第5話 梅雨明けの予感
気がつけば眠ってしまっていた。目を覚ますと宙に浮いた感覚は無くなっていた。身体は重たく、動かすことも出来ない。宙に浮く前と同じ感覚だった。夕暮れで辺りは赤く染まっている。
目の前に、潤み充血した目が写る。気がつくと彼が私の方をじっと見ていた。彼が目の前に居て驚いたが、私が眠ってしまっていただけなのかもしれない。
さっき見た光景が頭から離れない。
あれはなんだったのだろうか。
目の前の彼は私に何か言いたげな目をしていた。…お酒の匂いはしない。さっきの変な場所から戻ってきたような気がする。
彼に色々話したい気分だったが、私が言葉を出す事は出来なかった。何度も声を出そうとして喉が焼けるような痛みを伴ったが、その痛みが報われる事は無く、彼は何かを思い出したかのように去っていった。
私は彼に聞くことも話すことも出来なく、頭が真っ白になっていた。
空は晴れたまま闇が降り始めて、星がひとつ、ふたつ、と光り始めた。
星の光が先程の眩暈を思い出させる。もう一度あの場所に戻ってしまうのではないかという不安が押し寄せてくる。
そんな不安とともに恐らく最近の、記憶が少しずつ頭の中で思い出されてゆく。
そういえば最近、身体が透けて見えることがあった。それから、夢を見た。さっきの眩暈で見たような車に轢かれてしまう夢。
最近何故か怖くて怖くて仕方がなくて、眠ることが出来なくなっていたのは、この夢が関係あったのかもしれない。
もしかして私は本当は死んでしまっているのではないか。
手を上にかざすと星が透けて見えた。そういえば、ここ一年ほどの記憶が無い。もし私がさっきの車に撥ねられて死んでしまっていたとしたら、一年分の記憶が無いのも頷ける。
そんな確信的な考えを否定したくて、彼に会うための雨が空から降ることを願って、空をずっと睨み続けた。
星がギラギラと輝いている。それから光が広がるように、雨が星に落ちたように、美しかった。
目の前はぼやけて何も見えない。
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