第26話 Rewind⑤
量産型の小物ばかりを相手にしてもキリがありません。
そろそろ大きな案件についてお噺します。わたしが幹部になったきっかけの事件です。
その当時、ターフプロモーションという評判の悪いモデル事務所がありました。芸能界の黒いウワサ、みたいな根拠のないレビューサイトで、圧倒的に数多くの幅広い悪評が寄せられているような会社です。
その会社がネットで大々的に、モデルデビューする女の子を募る(あるいは、募集する)広報活動をはじめたのが発端で、わたしたちの目に留まりました。
ようは街で見かける怪しいスカウト行為をネットで代替した(とSpyCには映った)のです。インターネットキッズたちの遊び場を守るSpyCとしては見過ごせません。
その会社の専務がターゲットになりました。わたしは『専務』というものをいまもよく知りません。でもなんか悪役みたいなイメージないですか? 全国の専務さんにはごめんなさいですけど、ドラマの中に出てくる『専務』ってだいたい悪人な気がします。
この専務が口コミサイトで名指しで断罪されていたことから、数々のセクハラ行為やそれ以上のことを行っているのではないかと目されました。おあつらえ向きに専務はツイッターやインスタグラム、フェスブックに個人アカウントを持っています。ベンチャー社長の一件も冷めやらぬわたしたちは、余勢をかってこの鉱脈につるはしを入れたのでした。
下準備がかなり難航したことは知っています。何週間も議論を尽くしてやるかやらないかみたいな流れをやっと乗り越えた挙げ句、作戦の難度がかなり高いことが明らかになってきて、しかも誰がやるかでも揉めていました。
ミシックはあまり頼りにはなりません。組織のための慈善的ハッキングなんてもうごめんだからです(本人談)。
わたしは作戦に協力したいと名乗り出るつもりでした。当時から幹部だったミシックを仲立ちにして。
ミシック:
やめとけって
赤味:
どうしてもやりたい
ミシック:
お前はそこまで期待されてないぞ
危ないことすんな
赤味:
期待されてるのはミシックのほう?
ミシック:
俺もやらない。というか皆過信してるんだ
ここだけの話普通にできないからな
赤味:
社長のアカウントは乗っ取れたのに?
ミシック:
そんなもん条件によるだろ
極端なケースでもしパスワードが1234だったら
アカウントなんて誰でも乗っ取れるわけ
俺はまだ勉強中で、今回は厳しいから見送るだけだ
赤味:
でも結局やりたくないでしょ
いいよわたしやるから
ミシック:
やめとけよ
こんなやり方求められてないぞ
赤味:
そんなの隊長にきかなきゃわからない!
ミシック:
いやあの人ならマジでやりかねん
赤味:
よね
ミシック:
まぁ個人的にはアルティメット反対だって忠告しつつも伝えとくわ
赤味:
やった。サンキュー!
なぜ彼を通したかと言うと、作戦が進行する部屋には限られたメンバーしか入れないところ、わたしはミシックに経過報告してもらって会話を盗み聞きしていたからです。わたしから直接ロイ隊長に進言すると「なんで作戦の進行を知っているんだ?」となり、結局ミシックの名前を出すハメになります。
数日後。全体チャットに「募集@1 女子」 のコールが突然ありました。もちろんわたしは1分以内に応答します。どうやらミシックは約束を守ってくれたようです。
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