福岡(2)

「1人でいいの?」


仁「どうにかなるんじゃないかな。それより君、名前なんて言うの?」


「どうにかなる?はぁ!ふざけるなよ。それになんで言わなきゃいけないんだよ」

妖力が強くなり殺気が増した。


仁「もしかして負けるかもってビビって、名前言えないの?」少しだけ煽る。


「晶矢だよ。晶矢。お前はなんて言うんだよ?」


多分こいつは俺の弟の晶矢だ。昔から少し煽るとボロが出てしまう所まだ直ってなかったんだな。


仁「俺か」

俺は少し戸惑ってしまった。目の前には大切な弟がいるが悪霊になったことをまだ信じたくないと言う心が俺にある。


仁「仁。三栗谷仁と言う。」

そう言うと晶矢は驚いた顔をした。どうやら本当に俺の弟のようだ。


晶矢「そうか、兄ちゃんか。」

一瞬悲しげな顔をしたが表情が元に戻りこちらに向き直った。


晶矢「バイバイ兄ちゃん。」

攻撃してくる。俺は気功を使い避けている。


ガキン

俺が腕で止めた。


晶矢「兄ちゃん本当に人間?」


仁「人間だよ。」


晶矢「本気で行くよ。」

晶矢の妖力が溢れてくる。どうやらここからが本気らしい。


さっきまでとは明らかに速さと力が上がったことで威力も桁違いとなっている。


パスン、ザクッ、グサッ


晶矢の攻撃により服が切れ、肩に刺さり、脇腹を抉る。


全身切り傷や刺し傷で身体中から血が滴り落ちる。


俺は改めていま相手にしている奴は晶矢ではなく悪霊だと感じた。


晶矢には悪いが人に危害を加えた悪霊は滅さなければならない。そのために俺たち陰陽師が存在する。


気功で近づき攻撃をするが2本の手で防がれてしまう。


仁「妖撃」

俺が放った妖撃が晶矢に当たった。だがすぐに傷口が再生した。


柚と雫を出す。

俺と雫が近づき2人で攻撃する。攻撃を防いだ片方の手が千切れた。


そこに柚が雷撃を撃ち込む。

バン

何かが破裂したのではないかと思うほど強烈な音が響いた。がまだ晶矢は立っている。


そこに俺が蹴りを入れた。隣のビルまで吹き飛んだ。


この周りは悪霊がたくさんいるため妖霊省の職員か悪霊しかいない。


血が足りてないのか頭がクラクラする。


晶矢「兄ちゃんが俺相手にここまで闘えるとは思ってなかったよ。」


仁「俺もまさか弟がこんなに強い悪霊になるとは思ってなかったわ」

少しだけ煽る。


晶矢「はぁ!ぶっ殺す。」

正直な所、晶矢に勝てるかはわからない。


だけど少し煽れば俺を殺しに来るから逃げられずに済む。


晶矢が距離を詰めて尻尾で攻撃してくる。

グハッ


尻尾の一撃は腕よりも重い。


仁「気術束刻きじゅつそっこく

相手を縛る拘束系術である。


仁「妖撃、雷撃、気術爆炎龍」

爆炎龍はその名の通り龍が炎を吐く姿をモチーフにした技だ。


晶矢「熱い、熱い。痛い、痛いよお兄ちゃん。」

晶矢の悲痛な声が聞こえる。


晶矢「なんで?俺たちが人間を喰うことで人間の犯罪件数が減ってるじゃん。俺たちは悪霊が憑いてるやつしか食べてないのになんで攻撃するの」


仁「悪霊が憑いている人でもその人が絶対に犯罪をするとは限らない。」


晶矢「でも絶対にしないとは言えないでしょ。」


仁「そうだよ。でもこの世界に悪霊が憑いていない人を探す方が難しい。お前も見ただろ。人間に憑いている悪霊の数を。」

晶矢は黙り込んだ。


仁「それに俺に憑いている悪霊がお前には視えてるだろ。」


晶矢「ああ。最初は見間違いかと思ったよ。そんなに妖力の強い悪霊を視るのが久しぶりだったからね。」


仁「俺としてはお前は大事な弟だから殺したくないから悪霊を絶対に発生させないと約束してこのままどこか行ってくれないか?」


晶矢「やだよ。俺が強くなるには兄ちゃんを喰う方が良さそうだからここで殺す。」


起きてるか玉藻。


玉藻「力を貸せと?」

そうだ少し力を貸してくれないか?


玉藻「わかった。じゃあ報酬はなんだ?」

こいつの悪霊喰べていいぞ。


玉藻「弟でしょ。よいのか?」

いいよ。弟を楽にしてあげてくれ。


玉藻「わかった。力を貸そう。」

助かる。あと、俺の血を止めてくれてありがとう。


玉藻「よい。気にするでない。」

俺は晶矢に向き直る。俺に妖力が流れて始める。


晶矢「いいねいいね。兄ちゃんもっと強くなったじゃん。殺し甲斐があるよ。」


俺は妖力で気功を使った。気で気功を使う時とは違い妖力の方が身体が驚くほど軽くなる。


俺が晶矢との距離を縮めそのままの力で蹴る。晶矢は防いだが血が滴る。


晶矢「いてぇ」


仁「妖術呪物殺ようじゅつじゅぶつさつ

でっかい悪霊が晶矢を包み込んだ。


妖術呪物殺ようじゅつじゅぶつさつは悪霊が相手を包み、気や妖力を消耗させながら身体にダメージを与えることを同時にする術である。


晶矢が叫び声をあげている。

晶矢「助けて助けて死にたくないよ。」


だが俺は緩めない。

何分経ったのだろうか全然気絶しない。流石の生命力である。


晶矢「助けて助けてやだよやだよ。兄ちゃん」

まだ元気なようなので込める妖力を強めた。


晶矢「たすけてたすけて」

晶矢はその言葉を最後に静かになった。


俺は呪物殺を解き晶矢に触れる。

仁「玉藻、この身体の悪霊だけ喰べれるか?」


玉藻「私を誰だと思ってるの。余裕よ。」

そう言い黒いモヤが晶矢の身体を纏わりついた。


所々、ブチッやグチャグチャなど擬音が聴こえる。


正直俺はこの音が苦手だ。生々しすぎるし、悪霊と戦っていると何が起きているのかが容易に想像できてしまう。


10分ほど経っただろうか玉藻が俺の身体に戻った。


突然、身体が焼けるように痛みに襲われる。

俺は声を出すことができずに、苦しさと痛さのあまり記憶を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る