13.被害総額410円(概算)




 ――一度、話を整理しよう。

 今日、俺が部室で遭遇した芥川カレンは、俺の中学時代からの友人である芥川ハルトの妹だ。

 当然ながら中学も一緒だったし、現状でも後輩と言って間違いはない。


「ぱくぱく……センパイ、ご飯炊くの上手なんですねぇ。硬過ぎず柔らか過ぎずの丁度いい炊き具合です」


 しかし芥川カレンとはほとんど面識がなかった。本人も『ほとんど初対面』だと言っていた。

 友達の妹だし、中学も同じなら見かけたことくらいはあっただろう。

 が、それ以上に俺は見覚えというか、あの小生意気で無駄に絡みたがりな後輩を前にして、なにか既視感めいたものを感じていた。


「もぐもぐ……あ、この唐揚げ、全部味付けが違うんですねぇ。最初のは醤油で、二個目は塩、今のはちょっとピリ辛な感じです」


 その既視感の正体こそ、この芥川カノン。

 俺が七年前まで過ごしていた片田舎で出会った、一つ年下の女の子。

 七年も前のことだからすっかり忘れていたが……芥川カレンの外見やウザ絡みに既視感があったのは、こいつのせいだったわけだ。

 しかも二人が、いとこ同士だったとは……。


「ぱくぱく……あ、最後のはこれ、カレー味ですよカレー! こんなのも売ってるんですねぇ、結構美味しかったですっ」

「……カノン、なにか俺に言うべきことがあるんじゃないか?」

「はい? あ、ごちそうさまでした」

「違う! ていうかなに普通に完食してるんだよお前は! 唐揚げも、ご飯まで平らげやがって!」

「た、平らげてないですよ。センパイの分もちゃんと残してますから」


 炊飯器を開いて中を見せてくるカノン。

 ジャーには一口分の白飯がこぢんまりと残されていた。


「OK、お前の中で、俺の胃袋がスズメ並みに思われていることは理解した」

「スズメってお米食べるんです?」

「知らん。この際だから飯の件はいったん置いておく。話が一向に進められないからな」

「話って、なんのですか?」

「お前と、お前のいとこのことだ――芥川カレンというのは、本当にお前のいとこなのか?」

「そうですよ。むしろ知らなかったんですか?」


 むしろなぜ知っていると思ったのか。

 というか、こいつにいとこがいたことすら知らなかった。


「でも言われてみると、センパイはカレンちゃんに会う機会ってなかったかもですね。あんまりおばあちゃんちに来ることもなかったですし」

「おばあちゃん……そうか、いとこということは、どっちにとっても祖母になるわけか」

「そうですよぉ。あたしとカレンちゃんは、どっちもおばあちゃんが小さかった頃にそっくりだって言われてます」


 なるほど、祖母の遺伝子か。

 そういえば俺も会ったことがあるな。うちの祖母とも仲がよかった、少しくすんだ金髪で青い目をしていたおばあさん……確かにあれが芥川さんちだと聞いたことがあった。

 すると、芥川ハルトが話していた『英国人の祖母』というのもあのおばあさんになるのだろう。そう考えると少し合点がいく気もする。

 とは言えそれでも、納得しがたいことはまだ色々とあるが……。

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