12.押しに弱過ぎ湊人君




 苦難は続く。怒涛の如く。

 フリーダム過ぎるカノンに手を焼いていた時、父方の祖母から電話がかかってきた。

 ……この電話、もしや。


『おぉ、もしもし。湊人かい? すっかり言い忘れてたんだけどね、芥川さんちのお孫さんがね、あんたと同じ学校に通うってさ』

「……知ってるよ。今し方、痛感していたところだから」

『おぉ、そうかい。そりゃよかった、なんでもバスケットボールの特待でね、凄いねぇカレンちゃんは』

「特待?」


 なるほど、一般入試じゃなく部活動特待生なのか。

 それで部活がどうとか言ってたわけで、あのエナメルバッグも部活の道具なのだろう。

 正直、カノンがバスケをやっていたとは知らなかったが、特待をもらえるということは確かに凄い実力や実績を持っているものと思われる。

 ……が、そんなもの俺には関係ないはずだが。


『特待の話は嬉しかったみたいだけど、七山高校は寮がないからねぇ。芥川さんちも一人暮らしさせるのは不安だったみたいなんだけど、じゃあ湊人とおんなじアパートならどうかって私が言っておいたんだよ。それならってことで進学の許可が出たんだ』

「待て。なんで俺と同じアパートならOKってことになるんだ」

『あんた、昔は仲よかったやろ? 本当の兄妹みたいでねぇ。だからなんかあったら湊人を頼れるってことでね。ちゃんと面倒見てやるんだよ』

「な、なんで俺が――」

『じゃあ、ばあちゃんこのあと寄合だから』


 ぶつり、と通話を切られる。

 ……相変わらず、よぼよぼな喋りのくせしてなんたる強引さか。


「ったく、どうしろってんだよ……」

「とりあえず、センパイもご飯食べたらどうです? 唐揚げなくなっちゃいますよ」


 ハッと顔を上げると、カノンはいつの間にかミニテーブルの前に座っていた。

 しかも茶碗にご飯までよそぎ、総菜の唐揚げをおかずにして食べ始めている。


「おい、なに勝手に準備して食ってんだお前」

「えっ、センパイの分もよそってますよ?」

「おお、サンキュー、なんて言うとでも思ったか?」

「うーん、ノリツッコミとしは二十点ですかね。勢いが足りないと言いますか。ぱくぱく……」

「だから勝手に食ってんじゃねえ! とりあえず箸を置くんだよ!」

「えーっ、冷めたら美味しくないんですけどぉ」


 不満そうな顔をしながらも、一応指示に従うカノン。

 唐揚げはすでに一つ食われてしまっていたが、そんなことはもうどうでもいいとして。


「まさに今、俺の祖母から電話があった。芥川さんちのお孫さんをよろしくとな」

「ぜひともよろしくされる所存ですっ」

「満面の笑みを浮かべるな。大体そんな大事なこと、なんで今更になって言ってくるんだ。進学やら引っ越しやら、もっと早く決まっていたことのはずだろうが」

「それは、センパイのおばあちゃんが連絡してるものだと……あたしはセンパイの連絡先とか知らないですし」


 まあ、確かにその辺りは俺の祖母の怠慢か。

 だからと言って今日思い出して連絡してくるというのも、まるで見計らったようなタイミングにも思えるが……。


「あ、でも引っ越しのご挨拶が遅れたのはあたしが悪いんですよねー。春休み中には訪ねたかったんですけど、ちょっと色々忙しくって……」

「まあ、初めての一人暮らしだからな。最初は慣れるだけでも一苦労か」

「それもあるんですけど、特待生だと、春休み中も部活に参加しなきゃだったんですよぉ。それで毎日ヘトヘトで……高校の部活、ハード過ぎです。最近は、なんとか帰宅できるくらいには慣れきたんですけど」

「できてなかっただろ。思い切り階段でくたばってたし」

「今日はその、たまたまお昼が少なかったんですよぉ。いつもは部屋の中に着いてから倒れるんですっ」

「倒れはするのか……」


 いずれにしても自信満々に言えることではない。

 なにはともあれ、だいぶ状況は呑み込めてきたが……。

 もう一つ問題は、もう一人の芥川についてか。

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