迎え火(1)

「福岡と広島の件があって以降、悪霊の発生件数がとても少なくなったが明日から『迎え火』に入るため封印を解かれないように警戒してくれ。」


「分かりました。」


「この3日は1年の中で一番忙しい時期となる。くれぐれも体調を崩さずに悪霊に対して油断をしないように」


「はい」


「質問がある者はいるか?」


「なし」


「それでは解散」


今日も定例会議が終わったが理事長との戦いの後と言うことで疲労が溜まっている。


華「仁様、お迎えに上がりました」


仁「ありがとう。今日から家に帰りたいけど仕事残ってる?」


華「残っていませんよ。一緒に帰りましょうか」


華さんの式神に乗せてもらい俺は安心してして眠りについた。




桜田「仁君、大丈夫だったかな?」


如月「華先生が連れて行ったから大丈夫だと思うよ。ね~穂香ほのか


橘「そうだね」


今日、理事長と仁君が闘技場で決闘していた。闘技場の席が全部埋まるほど観客がいたついでに各家の当主までいた。


決闘は終始理事長が圧倒していた。この戦いを見て思ったのは中段と上段では明らかに差が開く。


途中からは2人の戦いが速すぎて見えなかった。それに理事長の威圧がすごくて如月さんと橘さんは気絶していた。


私も怖すぎて動けなかった。


あんな人が苦戦する悪霊が復活しないか、とても心配。



俺は家に帰りそのまま寝てしまった。


迎え火当日


「仁様おはようございます」


仁「おはよう。何してるの?」


「ご先祖様が帰って来られるのでご飯の支度をしております。」


仁「子供たちはどうしてる?」


「庭で遊んでいますよ」


仁「そうかありがとう。頼んだぞ」


「もちろんです。お任せください」

足速に去って行った。


家の使用人は優秀だ。昨年の迎え火は何の問題もなく進んだ。


それにご先祖様の機嫌がとても良くお酒を勧めて来られた。


楽しかったのだが翌日は二日酔いで動けなかった苦い思い出がある。


昨年の迎え火と送り火は大きな事件が起きることなく無事に終わったが、


送り火の時に帰らない霊が多すぎて妖怪と祈祷師が総出で送り出したことは記憶に新しい。


今回も何事もなく終わってくれることを願っている。


「おーいこっちだぞ」


「まてまて」


「挟み撃ちしようぜ」


子供たちが鬼ごっこをしている。


「あ、仁様おはよう」


仁「子供の1人が気付いたようだ」


「おはようはる


「仁様、おはようございます」


仁「おはようさく


1人だけとても礼儀正しい子がいる。いつも子供たちの面倒を見てくれている彼女は華さんの妹だ。


仁「今日はご先祖様が帰ってくるから元気に挨拶するんだぞ」


「「わかった」」

子供たちにはどうやら伝わったようだ。


家の子供たちは大体視えるが中には視えない子もいる。


陰陽師になることはできないが陰陽師になることだけがすべてではないため視えない子には家庭教師をつけて自分のなりたい仕事に着けるように当主なりにサポートしてる。


晶矢の時は当主が何のサポートもしなかったため晶矢は悪霊の封印を邪魔してしまった。


これが二度と起きないように当主としての役目を全うしなければならない。


咲は視えない子の1人だ。でも咲には俺たちにできない生き方ができる。


仁「咲ちょっとお話ししない?」


咲「大丈夫ですよ」


俺は庭が見渡せる縁側に腰かけた


仁「行きたい高校は決まった?」


咲「まだ迷っています。」


仁「そうか。目星は何個かつけた?」


咲「何個かあるんですけど全部ここから遠いので諦めようかなと悩んでいます。」


仁「何に悩んでいるの?」


咲「入学の為にお金がかかって一人暮らしでもお金がかかるので地元の高校にしようと思っています。」


仁「咲の将来の夢は何なの?」


咲「お医者さんになりたいです。」


仁「地元の高校に行ってお医者さんになれそう?」


咲「なれないと思います」


仁「そうだよね。咲はそれでいいの?」


咲「嫌です。夢諦めたくないけどどうしようもないんです。」


仁「私が高校の入学費と学費、1人暮らしにかかるお金を出すから夢叶えてみない?」


咲「本当ですか?」


仁「うん。本当だよ」


咲「夢諦めなくていいんですか?」


仁「うん。夢に向かって頑張っておいで」


咲「じゃあお父さんとお母さんに言わなきゃ」


仁「咲、私は咲の両親を説得することはできないから咲の言葉でどの高校に行きたいのかを伝えておいで」


咲「分かりました。ありがとうございます。」


咲が急いで行った。そこに華さんがやってきた。


華「仁様、咲と何の話をされていたんですか?」


仁「咲の将来の話ですよ」


華「なんて言っていましたか?」


仁「咲はお医者さんになりたいから行きたい高校があるそうです」


華「そうですか」

華さんが少し寂しそうな顔をしている。


仁「華さん寂しいんですか?」


華「そんなことはありませんよ。でも私の元へ駆け寄ってくることが最近ないなと思っただけです」


咲は受験に向けて2年生の時からずっと勉強している。それで構ってもらえなくてやっぱり寂しいんだろう。


仁「送り火が終わったら気分転換にお出かけしませんか?」


華「お、お出かけ?」


仁「お出かけです」


華「ふ、2人っきりだったりしますか?」

華さんがモジモジしながら照れくさそうに言う。


仁「はい。2人で行きましょう」


華さんの顔が真っ赤になった。


仁「デートですね」

と言うと急に華さんに胸倉を掴まれた。


仁「は、華さん!!」

俺はびっくりして大きな声を出してしまった。


もしかして華さんの顔が真っ赤なのは怒っているからで胸倉を掴まれたのは拒否と言うことだろうか?


仁「2人っきりは嫌ですか?」

俺がシュンとした表情で言うと


華「嫌じゃないです。ただちょっと動揺しちゃって」


仁「2人っきりでも良いですか?」


華「はい」

そう言い2人の間に少しだけ気まずい空気が流れている。


「仁様~」

咲が帰ってきた。


咲「仁様。あれ、お姉さまも一緒にどうしたんですか?」


華「いや何でもないよ」

そう言い華さんはそそくさと行ってしまった。


咲「変なお姉さま」


仁「それよりどうしたんだ咲」


咲「お父様とお母様から許可をいただきました」


仁「良かったな咲」


咲「はい!!」

咲が嬉しそうな顔をしている。


仁「勉強とか家庭教師とかで困ったことはないか?」


咲「今の所はありません」


仁「わかった。何かあったらすぐに俺か両親に相談してね」


咲「ありがとうございます」


「「こんにちは」」


咲と話をしていると入り口の門の方から声が聞こえた。


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