送り火

華「仁様、お客様が来られました」


仁「すぐ行く」


俺は華さんに呼ばれて門に向かった。


大天狗「仁、お前が倒れたと聞いてきたんだが問題ないようだの」


仁「大丈夫ですよ。所で送り火は順調ですか?」


大天狗「今の所、妖怪からは何の報告もないな」


仁「そうですか。悪霊を発生させる少年を目撃したらぜひ教えてください」


大天狗「悪霊を発生させる少年?」


仁「はい。陰陽師5家の内の2つである一堂家と神宮寺家がその少年により襲われました」


大天狗「ふむ」


仁「今の所は力を取り戻すために陰陽師5家しか狙っていませんが人間と共存している妖怪も襲ってしまう可能性もあります」


大天狗「うむ。分かった見つけ次第情報提供を行う。まぁ仁が元気そうでよかったわ」


そう言い帰られる。


仁「大天狗様お待ちください。こちらを皆様と飲んでください」


大天狗様にお酒を渡した。


大天狗様「おお!おりがとう仁」

大天狗様は大のお酒好きだ。


大天狗様は上機嫌のまま帰って行かれた。


今からは華さんの所に行き稽古をつけて貰う。


仁「華さん稽古しませんか?」


華「仁様お身体はもう大丈夫なのですか?」


仁「もう大丈夫ですよ」


華「それなら良かったです」

気功の鍛錬を始めた。


雫、くう、とび、柚、他の式神を出し気功を最大の効果が出る状態を維持する。


これを2時間行う。どれくらい経ったのか時間を見ると20分しか経っていない。


そこへ倫花さんが来られた。


倫花「気が全然安定してないぞ仁。しっかりしろほら」


倫花さんは教えるのが上手なことで有名な陰陽師だ。


俺は気を安定させる。


倫花「安定してきたがその程度か仁?もっと気の密度を増やして」


俺は気の密度を増やす。


仁「うあああ」

あまりの苦しさに声が出てしまう。


俺は意識を手放したいと言う気持ちが湧いてくるがここで甘えてしまっては今の力以上は強くなれない。


俺は密度を増やし、気を安定させることに集中する。


倫花「良いぞ仁!!さすがだな」


こうして1時間30分が過ぎた。


倫花「仁おわり」


仁「はあッはあッはあッはあッ」

頭がくらくらして呼吸がうまくできない


倫花「仁よくやったな」

でも倫花さんの元気が少しは戻ったようだ。


仁「倫花さんありがとうございました。


提案なのですが倫花さんが良ければここに住みませんか?」


倫花さんが帰る所は今の所ない。


神宮寺家の屋敷は全壊で戦闘によって死者が多数のおかげで血生臭い臭いが取れないそうだ。


それに俺も残って子供たちや大人たちの鍛錬を指導して欲しい。


あれを受けたら絶対にみんな強くなる。


倫花「そうだな。今の私には帰る所がないからぜひお願いしたいけど仁以外の人は受け入れてくれるのか?」


仁「大丈夫ですよ。夜ご飯一緒に食べませんか?」


倫花「食べる」


仁「行きましょう」

倫花さんと華さんを連れて広間に行った。


1日ぶりにみんなとご飯を食べる。


「「いただきます」」

いつも通りみんな元気だ。


仁「どうですかみんなで食べるご飯は?」


倫花「良いね。仁君はいつも一緒に食べるの?」


仁「はい!みんなと話せて楽しいですからね」


「あんた神宮寺家の当主様だろ」


倫花さんが助けてと言う目線を俺に送ってくるがいい機会だから俺は無視をする。


倫花「はい。そうです」


「あんたのとこも大変だっただろ」


倫花「そうですね」


「ここでゆっくりしていきな」


倫花「迷惑じゃないですか?」


「迷惑じゃないよ」


「疲れたでしょう」


「私たちはいつでも歓迎していますので気になさらないでください」


その言葉に倫花さんの瞳が少し潤んでいる。


倫花「ありがとうございます」


「いいよいいよ仁様が良いって言うんだから」


「ご飯おかわりありますよ」


倫花さんの食べる量が昼食と明らかに違い量が多い。


どうやら味を感じ取れるようになったらしいことに俺はホッとした。


俺は湯に浸かる。俺の部屋にある風呂は広い。


屋敷にお風呂が付いているため広間がある屋敷にもお風呂がある。


