19.※このお話はフィクションです。




「俺が柊先輩と出会ったのは、一年の春――。


 その頃の俺は、だいぶ荒れていた。

 どういう荒れ方かというと、ちょっと特殊だった。どんな時も本を読みながら学校を闊歩していた。さながら二宮金次郎像のように……。


 先生からは当然叱られ、生徒指導を受ける毎日だが、本を読める喜びに比べればなんの苦労でもでなかった。

 次第に先生も呆れ果て、入学から一週間経つとなにも言わなくなっていった。


 そんな時、当時の友達がある人物について教えてくれた。

 どの学校にでも必ず一人はいる、情報屋みたいな友達が……そいつが俺に言ったんだ。


 ――二年の先輩にも、常に本を読みながら歩いている女子がいるらしい。


 名前は柊冴姫というらしい。

 正直、誰だって思った。そりゃ知らねえよ、入学したばかりなんだから。先輩どころか同級生の顔すらまだ覚えていない時期だったんだから。

 大体、おかしいだろ、常に本を読みながら校内を闊歩しているなんて。二宮金次郎像じゃあるまいし……俺が言うのもなんだけど。


 俺はすぐに二年のフロアへ行った。そんな変な奴ならすぐに見つかると思った。

 実際、すぐに見つかった。マジで本を読みながら歩いている女子生徒がいた。

 それが柊先輩だった。柊先輩がハードカバーの小説を片手に、優雅に歩く姿を見て、こんなスマートな先輩がいるのかって、びっくりした。

 あんな細腕なのにハードカバー。しかもまったく芯がぶれない完璧な歩様。誰よりも気高い歩き姿。


 まさに、光り輝いていた――」


 俺は持っていた文庫本の角で、芥川の頭を叩いた。


「痛いっ! ちょっ、なんでいきなり叩くんですかぁ」

「お前がバカなモノローグを延々語ろうとしてたからだ。勝手に人の出会いを捏造するな」

「えーっ、ここから面白いところだったんですよ? ここからせんぱいがわざと元部長さんとぶつかって、野良ビブリオバトルを吹っ掛けるんです」

「ポケモンバトルみたいに言ってんじゃねえ。大体なんだ、お前の中で俺はそんな本の虫のように見えているのか? 現代の二宮金次郎像なのか?」

「えっ、でもせんぱい、読みながら歩きますよね?」


 ない。

 少なくとも、校内を闊歩することは絶対にない。普通に危ない。


「元部長さんにバトルを仕掛けてコテンパンにやられたせんぱいが、『俺より強いビブリオストがいるなんて……くそ、惚れた!』的な感じで元部長さんを好きになるという純愛ストーリーなんですけど。あ、主題歌は髭ダンを流します」

「流すな。そんな意味分からん理由で惚れさすな。あと意味不明な造語を作るな。なんだビブリオストって」

「ビブリオバトルマスターをかけて血みどろの戦いを繰り広げる全国の文芸部員たち……その名も、ビブリオストなんです。どーですか、定着しないですかね?」

「明らかに俄かそうだから言っておくが、ビブリオバトルはお前が思ってるような血みどろのバトルじゃない……」


 どういうわけか知らないが、芥川の中では文芸部=ビブリオバトルのイメージだったらしい。しかし内容はよく知らないとのこと。

 こいつ、ほんとなんでうちの部に入ってきたのか……。

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