「どうぞ異世界の旅をお楽しみ下さいツアー」になっているぞ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます