18.世界に一人だけの後輩(でもない件)




 閑話休題。未だデブ研部室内。


「そもそもですけど、せんぱいはあの元部長さんのどこが好きなんですか?」

「別に、お前に答える義理はない」

「そんなこと言わずに教えてくださいよぉ。別に茶化そうとかってわけじゃなくて、普通に応援したいだけなんですからっ」


 間違いなく嘘だ。目つきで分かる。

 あわよくばからかうネタしてやろうという目をしている。


「だって今のままだと謎でしかないんですよ。あの元部長さん、顔を見せては足早に去っていくだけで、全然あたしと絡む機会なかったじゃないですか」

「今のところ、それはお前のせいでしかないと思うんだが」

「確かに美人さんですし、スタイルもよさげですし。モテそうな人なのは分かるんですけど……現状だと言動も含めて、ちょっと謎めいた人ってイメージしかないですよ? 元部長さん」

「それのなにが問題なんだ」

「あたしの中でせんぱいが、あのちょっと変わった元部長さんを顔と体目当てで好きになった人、という認識になります」


 捨て置けない認識だった。読みかけの小説から顔を上げる。


「仮にそうだとしても詰られる謂われはないが、そんな浅はかな男だと思われるのも腹が立つな」

「あたしも、せんぱいはそんな薄っぺらい人じゃないと信じてますよ。そもそもそんな理由だったら、あたしにもアプローチしてこないとおかしいですし」

「……それはなにか? 自分の容姿が柊先輩レベルだと遠回しに主張しているのか?」

「系統は違いますけど、いい線いってると思いません?」

「……はぁ」

「まさかの溜め息っ!?」

「言っておくが、お前と柊先輩じゃ月とすっぽん、女神とハエくらいの差がある」

「ちょ、人間ですらないんですかあたし! ていうかなんであたしとハエなんですかぁ!」

「ウザいから」

「ハエと同レベル……!」


 むしろ簡単に潰せない分、ハエよりウザったいが。

 さすがにそこまで言うのは酷かもしれない。


「いや、やっぱりハエよりウザいな」

「デリカシーの欠片もない追い打ちっ!」

「すまん。心の中に留め切れなかった」

「そんなあふれ出るほどウザいんですかあたしっ……でも、いいところもありますよね? ほらほら、こんなに絡みたがりで楽しい後輩女子なんて、そうそういなくないですか? ナンバーワンでなくとも特別なオンリーワンではありますよね?」

「それがいいところかどうかはともかく、約一名俺の隣に住んでいるな」

「オンリーワンですらない! あたしの価値って……!」


 昨日よりも更にウザいテンションだった。

 それといちいち声がデカ過ぎる。隣の部室とかに聞こえていないか心配だ。

 もし聞こえていたら、デブ研は漫才部にでも鞍替えしたのではとか思われるかもしれない。断じて違うが。


「はぁ~……酷いです、せんぱい。こんなに可愛くて構いたがりな後輩を蔑ろにするなんて」

「片思いのフラグを折ろうとするのも大概だと思うが?」

「それは不可抗力ですよぉ。大体、可愛い女の子と部室に二人きりなんて、普通ならもっとドキドキしてもいいシチュエーションだと思うんですけど」

「それは確かにドキドキかもな。相手がお前じゃなくて柊先輩なら」

「……うー、せんぱいのいけずぅ」


 テーブルにぐてーっと突っ伏す芥川。

 結局こいつがなにをしたくて絡んでくるのかは、今日も有耶無耶にされてしまっていた。

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