14.長かった一夜
「あれ? でもセンパイ、さっきカレンちゃんと電話してましたよね。仲いいんですか?」
「いや、特段そういうわけじゃないが……中学時代からの友達の妹なんだ。俺も今日知ったばかりだが」
「あっ、じゃあハルトさんとお友達だったんですね。なるほどなるほど」
ハルトさんって。そこはセンパイじゃないんだな。
いや、よくよく考えると同じいとこに当たるわけか。それならセンパイ呼びでなくとも納得はいく。さん付けなのはやや距離感がある気もするが。
「ん? 待ってくださいセンパイ。カレンちゃんのこと、今日知ったばかりって言いましたよね」
「そうだが?」
「わっ、凄い……今日知ったばかりの女の子の電話番号を持ってるなんて。こ、これが噂に聞く、都会のプレイボーイ……!」
はわわっ、と目を丸くさせるカノン。
なんだその思考の跳躍は。大体この辺りは都会でもなんでもない。カノンの実家がある田舎よりはマシだろうが。
「変な誤解をされるのが癪に障るから正直に言うが、あいつとは今日、部活で出会ったんだ」
「部活?」
「そうだ。俺が部長しているデジタル文芸研究部に入部してきて、入部届に電話番号を書く欄があったから知っていただけだ。だからその芋くさい想像はとっととかなぐり捨てろ」
「デジタル文芸……?」
不思議そうに首を傾げているが、まあ無理もないか。誰が聞いたってこんな顔になるようなへんてこな名前の部活なのだから。
「そっか……じゃあカレンちゃん、辞めちゃったんだ……」
ん?
辞めたって、なんのことだ……?
カノンの呟きが少し気になりはしたが、そんなことよりも自分の空腹が限界に近づいていることの方が重大だった。だからと言ってこいつのように行き倒れることはないだろうが。
「とりあえず、今日はもう帰ってくれ」
「えっ、まだ全然物足りないんですけど」
「充分食べただろ。俺の分まで綺麗さっぱりと」
「じゃなくて、七年ぶりなんですよ! ほらほら、積もる話とかあるじゃないですかぁ」
「ない」
「早過ぎた即答っ!」
「あのな、俺はお前のせいで失った夕食を取り戻す手間が増えたんだ。それともう空腹が限界で怒りまで込み上げてきてるんだよ」
「あ、そういうことなら食べちゃった分、あたしがなにかしてあげますよ? なにかあたしにしてほしいこととかないです?」
「それは有難い。では今すぐお引き取りを」
「わっかりましたぁ! ……って結果変わってない!」
その後もウザ絡みは続き、結局カノンが部屋を去ったのは十分ほどあとのことだった。
……スーパー、まだ総菜残ってるだろうか。
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