第28話 Rewind⑦


 SpyCをずっと側で眺め続けて、ついには幹部にまでなれて、幸せですがこんなこと将来何にも繋がらないという不安はありました。そうするとわたしはもうただのひきこもりで、ミシックのように役立つスキルを磨いている訳でもありません。

 悩んだ末、わたしは「欲しい物リスト」を公開してみることにしました。ちょっとしたお試しです。リストに入れたものが全部送られて来て、怖くなってすぐやめました。やっぱり仲間から金品をせびるなんて生理的によくありません。


ミシック:

なら仮想通貨でもやってみるか?


赤味:

仮想通貨?


ミシック:

トレーディングの才能があるかもしれないしな


赤味:

ゲーム感覚みたいな?

でもお金かかるんでしょ


ミシック:

種銭送ってやる

口座作れって


赤味:

はいはい



 わたしはミシックから”仮想通貨”をもらい、他の通貨めいがらに替えてすぐチャートに突っ込みました。でもやっぱり暴落に巻き込まれて失くなってしまいました。


赤味:

仮想通貨ないなった


ミシック:

…マジ?


 かように才能などあるわけもなく(現物取引で-100%は珍しいのでサイミッシングではあるかもしれません)、逆に驚かれるだけの結果になりました。


                    米


 わたしは心に思い浮かべます。もしもわたしたちが宇宙を転移する能力を持っていて、転移した先の違う地球でもインターネットに接続できるなら、やっぱりそこにはSNSがあり、チャットアプリがあって、メールアドレスで登録できるようになっているでしょう。そこには大量のスパムアカウントと、詐欺と、くだらないフォロワー稼ぎと、出会い募集のやりとりがあり、たくさんの一般ユーザーにまぎれて異性や同性の子どもをつけ狙う下心に憑かれた獣たちが徘徊することも同じでしょう。


 100の宇宙、100のインターネットを観察すれば、状況はいつも似たり寄ったりだなんて気付きます。あるはずの平和なインターネットは優しいひとだけで成り立つ優しい世界、けれどそんなものは存在しません、隣の宇宙にさえも。隣の隣だって同じです。人に悪意がある限り、これらネットの残念さもまた永続してゆきます。畑に生えてくる雑草みたいなものです。


 ならSpyCはどうでしょうか? この小さな牙は、100の宇宙でも、どこの地球でも無事に生まれるはずの組織だったのでしょうか? 子供だけで無防備に群れなせば大人に喰われ、骨までしゃぶられてしまうと理解した少年少女たちは、ネットで子ども十字軍を旗揚げ、狩人となって豺狼けものに立ち向かう結末だったのでしょうか?


 答えはノーです。わたしたちのいる宇宙でSpyCなんて集団ができたのは偶然たまたまで、リーダーにふさわしい者の特異的カリスマがなかったら、この有機的生体的活動は今現在こうなっていないでしょう。ロイ隊長というひとがいて、ネットでの活動になんとなく価値を見出して、類まれなる求心力から属人的組織が作られたということです。

 100ある宇宙のうち、すべての宇宙につねに出会い厨がいらっしゃれば、SpyCの親戚にあたるグループの存在する宇宙はほんの10か,それとも12か,そのあたりに過ぎないのではないでしょうか。わたしたちが居ない世界でも別の誰かがやっているだろうとの考え方は、だから、いささか軽率であるかもしれません。


 近い将来、平行宇宙間転移が実現し、様々な宇宙からも人類が往来するプロトコルが整ったら、この疑念もまた氷解するでしょう。結局どういう話なのかと言うと、現在いまの出会いを大切にしようということなのでした。


 このたびロイ隊長が逮捕されてしまって、やる気のあるリーダーに頼りきりだった組織の弱点が浮き彫りになりました。際どい活動をする際には、誰だってうしろ盾が欲しいものです。泥を被ってくれる誰か、常に自分よりも”先”に行っている誰かが必要です。席がいたから誰でも座ればよい話ではなく、もっと重たい意味を持ちます。

 ひっきょうこうしたネットの集団においては、組織のリーダーになるのではなく、リーダーこそが組織になるのですから。漫画でたとえるなら、鷹の団といえばグリフィスであって、グリフィスといえば鷹の団みたいなものです。


 幹部になってからのわたしは団員たちにいい顔をしようと全力で努めました。八方手を尽くしてSpyCの雰囲気をできるだけ和やかなものにと。正しく八方美人です。もしも将棋に八方美人という駒があったら、縦横斜めに何マスでも移動できるに違いありません、つまりそういうことです。幾人かからわたしをリーダーに推す声がありました。


 できない、とも言い切れません(ノーと言えない日本人)。いまは最年長の幹部であるタナシンさんが臨時総帥をしていますが、面倒事を嫌うひとなのに非常事態でよく引き受けてくれたと思います。でも皆の言うように「このままタナシンさんでもいい」ことは決して無いのです。何より本人がそう望んでいないのですから。誰かに負担を強いるやり方をみていると、わたしは本能的な恐怖をおぼえます。それが長続きしないことを理屈抜きで感じるからです。

 どうしてもこのまま候補者が出ないなら、とわたしは覚悟を決めました。

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ひきこもり内気少女が元気すぎるジュニアアイドルグループに番組企画で突撃される話 もーち @efkefk2

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