第25話 Rewind④
わたしはミシックのことをただの口うるさいギークとして記憶整理していました。ところが、2つの出来事から見直すことになったのです。ひとつは彼が日ごろ口うるさく言っていた「個人情報を隠せ」という言葉の重要性が浮き彫りになるインシデントが起ったことです。
わたしたちSpyCが”ロリコン”の個人情報を拡散して晒し上げるなら、敵対者だってこちらの個人情報を何らか悪用してくることは想定するべきです。去年の10月、そんないざこざで団員がひとり消滅してしまう事件がありました。拡散ネットワークをもたない敵方の攻撃は小規模で、持続性もなく大事には至りませんでしたが、ミシックの懸念が的中した形です。正史では「SpyCに身を置きながら個人情報を隠さなかった団員にも大いに落ち度がある」とされており、イソップ童話にも収録したい教訓的なエピソードとなっています。
さっそく見習って、わたしは「夜る」というハンネを棄てて「
ミシックのことを見直すきっかけとなったふたつめの事件は「ベンチャー社長アカウント乗っ取り」です。
SpyCにはいつも反対論がありました。「ネットでのイタズラはやめろ」「マッチングアプリとしての機能を悪用している」というものです。外野からのガミガミとした意見やクソリプをわたしは無視することにしました。でも、血の気の多い若者集団ことSpyCは論客すべてに反論する勢いです。噛み付いてきた相手に堂々と言い返し、殴り合ったあとで河原で寝そべる2人みたいに理解につながるパターンもあるかもしれません、ないと否定はできないのですが、悪評も高まる結果になりました。
当時とあるベンチャー企業の社長がいちばん激しく継続的にSpyCを酷評するキャンペーンを行っていました。ロイ隊長による反論が直接展開されますが、論戦はどこまでも平行線のらせんです。相手のフォロワー数の多さ、それによる影響力の大きさは懸念点でした。アカウント通報機能は大人数でやればやるほど効果があるとされています。ベンチャー社長の取り巻きが大勢で仕掛けてくる工作には不安がありました。実際、このときアカウント凍結される仲間がちらほら出ました(因果関係は知りません)。
こうした揉め事を続けているうち、このベンチャー社長も実は「出会い厨」なのでは? と疑わせるような証拠が出始めます。何とか確証を引き出したいものの、よもやSpyCの手口を知っている人間がネカマには引っかからないだろうと頭を悩ませている矢先、業を
その後待っていた怒涛の展開もあいまって、ミシックは仲間内でスーパーハッカーとして一躍祭り上げられました。でもミシックはうんざりしていました。以後、何かあるたびに「アカウントを乗っ取ってくれ」とみんなに頼まれるようになったからです。ちょっとでも気に入らない相手や、SpyCのことを悪くいった者に対して。
秀でた
ミシックの仲間はずれエピソードにこんなものがあります。いつか、SpyCのディスコでロイ隊長がメンバーを集めて箱庭ゲームをすることになりました。『ゲーム部屋』は普段同じメンバーが同じゲームをやっていることが多かったのですが、このときばかりは様々な顔振れが集まりました。よほど気になってか、途中からミシックも参加しました。ところが彼の使っている通信は匿名性が高いかわりにきわめて遅い代償があり、とてもゲームにはならないような
さは言え一緒にゲームできなかった事実は変わりありません。こんなことばかり続いていたら、そのうち彼が仲間外れになってしまうのではないかとわたしは心配しました。ところがロイ隊長はそれきり『ゲーム部屋』に来ることはなかったのです。陽キャすぎてゲームなんて退屈だったのでしょうか? それともリーダーなりに気遣った? 永遠の謎です。
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