32.ローカルルール適用です
芥川ハルトからの分かり切った質問はともかくとして、実際問題、俺個人の人間関係はほとんど変わっていない。特にクラス内においては。
新しいクラスメイトとまったく話をしていないかと言えばそんなこともなく、むしろあの薄笑いデフォの優男に絡まれているせいで人が寄ってくることは間々あった。そのおかげで変にクラスで浮くこともないとも言えるが、時には騒がし過ぎることもあるため俺としてはあまり歓迎できることもでない。
そんな曖昧で面倒な距離感を保っている結果による現状維持……のはずだが、クラス外まで範囲を広げると、去年に比べて劇的に様変わりした関係もある。不本意ながらではあるが。
「そう言えばなんですけどぉ、デブ研って普通どんな活動してるんですか?」
例によって放課後の部室。
今日も真面目に不真面目な後輩部員の芥川カレン、机に突っ伏した状態で気怠げに訊いてくる。
借りてきたばかりの直木賞受賞作に没頭しかけていた俺もさすがに顔を上げた。
「……お前、一週間経ってようやくその疑問なのか」
「はい? 時間とか関係あります?」
「大ありだ。普通は活動内容とかを知ってから入部するのにお前はなんだ。毎日来てぐぅたらして、デブ研の風上にも置けない」
「デブ研って名前をそのまま受け取ると、ぐぅたらしてる方がそれっぽい気もしますけどね。あとはポテチとコーラがあれば最高、みたいな」
どこの宴だ。この部室には冷蔵庫すらないんだが。
「あのですねせんぱい。一応言っておきますけど、あたしだって真面目に活動したいという気持ちはありありですよ? ありよりの鎌足なんですよ?」
「どこがだ。ていうかなぜ中臣」
「あたし、時に語感で生きてるので」
「生きるな。大体今までのお前の活動のどこに真面目と思しき気概があったんだ」
「だから、その活動内容がよく分からないから訊いてるんじゃないですかぁ。せんぱいってもしかして頭悪いんですか? インテリぶってて実は弱々おつむなんですか?」
今日はまた一段とウザい煽りだった。手にしているハードカバーを投げつけたいほどに。
しかしいかなる事情があれ、先輩が後輩に手を上げるなど言語道断。
そもそもこういう輩は付き合えば付き合うほどにつけ上がり、気をよくするところが鬱陶しいのだ。伊達にこいつの兄貴から何年も絡まれていない。
「じゃあ訊くが、お前はうちの活動内容を知ったら真面目に活動するのか? 今この瞬間から真面目になると誓えるのか?」
「もちのロンで国士無双ですよ。十三面待ちのダブル役満レベルですっ」
「謎の麻雀要素で分かりにくくするな……」
「まあ本音は、活動内容とせんぱいの優しさ次第な感じですけどねー」
「結局やる気薄じゃねえか……」
両肩を落として溜め息をつく。
やはり期待するだけ無駄なのか、と諦めかけた時、部室のドアがガチャリと開かれた。
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