あそこは大浴場みたいになっていていつもはあっちを使っていたがもう使うことはできないなと自分の身体を見て思う。


お風呂から上がり縁側に寝転んでいる。


チリチリチリチリチリチリ


虫の鳴き声が聞こえる。久しぶりの休暇だ。


ずっとどこかに行っていたり少し忙しかったからな。


俺は何かを思い出したように華さんの部屋に向かった。


仁「華さんいますか?」


「・・・・」


華さんはどうやら不在のようなので部屋の前で待つことにした。


スタスタスタ


しばらく待つと足音が聞えた。


華「仁様どうされましたか?」


仁「華さんデートしましょう」


華さんは驚いた顔をしている。


仁「迎え火の前に言いませんでしたっけ?」


華「あれ本当だったんですか!」


仁「本当ですよ。」


華「行きたいです」

華さんは嬉しそうに口元が緩んでいる。


仁「明日と明後日どっちが良いですか?」


華「明日行きましょう」


仁「じゃあ明日の10時にこっちを出ますか?」


華「はい!仁様また明日」


仁「うん。おやすみ」


俺は部屋に戻る途中に瞳の部屋に行った。


仁「瞳、起きてる?」


瞳「お兄様、起きてますよ」

瞳が襖を開けた。そこには下着姿の瞳がいたが俺はその姿にショックを受けた。


瞳の右足の太ももが俺の身体のように真っ黒になっている。


仁「身体大丈夫か?」


瞳「はい。体調は良いのですが身体が黒くなりました」


仁「瞳が良ければ酒呑童子との契約を破棄しないか?」


瞳「嫌です」


俺は上着を脱いだ。


瞳は恥ずかしそうに顔を赤めるが俺の上半身を見た瞬間にはショックで顔色が変わり言葉を失っていた。


仁「こうなるぞ」


俺の上半身は真っ黒なのだ。


仁「それでもその力を使うか?」


瞳「えっと」

瞳は返答に困っているようだ。確かに悪霊の力は強力で人間の努力以上の結果が出るがそれなりの代償が必要となる。


仁「なんでそんなに力が欲しいのか私に教えてくれないか?」


瞳は黙り込み俯く。


瞳「お兄様が無理なさっているのが分かるから少しでもお役に立てればと思ったから力が欲しいのです」


仁「そうかありがとう。私のことを思ってくれたのだろ」


瞳は頷く。


仁「私から一つ提案していいか?」


瞳「なんですか?」


仁「悪霊の力に頼らずに強くなる方法だ。知りたいか?」


瞳「はい!」


仁「倫花さんに毎日稽古をつけて貰え。そうすれば絶対に強くなれる」

俺はこの提案に瞳が「うん」と言ってくれることを強く望んだ。


瞳「絶対に強くなれますか?」


仁「絶対だ」


瞳「お兄様のお役に立てますか?」


仁「もちろんだ。悪霊の力を使う陰陽師より元が強い陰陽師の方が他の陰陽師と連携を取りやすいからな」


瞳「分かりました」


仁「酒呑童子と契約を破棄してくれないか?」


瞳「なんでですか?」


仁「劣勢に立っていても私はこの力を使えばいいと甘えてしまうからだ」


瞳「分かりました破棄します」


瞳は酒呑童子を呼んだ


酒「話は聞いていますよ」


瞳「なら話が早いね」


酒「契約破棄には代償が必要です」


瞳「え!!そんなの聞いてないよ」


酒「だって聞かれませんでしたよ」


瞳「なんで教えてくれないの?」


酒「聞いてこなかったじゃないですか」

悪霊と妹が口喧嘩をしている様子はものすごく面白い。


仁「代償は私が払おう」


瞳「お兄様!」


仁「瞳、静かに」

俺は少し強めの口調で言った。


瞳は俺の声に驚いた様子を隠せない。


仁「大変申し訳ございませんでした。何がよろしいですか?」


酒「俺を式神から解放して自由にしてくれないか?」


仁「わかりました」

俺は式神から酒呑童子の霊を抜いた。


仁「これで自由になれます」


酒「そうか。また会おう仁」

酒呑童子はどこかへ消えてしまった。


俺は瞳に向き直り言う。

仁「瞳。悪霊は仲間じゃない。


お互いに利益がある手を組んでいるのだ。そこは勘違いしてはいけないよ」


瞳「わかりました」


そう言い残し俺は部屋に戻った。

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