鳥弟王の記憶~御礼~
「ありがとう...」
それはあなたの唇から読み取った言葉...
それを言おうとしたところでこの目が捉えた。
しかし...声を聞くことはなかった。
そう...それは私の最期...
私の翼はもぎ取られて、地に落ちてゆく前の瞬間だった。
それは最後にあなたを目にした光景になった。
...
ありがとうとは何だ。
そのような言葉を言われる資格なんてないのに...
私は何もしてやれなかった...
というか初対面だぞ!
私は木の上に身を細めたある日...たまたま叫び声が聞こえて、
空を飛び回ったときに見かけただけだった。
目撃したのは人間の女性が攫われたところ。
相手は...!?その容姿だと私でも知っている...あの名を全世界に轟かせた魔王...
攫われた女性は知らない...確かに麗人だが、攫う理由はそれだけなのか?
分からないが、そのまま放っとけない。
鳥の王としてここで悪行を見過ごすわけにはいかないという理由で助けると決めた。
だが...失敗した。
というより何もできなかった...
あの魔王の前にしては私は自分の無力さを思い知らされた。
鳥の王としてあまりにも不甲斐ない...無様な戦いだった。
元...鳥の王か...
兄さんと一緒に
そのときは初めて自分の無力さを思い知らされた。
それ以来兄さんと会えなかった...いや、会わないことにした。
どうせ会ったとしても自分の至らなさを痛感するだけ...
兄さんは私より重傷を負ったはず...まだ存命かすら...
とにかく自分は無力だと知りながら、それでも魔王に挑んだ。
疲労で劣勢になったことは事実だとしても歳のせいだという言い訳はしたくない。
結果は物を語る...敗者は私だ。
そんな敗者の私に御礼をされる方がおかしい。
なぜあなたに御礼を言われたのかずっと考えていた。
見ず知らずの人を助けようとしてくれるから?
危険に晒される人を助けようとしてくれるから?
それなら、助けてから言うべきの言葉だ。
そんな言葉を言われても無念に感じるだけだ...今でも。
その後、彼女の夫である王子様が瀕死の私を見つけて、声を掛けられた。
自分の妃を探すという説明をして、私は魔王が向かった先の方向を教えることになり、
そこで私の役割は終わるはずだった。
王子様にも御礼を言われた。
今回は簡単だ。彼が探しているあなたの行方の手がかりになりそうな情報を教えたことに対しての御礼だ。
しかし、それだけじゃない。
見ず知らずの人間のために必死に戦ってくれて、賞賛に値すると言われた。
だから、それも含めたの御礼だ。
...彼の解釈は間違ってはいない。ちゃんと理由がある。
それは私に相応しいことかと聞かれると、聞くまでもないだろう。
私はただその御礼を受け取り、彼らに見舞われたままで息が絶えた。
例え...あなたは助けられ、王子との再開が果たせたとしても...
私の死後で勇敢さが賞賛されたとしても...
私の無念が晴らせるわけではない。
ずっと引っかかっている...
気になる...
ずっと喉につっかえている...
その時のありがとうという言葉を...
敗北してあなたが救えなかったあのときからずっと引きずっていた...
でも不思議なことに...
言われたあのありがとうという言葉を思い出すだけで不甲斐ないな自分も救われたと感じ始めた。
そうか...御礼を素直に受け止めればよかったかもしれない。
それが分かるにはあなたはもうこの世界にいない...
でも、私はまだ生きている。
精密に言うと、この記憶を引き継いで別の者の形に変わった。
私は、そのときの御礼を勝手に【恩義】だと定義した。
例えあなたに返すことはもう叶わなかったとしても、
この恩を返す方法としてはまた別の者に...別の誰かに...
この自分が納得できる方法はこれしかない。
だから、今度こそ絶対に守りきってみせる!
そう...勝手に守ることにした。
私は何の能力を持たない。
引き継いだのは記憶だけ...
だから...正真正銘無力の私ができることは限られた。
そしてついに...ある能力のない
あなたの居場所を突き止めたことを成功した。
...
小さな喫茶店の中で複数人の男性に銃を向けられて、大人しくするように言われたマスターは目を閉じて昔のことを思い出した後、翠猿と名乗った男性に対して、一旦閉じた目を開けてこう言った。
「悪いな...その情報は死んでも言わないことにしたんだ。」と言い終わった途端、彼の姿が男性たちの前から消えた。
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