31.サボり魔と喋り魔
二年に進級して、ほどなく一週間が経つ。
仄かに漂っていたクラス内の緊張感もだいぶ解れ、すでに新しいグループがそこここで形成される中、俺の交友関係はほとんど変化していなかった。
「それで、ハギーは新しい友人はできたのかい?」
学食での昼食中。
誘ったわけでもないのに、なぜか当然のように向かいの席にいる芥川ハルト。
学食の中でも特に高価なメニューであるチキン南蛮定食に舌鼓を打ちながら、やはりいつものように鼻につくキザな物言いで俺に話しかけてきやがる。
片や俺の前にあるのは最安価の日替わりB定食。今日のメインは白身魚のフライ。外れの日だった。
「分かり切った質問をするな。それとその薄気味悪い薄笑いもやめてくれ」
「申し訳ないけど、薄笑いに関しては元々こういう顔なんだよ。文句なら僕のペアレンツに言ってくれ」
「ならその薄気味悪い喋り方だけでもなんとかしろ。そっちは後天的だろ」
「世の中には生まれながらにして喋る赤ん坊だっているのさ。天上天下唯我独尊、なんてね」
お前は釈迦か、と突っ込む代わりにキャベツの千切りを頬張った。まともに付き合う方が馬鹿馬鹿しくなってくる。
「その調子だと、ハギーは今までと変わり映えがないようだね」
「だから言ってるだろ。分かり切った質問をするなって」
「なんなら僕が取り持ってあげようか? 特に女の子ならたくさん紹介できそうだよ」
「どう考えてもお前目当ての女子だろうが。大体、お前絡みの女子なら間に合ってる。倍のお釣りがあるくらいにな」
「僕絡み? ……ああ、もしかしてカレンのことを言っているのかい?」
またしても分かり切った質問。改善する気は毛ほどもないらしい。
「そう言えば、あの子がデブ研に入ってからもう一週間経つわけか。どうだい、元運動部のバイタリティは発揮できてるかな」
「どうもこうも、毎日来ては好きなだけ俺にウザ絡みするの繰り返しだ。まともに活動する気概なんて微塵も感じられない」
「へえ、じゃあ毎日ちゃんと出ているわけだ。大したものじゃないか。あっぱれと言ってあげたいね」
「俺の話を聞いてたか? どこがあっぱれなんだブラコン野郎が」
「いやあ、本当に大したものだと思うよ? まだ一週間とは言え、あのカレンが皆勤賞なんてね。水泳部時代なんてサボり魔で有名だったから」
「サボり魔だって……?」
なんなんだあいつは。ますますわけが分からない。
いや、もしかすると今後はデブ研の方もサボるようになるかもしれない。
となれば多少は希望が持てる。ウザいウザいと我慢してきたが、ここはもう少し様子を見てもいいかもしれない。
「ところでハギー、さっき倍のお釣りがどうとか言っていたがどういう意味なんだい? なんだか含みがあるような皮肉だったけれど」
「は? ……なんだ、お前は知らないのか」
「なんだいなんだいその言い方は。余計に気になるじゃないか」
分かりやすく身を乗り出してきた芥川に対し、俺は「別に」と腰を上げた。
「知らないに越したことはないからな。言いふらされても困る」
「知られたらハギーが困るようなことなのかい? なんだそれは、凄く面白そうじゃないか。ぜひ詳しく」
「笑顔を輝かせるな。あと、俺はごちそうさまだ。さっさと食え喋り魔」
空の食器ばかりを載せたお盆を持ち上げる。
話に夢中だった芥川は子犬のように眉根を下げながら、すっかり冷め切っているであろうチキン南蛮の残りを口に運んでいた。
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