第3話 蕭蕭と落ちる

 今日は身体が重たい。最近は何故か晴れの日に動くことができない。自由に動くことが出来るのは雨の日だけだ。今日もその決まり事から外れること無く、体は重たい。

 花壇に座る紫陽花の気分で、何とか一日の終わりを待つ。それでも頭は重たいし、体は怠くて仕方ない。

 晴れの日はいつもこんな感じだ。

 ここから動くことも出来ないし、この景色も見飽きてしまった。


 手持ち無沙汰で、雲が動くのをぼうっと眺めていた。





 すると何処からか雨水の跳ねる音と、足音が聞こえた。

 音のする方を見ると、彼が橋のある方からこちらへ向かって歩いてきていたのだ。

 予想外の事実に心が弾む。手足を無理矢理動かそうとするが、身体は重たいままだ。

 今にも、走りだしたい気分なのに。


 そういえば彼は毎日散歩にこちらの方まで来ているようだ。真面目だなあ、と可笑しく思っていると、私の前まで来て彼は立ち止まった。少しからかおうと思って口を開こうとした、その時、彼の目から涙が溢れ落ちた。彼はその場でしゃがみ込む。


 彼は私の前で涙を見せることなんて無かった。そんな初めて見る姿に目を奪われる。


 その姿は紫陽花を連想させられる。

 地面や膝にぱたぱたと溢れ落ちる涙は、枯れそうな花が花びらを落としていく様だった。


 そんな光景に面を食らう。どうしたんだろうか。たしかに彼に少しいじわるしようと思ったが、それは違うだろう。

 彼はどちらかというと冷静な人だ。彼は何か抱えているのだろうか。



 私は混乱しながらも、どうしたの、と声をかけようとした。




 その時、前方からの赫々かっかくたる光に眩暈がした。

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