邂逅(オフ会)

場所はあるファミレスに変わる。

その時間帯ではあまり客がまばらに座っている。

割と静かな雰囲気の店内で一人の男性が座って黙り込んでいる。

目を閉じて、瞑想にでも入ったかのように外の世界から遮断している様子だった。

彼のその状態を現実世界に引き戻すかのようにある人から声を掛けられた。

「お待たせしました。こちら唐揚げ定食になります。では、ごゆっくりしてください...」

と店員が料理のプレートを男性の前にゆっくり置いてから言った言葉と共に去って行った。

男性は目を開けて、目の前にあるものを確かめた。


あ...どこにもある唐揚げ定食だ。

でもなぜかこのような【普通】に惹かれたかのようにずっと見つめておきたい。

決して唐揚げが好物でもないのに...

とりあえず...食べようと思った男性はお箸を取り、合掌していただきますと小さな声でつぶやき、目の前の料理を食べ始めた。

...美味しい

これは恋しい味というわけ...ではないのに...なぜか心に染みる。

ずっとさっきまで感傷に浸っているような思いで唐揚げ定食を食べた男性を遠くから見た店員は、

同僚にこそこそ話している。


「あのお客さん、すっごい顔...普通の唐揚げ定食にそんな顔になるのか?」

「その見た目だと...もしかしたら刑務所から出てきたばかりと...か?あれだよ。シャバの空気がうまいのあれ。久々にこういうまともな料理が食べられて感動したりして...」

「あ...言われてみれば、ドラマとかで見た雰囲気とか似てんな。顔はちょっと怖いし...というか濃い...日本人?」

「外国の人じゃない?」

「と言っても普通に日本人みたいにいただきますをやるし...」

「教わったんじゃない?知らないけど...」

という会話が続いている中...来店客が入ってきたため、会話は一旦終わった。

さっき話した店員の一人はそのお客さんに出迎えに行った。


「いらっしゃいませ...1名様ですか?」

「いや...待ち合わせなんだ...すでに店の中にいると思うが...知らないか?」

「えーと...あ、2名様の予定の方ですね。こちらへどうぞ。」と言った店員はそのお客さんをある席に案内した。

その席にはすでに一人のお客さんが座っている。

そして、

「ご注文はタッチパネルでお願いします。では...」と言って去って行った。

その店員さんはお客さんに背を向けて去った後、眉をひそめながらさっき一緒に会話をした店員の元に向かった。

そしてまた会話を再開した。

「おいおいおい...なんだ?そのお客さん。待ち合わせのお客さんと真逆じゃないか...」

「あ...驚いた...なんかヤバそうな連中と待ち合わせするかと思ったら、あっちのお客さん...白いスーツだ。プラスイケメンで...ホスト?」

「いやいやいや...ホストはこんな場所に来るか?違うか...来たとしてもそんな服を着て来ないと思う。」

「スーツ高そうだ...」

「ますます気になるじゃないか...」とここで注文が入ったという音が鳴った。

「あの席だ...注文は...え?」


...

一方的に興味本位で見られた二人はどちらかというと、

片方の男性はまだ唐揚げ定食を堪能しているかのようにゆっくり噛んで味わっている。

もう片方...白いスーツの姿で来店した男性はタッチパネルを操作してから、それを置いてやっと待ち合わせの相手に話しかけた。

「こんな現実世界で出逢うのは初めてですね...Axeさん。」

しかし、Axeアックスと呼ばれた男性はまだ食事に集中しているのか聞こえないみたいだ。

「ここで無視か?こんな私を無視するとは天罰が下ることを承知した上の行いだ。覚悟はよろしいかい?」

それでも、男性は黙ったままでただ最後の唐揚げを口に運んで、最後の晩餐を食べたかのようにゆっくり噛みしめた。

それを見た白いスーツの男性は少し不機嫌な顔をして、その男性が完食するまで待つことにした。

そして、やっと定食を食べ終わった男性はまた合掌をし、ご馳走様でしたと小さな声でつぶやいた。

そこで男性は相手の目を見て話し始めた。

「とても美味しかったです。」

「あ、そう...それならよかったね...」

「改めまして...始めまして...Axeです。今日はお時間をいただき...」と言ったAxeだが、途中に白いスーツの男性に止められた。

「ご託はいい...用件を言いたまえ。」

「...では、手短に話しますよ...Narayaさん。

もともとと言えば、私もあなたの化身アヴァターラだ。あなたなら...すでに分かったはずよな。

教えてくれ...

神々は私の...特に羅亜夢ラームに何をさせるつもりですか?」

とここで店員さんがすごく人類にとって重要そうで大変な話題を割に入って、あるものを置いた。

「お待たせしました。スペシャルパフェです。では...ごゆっくり...」

店員が去った後、Narayaナラヤと呼ばれた男性は嫌みも混じった笑顔でAxeにこう言った。

「さっきは待たせるんだ。このパフェとやらをゆっくり食べながら、ゆっくり話してみようじゃないか...ね?Axeさん...いや、我が化身【斧を持つ者】よ。」と言って、スプーンをパフェをすくってから...一口食べた。

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